石動蔵之輔
ぜろ
昼の半ばに、明け方に眠りについた蔵之輔が空腹らしきものを覚え、そろそろ起きようか、とごろごろしているときに、その電話は鳴った。
「蔵之輔君? 雅さんが亡くなられたの。例の発火で――」
唯一、生者の中で親愛の情を持っていた祖母が死んだと知らされた。
嫌いな名前を呼ばれたことも、「例の」というのが何を指すのかわからないことも、全て考えられずに立ち尽くした蔵之輔は、気付けば、受話器を置いてテレビをつけていた。
民放のワイドショーで見たことのあるキャスターが、何かがなり立てていた。人体発火とか原因不明とか騒いでいる。が、理解が追いつかない。
やがて、画面は切り替わった。録画映像のようだ。
人が歩いている。道路のそれを背景に、先ほどとは違うキャスターが天気予報を口にしていた。それが突然、人込みの中に火柱が上がり、獣めいた悲鳴が響き渡る。
カメラは、慌ててそちらに向けられた。
燃え上がったのは人で、それまで同じように歩いていたはずの人々は、泣き
そこで突如画面に、水流が登場する。
カメラが向くと、先ほどまでのにこやかな笑顔をかなぐり捨て、必死の形相でどこかから持って来たホースで水を浴びせる女性キャスターがいた。
だが火は消えず、逆に、火柱は増えている。
今やすっかり黒くなって炎のかけらも見えない、人だったものに泣きながら水をかけていたキャスター。彼女も、突然の炎に包まれてしまった。
そこからスタジオに戻った映像と出演者たちによって、それが朝の八時過ぎのことと知る。
祖母は、正午頃だったらしい。それから二時間ほどが空いたのは、混乱と、電話がつながりにくくなったためだと、施設の人は言っていた。
意外に、話はちゃんと覚えていた。
呆然と蔵之輔は、ノストラダムスの予言、何年も遅れたけど成就したんかなと、思ったりもした。
そして、とうとう一人になったのかと、予定ではせめてあと数年は先だったはずの事態に、泣けばいいのか怒ればいいのかもわからなくなっていた。
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