♂♀意外な戦士とルール変更

「最終追い込み特訓も明日で最後だな」

「もっと時間があればもっと強くなれるのにね」

一希は腕にグッと力を入れ、力こぶをトントン叩く、続いて太ももを、そして腹筋にも力を入れトントン叩いた。

レーティアはそれを不思議そうに見ていた。

「何してるの?」


「いや、時間があってもこれ以上の筋力アップは大きく望めないかなって思ってさ」

「ふ~ん・・・そうなんだ」

「多少は伸びしろあるとは思うけど、時間を割くなら"技"の方かな」


・・・・・・・・・。

レーティアは修行の内容を振り返ってみる。

「確かに基礎訓練と、実践形式の模擬戦ばかりだったもんね」

コクコク

一希はうなづいていた。


「確かにそれはそれで効果はあっていいんだろうけど、自分の力を最大限に活かす"技"の開発がなかったな。こう、"必殺技"のような物が欲しかったな」

「アニメなんかにあるような必殺技とかって真似出来ないの?牙突とか」


!!!!

レーティアの口から"アニメ""牙突"の単語が自然に出た。

一希は驚きのあまり口は開いたまま固まっていた。


「一希どうしたの?」

レーティアはそう言いながら一希のほっぺたをツンツンつついた。


ふと、我に返る。

「あ、いや、いまレーティアの口からアニメとか牙突とかの言葉が出てきた事に驚いて・・・」

「あ・・・う~ん・・・。なんだが知ってるの!断片的にしかし分からないけど、小さい頃、一希に"牙突"って言いながら箒でつつかれた気がする・・・というかつつかれてた!」

「レーティア覚えてるのか!?」

「なんかよく分からないけど知ってるよ」

一希はなんだが嬉しくて、気がつけば目から涙がこぼれ落ちていた。

「えーー!?なんで泣いてるの」

レーティアは突然の涙に驚きあたふたしていた。


「レーティア、それは人間の時の記憶だよ!」

!!!

レーティアはそれが人間の時の記憶だとは思わなかったので少し驚いた。

「なんか私も人間らしくなってきたって事かな?」

・・・・・・。

あはははは!

「そうなのかもしれない」

一希はとにかく嬉しくて嬉しくて勢いで思わずレーティアをギュッと抱きしめた。

「へ!?」

レーティアは突然の事で届いたが暖かくて優しくてとても心地よかった。

気がつけばレーティアも自然とギュッと一希に手を回していた。


「っと、必殺技だな」

「あ、うん、そうだね」


一希は手に握っている剣を見つめた。

・・・・・・。

この剣の刃は両刃、少なくてもこの剣で牙突は無理だ。

首をひねりながら考える。

・・・・・・。

!!!!

「ア〇ンストラッシュ!」

一希は剣を逆手に持ち腰を落とした。

・・・・・・。

「無理だ・・・。ただただ切りにくいだけだ」


ぷぷぷっ・・・

レーティアは1人でブツブツ言いながら色々試してる一希が面白くてたまらなかった


一希は剣をもたずに、腰をおとして牙突の構えをとる。

・・・・・・。

牙突に関しては、こと大好きだった漫画ゆえに真似事ではあるがそれなりに形は出来上がっていた。

それを思うと一希は辺りをキョロキョロ見回す。

!!!

「あったあった」

そう言いながら落ちていた剣ほどの長さの棒を拾った。

一希は再び構えを取りイメージする。


"牙突"

