第2話 その二

桜並木の続く道。

 月が散っていく花びらを照らしていた。

 どれくらい乗っていたのだろうか、つらくなってきた頃。

 野太い声が呵々大笑して近づいてきた。

 あの大男が飛ぶように走って、追いついてきたのである。

 馬に追いつくなどまさに化け物か。

 大男が飛影の横につくと、手に持っていた物を総一めがけて投げつけてきた。

 爺やの生首。

 怖氣(おぞけ)が走った。

 爺やの生首が総一の体にぶつかってから地面に転がり落ちる。

 総一はあまりの恐怖に泣き叫んでいた。

「助けて!」

 大男はフンっと氣合いを入れるや飛影に体当たりを仕掛けてきた。

 横倒しにされ、総一も転がる。

 地面に倒れて呻(うめ)いていると飛影の嘶(いなな)きが聞こえてきた。

 大男は飛影の首をへし折っていた。そのまま首をもぐ。

 飛影は首がないにもかかわらず、足をばたつかせている。

あまりの光景に総一は嘔吐してしまった。

 大男がこちらに向かってくる。ゆっくりと。

持っていた馬の首をドシャリと落とし、その右手からは血が滴り、どす黒く汚れている。

 総一は自分の死を感じ取った。

 殺されてしまう。

 地面にぶつかった衝撃で、体がうまく動かせず這って逃げようとした。

服は土で汚れている。

「うううう」

 足音が近くで止まった。

死にたくない。

 大男は総一をつかみ胸の高さまで上げる。

男のギラギラと光る眼と視線がぶつかる。

 その口元はにやりとしていた。

「嫌だ……」

 総一の目には涙の大粒がたまる。

ひらりと一枚の桜の花びらが視界の上から下へと落ちていった。

 心の臓を右手で貫かれた。

口からあたたかいものが飛び出してくる。

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