中島春

ぜろ

 そのとき中島ナカジマハルは、起きようと思っていた時間より一時間ほど遅く目覚め、母が出勤前に用意しておいてくれたらしい朝食を食べながら、テレビをつけていた。

 こんな時間なのにどうしてニュース番組ばかり? と疑問に思ったのはつかで、すぐに、事態の深刻さを知り、知ったものの理解が追いつかず、かじりかけのロールパンを握り締めたまま、ただただ呆然としていた。


「お父さん…お母さん…?」


 どのくらいってか、我に返って取り出した携帯電話は電池はあるのにつながらず、家の固定電話に切り替えて両親の携帯電話や勤務先にかけたが、出る者もなく、一向にその行方は知れなかった。

 生きているのか、あの炎にまれてしまったのかすら、わからない。


 ――ああ、どうして。


 起きようと思っていた時間に目覚めていれば、少なくとも、二人を見送ることはできたのに。寝過ごして、そのせいで最後の別れもできないなんて笑えない。

 そう考えてから、二度と会えないと決めていることに気付いて愕然とする。

 テレビの中で繰り広げられるのは、生々しいのにどこか作り物めいた、人が炎に焼き殺される光景。

 実感のかないまま、春は一人、取り残されて部屋にいた。

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