目の前の大木に向かって高速の突きを繰り出す。


その木の棒は見事に大木に突き刺さった。

真剣に修行したその肉体は、真似事の技を本物の技に変えるほどになっていた。

「これは・・・・・・」

「一希すごいね!ただの木の棒なのに突き刺さってる!これ、本物の剣でやったら絶対突き抜けるよ!」


「確かに威力、速さは技として使えるかもしれないが、如何せん両刃の剣では・・・ましてや刀ななんでないだろうし・・・」

・・・・・・。

「レーティア?」

「はい?」

一希は木の棒で地面に絵を描き始めた。

「こんな形の剣ってこの世界にないか?」

「う~ん・・・シミターにしては細いし・・・サーベルにしては反ってるし・・・」

「サーベルはあるのか?」

「えっと・・・サーベルっていう細身の剣の事だよね?」

「刃は片方だけか?」

「んー刃は両方についてたと思う。と言うか片方しか切れない剣なんて欠陥品だよ」

この世界の価値観はそんな物なのか。

以前に俺が知っているサーベルとはやや異なる感じだ。

レーティアの言っているサーベルはどっちかと言うとエストックに近い感じがする。

まぁ、これはこれとしてとにかくなにか必殺技を考えないと・・・。

そうだ、以前ミューに剣に魔法をかけてもらった事があったな。


「レーティア!炎の魔法とか使える?」

「うん!使えるよ」

「それってこの剣にかける事は出来る?」

「えーっと・・・・・・。剣、灰になるけどいいの?」

思わずズッコケるところだった。


「いや剣を攻撃するんじゃなく炎を纏わせて燃える剣、炎の剣にするんだよ」

「な、なるほどね。私もそうじゃないかな~と思ってたんだ」

絶対思ってない。

間違いなく灰にするつもりだったはずだ。

「じゃ試すね」


"カオスインフェルノ"

魔法を唱えるとその剣はたちまち漆黒の炎に包まれた。


「レーティアさん・・・・・・」

「な、なにかなぁ?」

レーティアは何が間違っているのか分かっていないが、一希の雰囲気から"間違っている"という事だけは察した。

「なにかなぁ?じゃないよ!これじゃ剣持てないじゃん」

「あははは・・・そうだね」

レーティアは笑って誤魔化した。

「じゃぁもう一度・・・」


"カ、カ、カオス、イ、イン、インフェルノ"

ポワワ・・・


・・・・・・。

剣の先っちょにローソクの炎のような感じで火がついた。


「これキャンドルサービスのやつじゃんこれ」

「あはははは・・・・・・」


意図的に弱くするってのは、きっと難しいんだろうな。

でも、剣に炎か留まっていると言うことは、目的は果たされてるという事だ。

そこは素直に褒めた方がいいよな・・・。


「でもちゃんと剣に炎が留まってると言うことは、成功してるってことだよ!あとは加減だな加減」

「そ、そうだよね!ちゃんと炎がのこってるもんね!」

「それって俺でもできたりしないか?」

「一希の場合は加減が要らなさそうだから、剣に纏わせる感覚だけ覚えれば意外と行けるんじゃないかな?」

「ちょっと詳しく教えてくれ」

そう言うと一瞬レーティアの顔が曇った。

あの顔は"私じゃ役に立たないのかな?"と言いたげな表情だ。


「レーティア、それは違うぞ!」

「えっ?」

「実際戦う時にはレーティアがいないから自分でできるようにならないといけないんだ」

「あっ・・・」

レーティアは心の中で思っていた事を察してフォローしてくれた事が妙に嬉しかった。

それからしばらくひたすら炎の魔法を唱えまくった。

おれのMPはきっと0を通り越してマイナスになっていたに違いない。


その甲斐あって炎を剣に纏わせることができるようになった。

技の名前は当然"火産霊神(カグヅチ)"

志々〇真実の終の秘剣だ。

オリジナルに比べたらしょぼしょぼだが、この世界では誰もしらない技、すなわち俺のオリジナルだ。

などと思っているが完全に自己満足でしかない。


早速レーティアに技を見せた。

"火産霊神"

「おお!凄いね!ちゃんとできてる。これで攻撃力もアップだね!」

火産霊神は見事にスルーされた。

「この調子で氷の剣や風の剣、雷の剣なんか出来たらバラエティーにとんでいい感じだよ!」

「俺の技は大道芸か!」

思わず突っ込んだ。

「あはははは」

普通に笑われた。


!!!

レーティアは何か思いついたのかポンと手を叩いた。

「一希、今の火の剣やってみて」

きっと何か面白いことが起きるんだろう。

ここはあえて"なんで?"などと野暮なことは聞かなかった。


「おりゃ!」

恥ずかしかったのであえて火産霊神とは言わなかった。

炎の検ができあがでた。


"エスコンデール"


レーティアが謎の呪文を唱えると剣の周りの炎は消えてなくなった。

「おいーー何するんだよ。火の剣やれって言ったからやったのになんで消すわけ?」


レーティアは無言でドヤ顔だ。

「いいからそのままあそこの木を切ってみてよ」

「一体なんなんだよ・・・」

ブツブツ言いながら言われた通り木に向かって剣を振り下ろす。


ザシュッ!

ブォワッ!

