綾子
宮上 想史
第1話 物語のはじまりはじまり
韓(から)紅(くれない)が舞う。
パチリ、パチリと音がする。
「若様お急ぎを!」
爺やに手を引かれて訳もわからず急いでいた。
「なにがあったの?」
「謀反でございます」
妹のことが心配になった。
「綾子は?」
爺やは何も言わず、眉根をよせている。
廻りは炎。
長い廊下が階段が柱が梁が天井が燃えている。
煙で前が見えない。眸(め)が痛む。 鼻が曲がりそうだった。
総一は咳き込む。
「袖を口と鼻に当ててください。城を出まするぞ」
なんでこんなことになってしまったんだろう。
いつもの見慣れている場所のはずなのに、今は朱い焰と黒い煙でまるで別の所だ。
一度説明されたきりの使ったこともない隠し通路を通って外に向かう。
バタンッと勢いよく開けた扉から煙と一緒に二人はでて新鮮な空気を吸い込む。
飛影に鞍の用意がしてあった。耳をピンと立てて来るのをじっと待っていたようだ。
「若様」
爺やのがっしりとしたあたたかい手に手伝われて馬の背にまたがる。
総一を乗せて、爺やも乗ろうとしたその時。
「見つけたぞ」
一人の剛の者が隠し通路からのっそりと出てきた。
身の丈八尺はくだらないであろう大男。
筋骨は逞しく、双眸はらんらんとしている。
まさに傑物。
「おぬしだったか……それは!?」
爺やはそう言って総一が見たこともない顔で男をにらみ据える。
大男の左手には人の首のようなものがあった。
それをよく見ると……父上の顔。
口から汁がたれ流れている。
総一はただじっと生首を見ていた。
この光景を目に焼き付けるように。
火の粉が闇に雪の如くちらつき、黒煙が上がる。
ゴトリという音と共に屋根の一部が焼け落ち瓦が割れる音が響く。
「若様生きのびてくだされ」
爺やは一声叫んで、飛影の尻を一打ちする。
「じい!」
爺やの姿が遠くなっていく。
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