4.Start of Fierce battle

「爪さえ出さなければあの子は死なないわ。それよりナメてかかったら命が無いのは私たちの方よ。あの子は、熱帯雨林の狂戦士、ヴィラーゴの一族よ」


前哨戦は終わり.

オオタカはこうしていつも相手の戦力を正確に見極め,ワタシ達に知らせてくれる.

そして彼女いわく,今回の相手は,ヴィラーゴ.


「...Oh my god」


驚愕,唖然,自然と口から洩れる.

正直,マヘリをセルリアンだと思って戦え、と言われた時は正気を疑った.

でもヴィラーゴという言葉を聞き,身の毛がよだった.


南国の空のモンスター,ヴィラーゴ.

ワタシは一度だけ,拳を交えたことが有る.

今回のマヘリと同じ,自分より強いヤツを知りたいって言ってたっけ.

その名は,“オウギワシ”.

ワタシより大きな体を信じられない程の瞬発力で振り回す姿は,数多のセルリアンと戦ってきたワタシでも恐怖を覚えた.

パワーも,スピードも,攻撃力も、ワタシより数段上.

真っ向勝負では全く歯が立たなかった.

だから,あの子には使うしかなかった.

ワタシ達スカイインパルスの努力の結晶である主力戦術,CCMを.

敵を倒すためだけに洗練された,血の通わない拳をフレンズに向けるのは最後まで嫌だったけど,あの子にはワタシの全てをぶつけなければ無礼だと思った.


ワタシは恐る恐る,オオタカに聞く.


「じゃあアノ子は...オウギワシと同格ってコト?」


オオタカは,息を整えて,真っ直ぐな瞳でワタシを見つめなおす.

本気の目ね.

そして,言いづらい事なのね.

もう,大体分かったわ.

オオタカは静かに、力強く告げる。


「マヘリは,オウギワシ以下では、絶対に有り得ないわ」


「All right. ありがとうオオタカ.後はワタシに任せて」


我ながら,余計な質問だったわ.

だって,マヘリがオウギワシと同格だろうと,更に強かろうと,ワタシが全力で相手することに変わりはないもの.


ワタシはマヘリの方を見る.

彼女はオオタカと戦っていた位置で仁王立ちしていた.

荒々しい力とは裏腹に律儀に待ってくれたのね.ホントに面白い子.


「待たせたわネ」

 「ああ,待ちようた.ようやらキャプテンのおでましかや?」


 マヘリは腕組みを解き,無駄な力の抜けた直立姿勢になる.

 ワタシたち猛禽が、獲物に向かって本気で飛び立つ前の姿勢。


 「アンタらの中でもハクトウワシさん,アンタの放つ気迫は別格じゃ」

 「そんなことないわ.オオタカは凄まじい素早さと技術,ハヤブサはフレンズ最速の急降下と必殺の一撃.どちらもワタシにはマネできない.ワタシにできるのは_


_こういう全力と全力がぶつかるタイマンだけよ」


「はっはっは! そりゃーええ! 分かりやすうて好きじゃあ」


マヘリは屈託のない笑顔を見せる.

苛烈な力を持っていても,素朴で素直な心は隠せないようね.

その笑顔は,邪悪な者には到底できないから.


優しい心を持つからこそ,雁の残雪達と上手くやれる.

アナタはやっぱり、フレンズなのね.


やがて,マヘリはその笑顔のまま、一歩,一歩,ワタシに近づく.

その一歩の度に,気のせいか本当か、大地が揺れる感覚がする.


一歩、また一歩。

穏やかな表情の背後に、計り知れないパワーを感じる。


その力はきっと、フレンズ達を遠ざけてしまう。

きっと、孤独だったことでしょう。

それでも、手を取り合うフレンズとして生きるのなら。

その狂戦士の力に溺れることなく、優しく気高き強者の道を歩むというのなら。


その拳と想い、ワタシに受け止めさせてくれる?


「来なさい! 正義の使者、このキャプテン・ハクトウワシが相手になるわ!!!」


その瞬間、マヘリの重心が突然落下し,その強大な翼が大きく開かれる.


「おお,推して参る.行くぞキャプテン殿!!!!」


 響き渡る掛け声と共に,マヘリの姿が消える.

 次の瞬間,地面を蹴ったであろう爆音とほぼ同時に,目の前に現れる狂戦士の影.

 その背後には,抉れた地面を吹きあがる土煙.

 

訓練の成果か、本能か、無意識に自分のみぞおちを腕が護る.

直後,丁度腕を移動した位置に雷のような拳が落ちる.

速い.

本っ当に速い.

それでいて重い.

少しでも気を抜けば,勝敗も意識も一瞬で刈り取られるわ.


やるしか無いわね.

野生解放.

サンドスターを消費し,野生の本能を覚醒させる.

体は七色の輝きを纏い,血潮は滾り,神経は研ぎ澄まされる.

理性を保ったまま,大幅に戦闘力を増大できる.


マヘリの突きの反動を使い,自分の体を回してカウンターの蹴りを放つ.

ワタシの足は弧を描き,マヘリの側頭部を直撃した.

かに思われたが,マヘリもとっさに腕で頭部をかばい,ダメージを回避する.


「野生,解放か」


防御姿勢のまま,マヘリがつぶやく.