木が切れた瞬間、切口から炎が吹き出した。


「な、なにいまの!?」

一希は年甲斐もなくパニックだ。


「ふふん♪」

レーティアはやけにもったえぶるな。

このしてやったり感が心地いいんだろうか余韻に浸っている。


「炎を隠したんだよ。見えない炎に包まれていたって訳」

「そ、そんなことが出来るのか?」

「炎が見えなければ、相手も油断するでしょ?」


確かに使い方によっては非常に良い技になる。

「早速教えてくれ!」

「どうしよっかなー」


なんだが今日は妙にもったえぶるな・・・・・・

何かご褒美でも欲しいんだろうか?


「よし、教えてくれたらご褒美をあげよう!」

レーティアの髪の毛がピョコッと立った・・・ような気がした。

それぐらい嬉しそうだ。


「なら~もう1回ギューってして欲しいな!」

なんだが真正面から面と向かって言われると恥ずかしいぞ。

「よし、わかったいっぱいギューってしてやるよ」

「ヤッター!」

なんだが妙に人間臭くなってきた気がするな。


そんなこんなで今日は魔法の修行に明け暮れた。

おかげで夜はぐっすりだ。


ミューとの約束の日が来た。

「おはよー久しぶりにミューさん達と会えるね!」

「ああそうだな」

一希の顔色がどんよりしている。

「体調悪いの?」

「いや、明後日には魔族との決闘かと思うと憂鬱で・・・」

「なんだそんな事か」

「いや、そんなことかって事はないだろ・・・・・・」

「殺し合いじゃないんだから大丈夫だよぉ」


ふぅぁ~

今まで見たことの無いくらいの大きなため息だ。

「負けたら協力して貰えないだろうし、何とか戦わずして協力を得る事はできないものか・・・」

「戦わずに力を貸してもらう方法を考えるより、勝ち負け問わずとにかく戦って力を見せた方が説得力あるって」

「でも、負けたら・・・」

一希はさらに塞ぎ込んだ。


レーティアは一希のホッべをむに~と引っ張った。

「勝とうが負けようが、力を貸してくれようがくれなかろうが、結局ウラクムモロスの脅威が消えない限りは他人事じゃ無いんだから、共同戦線は張ってくれないかもだけど、我が身のために戦う方向へは持って行けるんじゃないかな?」

「そうか、そうだよな。敵の敵は味方って言うしな」

一希の表情に元気が戻った。


レーティアは一希の方をポンと叩きながら言った。

「よし、元気が出たことだし、ご飯食べて火山へむかうよ」

一希は頷いた。

そして、二人はご飯を食べ、ワイバーンを呼び魔界の門へ向かった。


短い時間だが空の旅を楽しみながら移動し、魔界の門へ着いた。

「レーティア様おはようございます。いよいよ決戦の日が近いですね」

「おはよう!今日はもう1人の仲間と合流してこちらに連れてくるの」

「・・・また人間ですか?」

オヤジはあからさまに嫌そうな顔つきで聞いてきた。

「あ、や、人間ではないですよ、エルフですエルフ」

「エルフ・・・・・・あの耳長ですか。エルフなんて役に立つんですか?」

これまた嫌そうな顔で聞いてきた。

「ええ!頼りななりますよ!エルフと言ってもハイエルフですから」

!!!

ハイエルフという言葉後でたとたん表情が変わった。

「八、ハイエルフですか!?」

一希はその驚き方を見て自然に質問していた。

「魔界でもハイエルフってのはすごいものなのか?」

「全く何も知らんのだな。ハイエルフと言えば魔王様が動く程の存在だぞ」

この驚きかたから嘘ではないという事がよく分かる。


「まさか、どさくさに紛れて魔王様を倒すおつもりではありますまいな?」

「私たちの目的は魔族の協力を得ること。倒してしまっては元も子もありませんよ」

オヤジは安心したのかホット息をつき肩の力を抜いた。

「では気をつけて行ってらっしゃいませ」

「はい!行ってきます・・・と言ってもすぐ戻ってきますけどね」

そう言うとオヤジを後にし門を開けた。


門をくぐり火山へ出た途端レーティアは突然なにかに抱きつかれた。

「ひゃうっ!」

全く想定の無い突然の抱きつき攻撃に驚き反撃どころではなかった。

!?

