第20話 その二十
暗い。床が冷たい。音もしない。寂しかった。人の声が聞きたかった。
綾子はずっと、城のどこかにある地下牢に閉じ込められていた。
三歳の頃からずっとだ。
言葉はその頃に覚えたものしか知らない。
ここから出たかった。
なぜここにいるのかもわからない。
会う人は、一日二回の食事を運んでくる人だけ。
その人とも会話はしたことがない。
もういやだった。
どうしてもここから出たかった。
ふと、黒い影のようなものが見えたような氣がした。
誰かいるの?
いつの間にか、牢屋の戸が壊れて開いていた。
え?
綾子は戸の方にタタタタと走り寄っていく。
やった!やっと出られる!歓喜した。
戸から顔を出し、キョロキョロと見回しても人のいる氣配はしない。
ただ闇の中にぼう、と蝋燭が灯っているだけだった。
牢屋を出てしばらく行くと階段があった。
手を伸ばして壁に触れている指先が冷えた木の肌を感じる。
登っていくと明かりが見えてきた。
もう少し……
出ると光が広がった。
まぶしくて目がいたい。
久しぶりの色のある世界。牢屋で嗅ぐ以外の空氣のにおい。
目からは涙が流れていた。
すぐ近くに男の人が二人ほどいた。
綾子に氣づいてびっくりした様子だ。
「どうやって出てきたんだ?とりあえず下に戻そう」
二人の男が綾子に近づいて触れようとする。
いやだ!
怯えてうづくまる。
また、黒い影のようなものが綾子の横を通り過ぎたような氣配がした。
何もされないから顔をあげてみる。
綾子を捕まえようとしていた男たちの姿はどこかに消え失せていた。
あれ?
それから城から出ようとして、何人かの人間に見つかった。
綾子を捕まえようとした人たちはいつの間にか姿を消していた。
逃げているうちにどこかにいなくなっているのだ。
不思議には思ったが、自分を捕まえようとする人がいない場所に行くことで頭がいっぱ
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