第5話 炎の指輪
「誰だっ!」
突如現れた半透明の防御膜に弾かれた仲間を見て、大剣を眺めていたジェームズ・アマンドは鋭い殺気を放ちながら振り向いたが、茂みの中から出て来たレオニスたち三人を確認すると殺気を緩めた。
「ふんっ、若造が三人か……、何か用かな? お若いの」
持ち前の嘲るような口調だが、目では『さっさと消えろ』と命じている。
「お前たち、サビエフの人間か? アメザスで何をしている? 通行証はあるのか?」
「おやおや、アメザスではこんなお若いのが検問官なのかな?よっぽど人手が足りないようだ、お前たちも職にあぶれたら雇ってもらうといい」
「
レオニスの詰問を嘲笑で返したジェームズたちは、レオニスたちを森遊びをしている地元の青年とでも思っているのだろう、完全に舐め切った態度だ。
「俺は検問官ではない、ヤメス城主アンドリュー・ラフリスの次男、レオニス・ラフリスだ! 我が領内に許可なく立ち入る事は許さん!」
「なにっ!?」
レオニスの尊大な物言いに怯んだ騎馬隊の連中とは逆に、ジェームズは値踏みするような目でレオニスを一瞥する。
「ふふっ、そうか、お前、アンドリュー・ラフリスの息子か、はっはっは」
「何が可笑しい!」
「いや、失敬、そうか、お前がレオニス・ラフリス…二刀流とかいうお遊びをやってるお坊ちゃんか」
「なんだとっ!」
いきり立つレオニスを小バカにするように、ジェームズが続ける。
「そう怒るな、お坊ちゃん。そうだ、ひとつ俺が手ほどきして差し上げよう!」
言うや否や、大剣を抱えているとは思えない速度で飛び込んで、上段から振り降ろした。
『キィン!』
すんでの所で剣を抜いて大剣を受け止めたレオニスだが、細身の体に似合わぬジェームスの力と大剣の重さに、刀を支える二本の腕は悲鳴を上げている。
「おっと、お前たちは動くなよ」
ジェームズが目線を動かさずに指示を送ると、チャベスとジュリエットを数人の部下が取り囲んだ。
「一刀を両手で持っては魔法も使えまい?」
「クッ」
「大方、これまでは自分より力で勝る相手の剣は躱し、速力で勝る相手は一刀で受けきっていたんだろうが……、箱庭でのお遊戯ばかりでは思いもよらなかっただろう? 世の中にはお前より速くて強い人間など山ほど居る」
レオニスは
何も言い返せない
「レオ! 落ち着きなさい!」
「ふっ、お嬢ちゃんに
挑発を受け流したレオニスは、ジリジリと身体をずらして剣を握る右手をジェームズの目の前に
ゆっくりと親指を
「
「貴様っ!?」
レオニスの指から放たれたのは静電気の様な弱々しい火花だったが、不意に目の前に現れた一瞬の火花に、ジェームズは慌てて飛びのいた。
「貴様! コケ脅しを!」
「あぁ、コケ脅しだ! でも臆病者にはちょうど良かったな!」
思わぬ
その構えを見て、今度はレオニスの顔色が変わる。
(二刀流だと!? こいつ、何者だ!?)
その姿は三年前に見たウォールナイツの指揮官、アメザスの双刀ことショーン・アマンドの生き写しだ。
しかも、その剣気はショーンに匹敵するほど強大で、かつ氷のように冷たく鋭い。
ジェームズの顔に張り付いていた笑みは消え、獲物を前にした蛇のように舌なめずりをしてレオニスに殺気を送りつけている。
「お前に真の二刀流を教えてやろう、俺様をコケにした事、あの世で存分に後悔するがいい!」
そう言いながら、ジェームズは二本ナイフを持った手を広げ、両側から挟み込むようにジリジリと距離を詰める。
(負ける!)
瞬時に力量差を読み取ったレオニスは二人に向かって叫んだ。
「ジュリエット! チャベス! 逃げろ!」
「逃すな!」
ジェームズはレオニスの叫びを打ち消すように、短く部下たちに指示を出す。
(くっ、万事休すか……)
その時、レオニスの目に広場の中央でうずくまっていた銀髪の女性が立ち上がる姿が映った。
「神よ、どうか、私に力をお与えください」
その女性メアリー・シルバートンは、懐に入れた指輪【ブルー・エメラルド】を握り締めながら神への祈りを
レオニスとメアリーの視線が交錯した瞬間、レオニスが叫んだ。
「ジュリエット! チャベス! 伏せろ!」
レオニスを信頼して
「なに事だっ!」
驚くほどの反応で炎を避けたジェームズだったが、狼狽の色は隠せない。
転がりながら後ろを振り向いたジェームズが目にしたのは、広場の中央で美しい銀髪を振り乱して仁王立ちするメアリーの姿だった。
「娘っ! 何をした!?」
驚きを隠せずに無防備な背中を晒したジェームズに、ヒョードルが大剣を拾って襲い掛かる。
「ぬうぅん!」
横っ飛びに飛びのいて転がりながら、間一髪で剣を躱したジェームズが再び立ち上がろうとする所に、メアリーの手から再び
「むうぅっ!」
半身を炎に包まれ、転がりまわって木の陰に隠れたジェームズの前に炎の壁を作ったメアリーは、
「そこの者、帰ってセルゲイに伝えなさい! 父上の身に何かあったら私は絶対にお前を許さない! 氷の神に誓ってお前を滅ぼすと!」
半身を焦がしたジェームズは、その言葉を憎しみと怒りに身を
「なぜセルゲイが貴様如き小娘に執着するのか分からなかったが、その指輪が理由という訳か! セルゲイめ、俺に黙っていやがったせいでこのザマだ! いいか小娘! この火傷の礼は必ずしてやる! それまでせいぜい長生きするんだな!」
セルゲイは、炎を逃れた馬の一頭に
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