レーティアは匂いでわかった。

レイナスだ。

「な、なんでここに!?」

「えへへへぇ」

レイナスはレーティアに会えた事が嬉しすぎて全然聞こえてない。


「レーティアさんお久しぶりです」

「わあ!ミューさんだ!お久しぶりです!なんか雰囲気変わりました?」

そ、そうかな・・・

レーティアの言葉を聞き、一希は穴があきそうなくらいミューの事を見つめた。

「ちょっと一希さんそんなに見つめられたら恥ずかしいですよぉ」

今一瞬レーティアがムッとしたような・・・


「あ、いや、レーティアがミューの雰囲気が変わったとか言うから・・・・・・」

「ふふん~そんなこと言って私にホの字なんじゃないですか?しばらく会えなくて寂しかったんでしょう」

ニヤつきながらミューは言った。


「確かにミューは可愛くて、綺麗だし、強いし魅力的だよ」

「フムフム」

「・・・・・・」

「で?」

「ん?以上」

・・・・・・

「なんでやねん!そこまで思うなら、気があるとか、惚れてるとか、愛おしく思うとかなんか無いわけ?」

「ない」

100%迷いのない"ない"の答えにミューは膝をついた。

「俺の想いはレーティア100%だ」

レーティアは真っ赤になった

「あなた恥ずかしげもなくよくそんな事が口に出せますのね」

「それぐらい好きだ!」

レーティアは恥ずかしさのあまり洞窟の隅っこで顔を隠しながらしゃがみこんでいた。

「ほんとそういうところ見ると、姿形はもちろんだけど人間の女の子と全く変わらないんだけどねぇ」

ミューは人間くさいレーティアを見てとても魔族とは思えない不思議な感覚だった。


「っと、世間話はこのくらいにして、レーティアさん、本題を聞かせて貰えますか?」

ある程度状況を察していたミューは真剣な顔で尋ねた。

「そ、そうですね。ただ、このまま魔界の門を開けたままにするのはまずいのでとりあえず魔界へ行きましょう」

全員頷いた。

4人が魔界の門をくぐるとレーティアはすぐに門を閉じた。


「ここが魔界・・・」

感じたことの無い空気感にやや怖さを覚えたのかレイナスは若干震えていた。

「レイナス大丈夫?」

レーティアはそっとレイナスの手を握った。

「う、うん大丈夫・・・。なんか今までいた世界と雰囲気が違いすぎて驚いてるだけだから」

確かにそうだ。

俺もこの世界に入った瞬間明らかに異世界だと言う感覚があった。

視覚的なところはもちろんなんだが、仮に目をつぶっていたとしてもこの肌にヒリヒリ来る違和感には気づいていたと思う。


オヤジの元へ行き、ワイバーンを借りた。

さすがドワーフ、体感が良いのか簡単に乗りこなしていた。

それに対しミューは高いところが苦手な上にバランスが上手く取れないようで落ちることはないにしろフラフラとんでいた。

「ミュー、さっきから少し気になっているんだけど、会った時からずっと何か魔法を使ってないか?」

「ふふっ。よく気づきましたね。レイナスさん教えて貰って地属性の魔力操作の修行をしてるんですよ」

一希とレーティアは顔をみあわせた。

「ミューさんでも修行とかするんですね」

「俺もミューが修行なんて意外だよ」

ミューは焦りながら答えた

「私だってなんでもできるわけじゃありませんから!それに大賢者様から奥義を授かりましたし、私もまだまだですよ」

この強さなのに、まだまだとか言われたら俺なんてどうなんるだよ・・・。

などと考えていたが、はなから分かっていた事だ。


「レーティアさん、これはどこへ向かっているのですか?」

「あ、すいません。魔王城です」

ミューは薄々気がついていた事もあり、やっぱりかと大きなため息をついた。

「あ、えー・・・なにかまずいでしょうか?」

「いえ、早かれ遅かれ会うことには変わりありませんので・・・」


そうこうしているうちに城が見えてきた。

「あれですね」

人間の城と変わらないその見た目が意外だったようでミューが少し驚いていた。

「へー人間の城と似たような感じなんですね」


4人は城に着くと門の前におりた。

!!!


