第3話 その三

 子供を放り投げると手に持っていた心の臓を喰らった。

 ベチャリと赤い汁が足下に飛ぶ。

グチャリ、グチャリ。

 顔の半分を血だらけにしながら貪った。

 うまい。

やはり若いと違う。

 赤くなった歯と恍惚とした表情。

 先ほど放り投げた物はわずかだがまだビクビクと動く。

「間に合わなかったか」

声が聞こえた。誰かいるのか?

 後ろを振り向くと光り輝く剣を持った男が立っていた。

「ジュリア、俺がこのでかい奴を食い止めておく。マリアにその子と契約をさせろ。その子を死なすわけにはいかないからな」

「あなた本氣?!そんな大切なことを」

「急げ!」

「何者だおまえは」

「お前に名乗る名はない」

男は目にもとまらぬ速さで向かってきた。




 ジュリアはマリアの手を引いて男の子のそばに近寄った。

 短剣でマリアの人差し指の付け根あたりを切って血を出させた。

 マリアはじっとそれを見ている。

「男の子に飲ませて、それから男の子の血を口に含みなさい」

 言われたとおりにした。

「男の子に口づけをして」

「え!?ママ!いやよそんなの!!」

 なんで知らない男の子とキスをしなければいけないのか。

 しかも初めての。

 さらに誰かに命令されて。

「男の子を生きながらえさせるためよ、大丈夫。今は死んでるようなものだからノーカウントよ」

 そんな問題じゃない。

「マリア急げ!」

 パパまでそんな……ひどすぎる。

 うんざりした氣持ちになった。

「あんた、わたしの初めてなんだから光栄に思いなさいよ」

 何も反応がない。

目の前の命の灯火は消えかかっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る