第1話 壊れた形

高校生2年生の春。

いつもどうり朝早く起きて、いつもどうり登校する


「今日から新学期か...」

「気が重いなー」


友達がいない僕としては、学校という機関はただの強制的に教育を受けさせられる最低限の自由をくれる牢獄と大差無い。


「はぁー」


僕のため息で足音が消されていたのか、いつの間にか後ろにガタイのいい男が立っていた。


「よ!相変わらずため息おおいなー」


こいつは上野勇志。

数少ない友人であり、唯一の親友である。

先程友達がいないと言ったな。あれは嘘だ。

例えるなら、友達に「テスト勉強した?」と聞かれて「全然してないよ」と不真面目アピールしているようなものだ。

良い方向にも悪い方向にも人は見栄を張りたくなるものだと僕は思っている。


「!!びっくりした、気配消して後ろに立つなや!」


「別に気配消して近づいたつもりはないんだけどよー、まだ高校なれないのか?」


多分、いや、絶対なれることはないだろう。


「別に高校なんて楽しむ所じゃないから別にいいんだよ。」


「うわ、出た」


「うわって言うな!」


今日も変わらず気だるさを感じながら学校に登校する。


「そういや、勇、体つきまた良くなってない?」


別にいやらしい意味ではない。

男が好きなわけないだろ。

期待したそこの腐女子ども、残念だったな。

そんな馬鹿みたいなことを考えていると


「いや、まぁ、部活が忙しくて...」


あれ?部活入ってたかな?

僕が忘れているだけだろう。

少し挙動不審な言い方も気になるが別にいいだろう。

そんな他愛もない雑談しながら歩いていると、


「あ!日直の仕事忘れてた!悪い先いくわ!」


「りょーかい、また転ぶなよ」


僕がまた転ぶなよと言った理由としては学校に来る前、まれにだが、いや、たまに色んなとこから血を出していることがある。

いわゆるドジっ子である。男なので「娘」ではなく「子」だ。

あぶない、あぶない。

勇が女の子として生まれてきてたら危うく惚れるところだった。

まぁ、その場合は話してもいないだろうけども。

勇と別れてからまもなく、前から見慣れた女の子が走ってきた。


「やっほー!完璧美少女の登場だよ!」


「なんだ、UMAか」


いてっ!

パーで頭を叩かれたはずが まるで石を投げられたような痛みが走った。

ほんとに女子か!

頭を殴られたと言った方が正しい。

危うく倒れるとこだったぜ。


「女子にUMAは失礼だよ!」


僕だってそれくらい分かっているただの照れ隠しだ。


「すまんすまん、それより手に何持ってんだ?」


「え?さっき男の人に『これパンだけどおじさんおなかいっぱいだから上げるよ』って」


おいおい、怪しいヤツじゃねーか。


「大丈夫なのか?それ、怪しいもの入ってるんじゃない?」


「大丈夫、大丈夫。美味しいし。」


話しながら食べてんじゃねー!


「こいつに何言っても聞かないか...」


昔から、言っても聞かないやつだったっけ。

ん?今何時だ?


「桜葉、今何時?」


「ん、ごっくん、8時25分」


「やべっ!遅刻するぞ!」


「ちょっといきなり走らないでよ!、まってー!」


ちなみに、待てと言われても待たない。

傍から見ればただの屑だが、そういう訳じゃない。

気を抜いたらすぐ抜かされるからだ。

そんなこんなで遅刻ギリギリで学校に着き、桜葉とはクラスが別なのでここで別れる。

ちなみに勇とは2年連続同じクラスになった。

1人知っている人がいるだけで安心感が全然違うな。

やはり膝と何故かおでこから血を出していた。

僕はそんな勇を見てまたため息をついた。


「はあー、また転んだの?」


「今日は派手にいっちゃって」


「忙しい奴だな」


内心、勇のようなイケメンが「普通の人」より劣っていると少し落ち着く。

「普通の人」というのは例をあげると僕のことである。

それからいつもと変わらず、つまらない授業を受けて放課後になった。


「すまん孫、先帰ってくれ、用事あるから」


「用事?また家の仕事か?」


「そうそう」


勇は家の仕事が忙しいらしく、いつもは一緒に帰るのだが、たまに1人で帰る時がある。

前になんの仕事をしているのか、と聞いたらお茶を濁された。

言いたくないのだろう。

きっとそういうことだ。


「あ、そういや下駄箱で桜葉が待ってるって言ってたぞ」


「りょーかい」


今日出された課題を憂鬱な気分になりながらバックへ詰め、下駄箱へと向かう。


「やっほー」


「うす」


腐れ縁のこの2人にはこれ以上の会話は必要なかった。

ん?


「今度は何持ってんだ?」


「ハンバーガーとジュースとこないだ買ったゲーム、新作なんだよ。」


「また怪しいおじさんに貰ったんじゃないだろうな?」


「大丈夫だって、今度はお店で買ったから」


「そうか」


よかった。

また怪しいおじさんから貰ってたらそいつのことを殴り飛ばしてやるとこだった。

そこから何事もなく、非日常的なことも無く無事帰宅した。

ここでようやく気づいた。

何かがおかしい。

いつもと違う、日常では無い、非日常。

今日、桜葉はどうだった?

話し方は別に問題ないだろう。

朝も何も無かった。

だが、もやもやというか心がざわついて何かを見落としている。

放課後何を食べていた?

ハンバーガーだ、それは問題ない。

ハンバーガーとジュースとゲームだ。

そうだ、何故気づかなかったのだろう。





















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