「アナタはしないの? その強さでできないとは言わせないワ」

「できる.じゃが,あんまりにも燃費が悪うてのう.残雪さんにも止められとんじゃ」

「そう…じゃあ,その封印,解かざるを得なくしてあげるワ!!!!!」

「面白え,やってみい!!!!!」


互いに、拳を大きく空に振りかぶり,叩きつける。

拳と拳が相撃ちし、七色の輝きが炸裂する。

衝撃で辺りの草が一斉に踊り狂う。


殴った反動、殴られた反動を受けながら地面を蹴り、空へと舞い上がる。

マヘリも同じく、その体を宙に舞わせる。

翼を鞭打つようにしてしならせ、大気を弾き飛ばして己を加速させる。

マヘリも凄まじい加速でこちらへ向かってくる。

相手は体を翻し、その速度を乗せて鋭い蹴りをこちらへと向ける。

腕で防ぐ...いや腕が砕けるだろう。

脚だ。

自分目がけて飛んでくる蹴りを、同じく蹴りで迎撃する。

脚の骨の髄まで、衝撃が伝わってくる。

痛みを無視し、彼女とすれ違う。

戦闘機の風切音のような音が、耳をつんざく。

互いに急旋回し、相手の背後を狙う。

右に左に、上に下に。

視界が歪み、ブラックアウトする程に体を振り回す。

筋肉が軋み、翼からは飛行機雲のようなものが尾を引く。

そういえば、すれ違いざまに見たマヘリの飛翔筋。

私はおろか、オウギワシすら越えるかもしれない。

どうりで,オウギワシ戦からずっと鍛えてきた今のワタシが苦しむわけね。


背後を取り、取られ、攻撃を互いに加え、交わし、防ぐ。

相手はブレて残像しか見えないから、経験と先読みで相手を感じる。

時に蹴りつける地面には、大きなクレーターがいくつもできる。

空は炸裂する七色の輝きで彩られる。

地上から見れば、花火みたいかもしれないわ。


「流石に、力強え...一発一発が、重ってえのう!!!」

「アナタこそ、常識外れのパワーとスピードよ!!」


パワーとスピードはマヘリが上.

100% 野生の,奇跡的な動体視力と反射神経で戦っている.

しかしワタシには,訓練と実戦で得た経験がある.

多少の身体能力の差は埋められる.

総合的に見て,ワタシとマヘリの戦闘力は殆どイーヴン.


 彼女はまだ,野生解放を使っていない.

 でも私だって,CCMをまだ使っていない.


 そんな考えを振り払うように,丁度目の前に迫ったマヘリへとストレートを放つ.

 その一閃をマヘリは肘で弾き,後ろ回し蹴りの軌道をワタシの頭に合わせる.

 雷の鎌のような蹴りを,間一髪で身を屈めて回避する.

 逃げ遅れた髪の毛の先が,ナイフで切り裂かれたかのように両断される.

 ええ,まだ,まだ何とか,この子相手に先読みが通用する.

 マヘリの体は空振った蹴りのため,回転を続ける.

 今しかない.反撃のため即座に距離を詰める.


 その時だった.

突然,視界に影が映る.

それが何か分からぬまま,とっさに頭部を腕で護る.

瞬間,凄まじい衝撃が腕と頭部に走る.

視界に,赤とも緑ともとれる残像が一瞬現れる.

次に視界に入ったのは,恐らくワタシに直撃したであろう屈強な拳.


ようやく理解した.

マヘリは回し蹴りの回転を,裏拳に乗せて追撃したのだ.

しかも彼女の長い腕は,直撃直前までワタシの視界の外に有った.

ワタシの体は,腕のガードごと吹き飛ばされる.


「ッ…!!!」


風を掴み、乱雑に回転する体を止め、体勢を整える

しかし重心を反撃可能位置に移す前に、マヘリは既に目の前迫っていた.

本当に,バケモノね.


マヘリは飛び迫る勢いに足の筋力を乗せ、渾身の蹴りを繰り出す

「戦うてくれてありがとうなぁ、これでお終えじゃア!!!!」

その脚はサンドスターのきらめきを纏う.

これは直撃を許せば、一撃で戦闘不能にされる。

一切の防御も通用しないだろう.

でも,もう回避も間に合わない.


分かったわ.

使わせてもらおうか.

アナタにも,ワタシの全てをぶつけなきゃ,無礼に値するわ.


「なッ...?」


マヘリは驚きの表情を浮かべる。

そうよね。

アナタはワタシのみぞおちに蹴りを命中させた。

寸分の狂いもなかった。

それなのに、ワタシは怯みも痛がりもせず、アナタの懐に飛び込んだのだから。

で、全体重をかけた蹴りを空ぶった今、何もできないでしょう...?


 「が...っは...!」


 反撃される前に、ボディブローをマヘリへと叩き込んだ。

 マヘリはじわりと退き、ワタシと距離をとる。

 やがて追撃を恐れたのか、鈍い視線をこちらに向ける。

 しかし苦しそうに腹部を押さえているその姿に、先ほどまでの余裕は無かった。


 「...何っ、何じゃあ、何しやがった...」

 「"for Cellien Combat Manoeuvring" 。CCMっていう格闘術よ」

 「格闘...術...」

 「ええ。私たちはフレンズとなって、昔とは違う体を手に入れた。ケモノとヒトの特徴を併せ持つこの体も、扱い方一つで強くも弱くも成り得るわ」

 「扱い方...じゃあ、強うなる戦い方が有る言うんか?」

 「そうよ。マヘリ、今からアナタに使う技は、最小限の負担でセルリアンを排除するためだけに作られた技。アナタと対等になるにはこれを使うしかない。これをフレンズ相手に使うのはアナタが二人目よ」


 その瞬間、マヘリの瞳が一瞬不気味に輝いた気がした。


 「...洒落臭ぇ...」


 おどろおどろしい殺気がたちこめる。

 さっきの一撃で気絶させるつもりだったのに、まだまだ元気一杯ね。

 

 「小技でどこまでの事ができるんか、今ここでみせェや!!!」

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