西木皐月
ぜろ
それが起きたとき、
皐月らの暮らす施設では、掃除洗濯といった基本的な家事は当番制で行うことになっている。
水音と、そして子どもらが意味なく奇声を発するのが日常なのとで、皐月が気付いたのは、同じ当番の少女が炎に包まれてからのことだった。
隣で声を限りに撒き散らしながら燃え崩れ、その火が床に燃え移りそうになっていることに気付いて洗物の水をかけて、ようやく、皐月は異常を誰か――職員の誰かに報せることに思い至った。
だが、何故あれだけの声を発しながら誰一人として様子を見に来なかったのかにまでは、思い及ばなかった。
炊事場を抜けて皐月が目にしたのは、さながら、地獄だった。
子どもらが泣き
火柱が二つ三つと上がり、大きさとそこにない顔触れを見取ったのか、職員が燃えているのだと考えるまでもなく悟った。
今度は、水をかける気力も起こらなかった。
目の前で、他に行くところもなく暮らしていた「家」が燃えていく。ともに生活していた「家族」の命が危機にさらされていく。
麻痺した心の片隅で、だが、皐月はそのとき、――やっとここを出られると、そうも思っていた。
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