本章
1.強敵夢見る狂戦士
ここはジャパリパーク。島を丸ごと使った超巨大総合動物園である。
規模及び収容種数は世界最大、地球上の全ての動物がこのパークに存在すると言っても過言ではない。
しかしこの場所が普通でないのは、何も規模だけではない。
ジャパリパークには“サンドスター”という、触れた動物及び“動物だったもの”を女の子の姿に変えてしまうという物質が存在している。
この物語は、女の子になった動物“フレンズ”達が繰り広げる物語である。
小高い丘にて,少女の肩まで伸びた茶髪が風になびく.
若干の防具を携えた軍服風の服には,鍛え上げられた体の筋肉が所々浮かび上がる.
遥か遠くの流れる雲を貫く,鋭い視線.
彼女はマヘリ.かつてマダガスカルにて生態系の頂点に位置した猛禽”S.mahery”のフレンズである.
「おーいマヘリ,何たそがれてんだこんなトコで!」
そんな彼女を力強い声で呼ぶ,褐色に白い混じり毛が映える長髪をなびかせる少女.
彼女は残雪.日本でも見られる渡り鳥マガンのフレンズである.
カリスマ性があり賢いので,仲間からよく頼られる.
「マヘリさん,こんな所に居たんですね!」
残雪に遅れてやってくる,黒い筋入りの白髪が美しい少女.
彼女はユーラ.ヒマラヤ山脈を越えて渡りをするインドガンのフレンズである.
大人しく優しくも芯の通った性格である.
「ん,ああ,何の用じゃ?」
マヘリは振り返り際に,訛り言葉を返す.
屈託のないマヘリに対し残雪とユーラは言葉を返す.
「マヘリこそ一人でこんなトコ来やがって.どうした,悩みなら聞いてやんぞ」
「そうですよ,私たち,家族じゃないですか」
この3人は,群れの仲間である.
雁二人と猛禽,それも巨大な猛獣をも貪る鷲一人の奇妙な群れだが,サンドスターはこんな奇跡の群れをも生み出してしまう.
しかし孤高の猛禽であるマヘリには,仲間という概念がなかった.
その為,この群れは家族という形で成り立っている.
マヘリは,空の果てをもう一度見つめなおし,残雪に問いかける.
「のう,大将さん.フレンズの中にゃあ強いヤツも居るんか?」
「んあ,そりゃあー…いるな.沢山」
マヘリの目に微かに興奮が宿る
「そん中でワシより強えヤツ,居る思うか?」
「あー…分かんねぇな.実際戦ってみねェと…」
「…そうか、答えに悩む程のフレンズは居るんじゃな?」
「…ああ.お前も確かに強ェが,ジャパリパークは広ェぞ…?」
残雪は,薄ら笑いを浮かべながら答える.
マヘリは空の向こうを眺めながら,何かに期待するような表情だった.
「ワシゃあ動物だった頃,ワシに勝てるヤツなんざ居らなんだ.じゃが今、この体なってから,アンタらの事知ってから,随分狭い世界で生きとったことを知った」
そこまで言うと,彼女は残雪の方へ視線を向ける.
「じゃけぇ大将,アンタの知る最強のフレンズと手合わせさせてくれんか?」
マヘリは鋭くも,真っ直ぐな目線で残雪に頼み込む.
残雪はその瞳に少し困惑する.
「…気持ちは分かった.だが,最強ってなるとなぁ…誰だ」
珍しく迷う残雪に、ユーラが提案する。
「やっぱり,キャプテンじゃないですか? 残雪さん戦い方教わってますし」
「そうだなユーラ,アイツは最強の一角だ.だがオウギワシやイヌワシも捨てがたいし,陸にはヒグマ,海にはシャチやシロナガスがいる.そん中で最強ってなると…やっぱ戦ってみねェと…」
「決められないなら,それくらいキャプテンが強いってことですよ.良いんじゃないですか? きっとキャプテンなら,喜んで手合わせしてくれますよ」
「まあ,そうだな.確かにフレンズによっては拒否されるかもしれんしな」
ユーラと残雪は少し相談を交わした後,マヘリの方へ振り返る.
「マヘリさん.分かりました.私たちが知る,最強の鳥フレンズさんの所へ行ってみましょう!」
「ああ,丁度セルリアンとの戦闘の稽古をつけてもらう時間だ.行こう,マヘリ」
セルリアン、それはこのパークが持つもう一つの側面。
未知の物質であるサンドスター及びその周辺物質は、人やフレンズに危害を及ぼす怪物を生み出すのだ。危険性は個体によって様々だが、人の技術力が通用しない個体も数多く存在する。
この怪物を“セルリアン”と名付け、人とフレンズが協力してこれを駆除している。
この3人のフレンズもその個性を生かし、しばしばセルリアンを追い払ってる。
マヘリは残雪に稽古をつけているらしいそのフレンズの話を聞き,ワクワクした様子だった.
「面白え.大将の師匠さんなら,ぼっけぇ(物凄く)強かろうな…」
「ああ,皆の最強のヒーローだ.あのキャプテンさんはな」
「その師匠さんは,キャプテン,という名前なんか?」
「んや,キャプテンってのは,群れのリーダーの言い換えだ.お前が私を“大将”って呼ぶようなもんだ.アイツの名は」
残雪は正面を向き直り,背中でその最強の名を告げる.
「ハクトウワシ」
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