幕間
*
かけられた鍵の音を背に、
開いた眼には、景色がわずかに、違って見えるような気がした。そんなはずがないとは、十分にわかっているのだが。
ああ殺伐とするなあ、と、胸の内で
急ぐでも遅らせるでもなく、真っ直ぐに、先ほど後にしてきた場所に向かう。
おそらくは「遭遇」の混乱で投げ出された倉庫だろう。どこも
中に入ると、青年たちはあのまま、そこにいた。
「なんや、逃げてなかったんか」
「て、め…っ」
ぴくりとも動かない者が数人、
比較的元気そうな一人が
いつの間に、虚勢を見破るのが上手くなったのか。そして、暴力に
声は無視して、
「お前、前にも会ったな。二度目や。わかってるな?」
「…それが、どうした」
へえ元気、と呟いて、飛鳥は少し顔をしかめた。頭が痛い。男の顔を殴ると止んだ。鼻くらい折れたかもしれない。
「仏の顔も三度までって言うけど、俺、そこまで気ぃ長ないからな? 次があったら、息の根止める。とりあえずまだ人殺しはしてないし、できるならこのまま呑気にやっていきたいから、今回は見逃したるけど」
「びびってるだけだろ」
「うん、かもな。でも、死なな止まらへんなら、止める。俺は不愉快になるけど、お前らは何も感じんなる。それでいいっていうなら来ればいい。次は、できるなら攻撃受ける前に打って出るから」
おそらくは精一杯の、
男の髪を離し、両肩をつかみ、背に膝を乗せる。鈍い厭な音と感触がして、関節が
男が、それまでの虚勢をかなぐり捨てて叫ぶ。
飛鳥は、気にせず近くにいた別の男にかかった。さっきと同じように、こちらは仰向けになっていたのでひっくり返し、背に膝を置いて、両肩を外す。
後は、ひたすらそれを繰り返した。
逃げようと、あるいは反撃に出ようとした者もあったが、適当に返り討ちにして、そのあたりはついでに
二十人ほどの肩を外し終えると、ふう、と、飛鳥は溜息を落として立ち上がった。
「ああ疲れた。面倒やから、もうやるなよ。ああ、次は殺せばいいだけやからもっと楽かな。ここ出たら、とりあえず警察には連絡しといたるから、運が良かったら干からびる前に出られるんちゃうか。ん。足は無事やから、自力でどうにかできるかな。どっちがいい」
返事がない。仕方がないから、もう一度、はじめの男を覗き込む。
「連絡しとくか、自分らでどうにかするか」
「っ…で、でて、いってくれっ…!」
「そうか。まあ、じゃあ、頑張って俺の知らんとこで幸せになってくれ」
廊下に出る。せめてもの情けに扉は開けといてやるか、と思ったが、そうするとここを出るときに誰かの目に付きそうだ。肩をすくめて、閉めて出た。
罪悪感はなかった。手と耳に残る不快感も、すぐにどうでもいいことになる。それよりも一葉と春は大丈夫だろうかと、その方が気になった。
目を閉じて開ける。
変わりない景色が、そこには広がっている。
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