幕間
*
「今更だけど、本当、お見事だね。半分くらいは、返り討ちに合うかなって思ってたのに」
「残念ですか」
「うん、ちょっとね」
優しいとさえ言えそうな笑みを浮かべる
集会場所に使っている会議室には、もう二人しか残っていない。
さっきまでいた子どもらは、それぞれの部屋に戻ったか、どこかで不満を
私設の警邏隊を能力のある子どもらで作るという話が出たとき、飛鳥の出した条件があった。
一度、襲撃劇を演じる。
先ほど終えたそれのために、わざわざ、
和哉ではないが、乱闘になって誰かが怪我をすることも考えていたというのに、決着はあっさりとついてしまった。
持ち出した武器はポリウレタンの棒で、それで急所を打たれたり殴られたりすれば、速やかに「脱落者」として拘束する。
実働隊は飛鳥と
サイバーテロ防止のために、専門家に頼んで自社サーバーをハッキングさせる。防犯対策を高めるため、泥棒に入るよう頼んでみる。つまりは、そんな
説明を聞かされた襲われた面々は、呆気に取られていた。
「でもこれで、弱点はわかったわけだ。ありがとう、飛鳥」
「弱点って言うか、無茶だらけですよ。ちゃんと、警備会社とか警察とか、専門家呼んで訓練してもらってください。能力の種類によっては連携の取りかたってのもあるし。素人がぞろぞろ
「うん。しばらくはお休みだね。飛鳥は、訓練つけてくれないの?」
「俺も素人ですってば」
「そうかな?」
「そうです」
首を傾げる和哉は、テレビで見た二枚目俳優のように絵になる。そうして、ふっと
「
「ああ、カズさんの予想通りでしたね」
「怒ったでしょ」
「ってか、泣かれるかと思いました。
窓の外を見遣ると、真夜中でとっぷりと闇に沈んでいる。
会議室も、二人以外が出払った時点で一つを残して電気は消しているが、それでも、ガラスには闇に重なって飛鳥自身も映る。二人をあれだけ傷つけながら、飛鳥は、笑っていた。
窓ガラスに映った和哉が、軽く眉をひそめる。
「本当に、君も出て行っちゃうの?」
一郎や
一緒に行くと言って来るだろうかという予想には、半分は期待も混じっていて、飛鳥としては苦笑する他ない。もしそうなったら、肯いてしまいそうだ。
「はい」
「それは、僕のせい? 僕が、皆を連れてきたから?」
穏やかな声に、飛鳥は首を捻った。
「まあ、そうと言えばそうですけど。カズさん、気付いてますよね?」
不意に、和哉の顔から表情が抜ける。
能面のように平らかになった顔は、逆に、笑っているように見えた。皮肉気な、微笑をたたえているように。
「――僕らは、似ているね」
「はい。似てるものは、反発するか同化するか。俺は、これ以上増長させたくないんですよね、この性格」
飛鳥と和哉は、人に頼られ、そのためになることで自分を立たせようとしている。
それ自体はそう悪いことでもないだろうが、この状況下で、壊れかけ、もしくは一度壊れ、飛鳥らは危ういところに立っている。
それぞれに自覚しているからこそ、一緒にいるのは
「でも、僕らが揃えば無敵な感じじゃない?」
「まあそれはそうなんですけど。ただ俺、結構執念深いんですよね。根に持つっていうか。だから、イチを襲うような奴ら
「なんだ、知ってたんだ」
「割とあっさり吐いてくれまして。あれって、事前調査ってやつやったんですか? 今後はないですね?」
「うーん、まあね。そっか、許してくれないか。残念だな」
笑顔を取り戻した和哉に飛鳥も笑みを向け、赤い腕時計に視線を向けた。
「俺らも、そろそろ寝ますか」
「そうだね。おやすみ、飛鳥。引越しまではよろしく」
「までって、多分、その後も結構行き来あると思いますよ? ここの分所みたいな形になるわけでしょ」
「あ、そうか。じゃあ、これからもよろしく、だね」
「ですね」
顔を見合わせ、二人は笑った。
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