門番はミューを見た瞬間ただのエルフでないことが分かったのか警戒態勢を取った。

レーティアが瞬間的に間に入り説明する。

門番はミューの事を聞いたとは言えその恐ろしさに警戒心はとけてないようだ。

「あっ・・・原因はこれですね」

そう言うと、地属性の魔力を解いた。

その瞬間門番も変化に気づきホッとしたようだ。


そうして城の中を進み魔王のいる大広間に向かった。

ギィィー・・・

大広間の大きなドアをあけるとそこには魔王とザルババとカルヴァーニュ、そしてもう1人人間の格好をした者がいた。

さすがにミューも魔王を目にした瞬間その迫力と胆力に少し気圧された。

魔王も同じくミューを見るなりハイエルフと即座に認識し緊張が走った。


「あの人間ポイのは何者なんだ?」

一希がレーティアに訪ねると、レーティアは怒りで震え上がっていた。


「貴様!なぜここにいる!!」


物凄い怒気を放ちながら叫んだ。

レーティアの様子がただ事じゃないのに対し、レイナスは恐怖で縮み上がっていた。


そう、奴は"テレボ・ロア"裏のイルクリプス無敵の男だ。

テレボ・ロアは羽織っていたローブを剥ぎ取り、右肩を覆っていた服をめくり肩の紋章を見せた。

!!!

あれは魔族に忠誠を誓った証。

以前火山で戦った一個隊の隊長にも刻まれていたあの紋章だ。


「こいつは人間だが魔族を理解し人間の愚かさに気づき人間を粛清する側に回った魔族の一員だ」

「そんな事はどうでもいい!こいつをぶっ殺さないと気が済まない!」

そう言い放つとレーティアはテレボ・ロアに向かっていった。

すかさず魔王が間に割って入った。

「まて!こいつも魔族側の戦士だ。今この場で戦うことは許さん」

「グググッ・・・」

ふぅ・・・

レーティアは力を抜いた。

「私はこいつが許せない、レイナスにした事を考えたら、ぶっ殺さないと気が済まない!」

少し落ち着いたとは言え、今にも飛びかかりそうな暴れ牛のようだ。

「何があったか知らんが、そこまで言うなら殺しはなしというルールを撤廃しよう。ただ、負けを認めた以降での殺しはなしだ」

「ええ、それで結構。敗北宣言する暇すら与えないから・・・・・・」

一希は少しレーティアに恐怖を感じたが、反面レイナスに対する想いも理解出来た。

簡単に殺しをありにする感覚が理解できない。


「それとそっちは四人いるようだがどういう事か?」

「レイナスは私たちを身を案じ応援に来てくれた親友です」

「親友・・・か。その想いに偽りが無いのであれば戦士として戦ってはどうだ?」


!!!!


「こちらはゾルババを加えた四人で迎え撃つ。それが出来ぬなら部外者。即刻魔界から立ち去ってもらおう」


「・・・・・・」

レイナスは言葉を失った。

無論勝ち目など100%ない。

かと言ってレーティアに対する気持ちに偽りはない。

言葉を無くしていたが心の中では答えが決まっていた。

「・・・戦います」

「レイナス!?」

「レーティア、いいの。勝てないのは分かってる・・・下手したら死んでしまうと思う。でも、ここで何かが変わらなければどうせみんな死んでしまうんだ・・・」

「そうだね・・・。わかった四対四の決闘で依存はない。ただ1つ条件がある」

「ほう、条件。不公平を生まないなら考えてやる」

「レイナスの戦闘は二対二だ」

「ふむ、悪くない提案だ。ゾルババもザルババと組めばこそ120%の力が発揮出来るというものだ。その条件飲んでやろう」

「レーティア・・・」

「大丈夫、後で作戦会議ね」

レイナスは"きっと何か作戦があるんだ"と少し気が楽になった。


お互い顔合わせが終わったところで魔王城を後にしベースキャンプに戻った。


「レーティア、なんだか妙な展開になってきたけど大丈夫なのか?レイナスまで巻き込んで・・・」

「あ、私なら大丈夫ですよ。元々魔界行こうと決めた時に、死ぬことは可能性の1つとして心づもりしてましたから」

そんな簡単に死ぬことを受け入れるなよ・・・。

一希は悲しくなり、とある名言を伝えることにした。


「いいかよく聞け」


『 自分の命を軽く見るな!お前が死ぬ事で悲しむ者がいる事を忘れるな。そして大切な人を守るために生きることを諦めるな!生きようとする力は何よりも強い!』


レイナスは自分の中に熱いものを感じた。

それを聞き何も言わずクビを縦に振った。


「確かに、今の私達も生きるために必死に足掻いてる訳ですしね。たまにはいい事言いますね!」


パクリのセリフだけに素直に喜べない自分がここにいた。


「とまあ、それはそういう事で、肝心の作戦ってのはどんなだ?」

「あっ・・・あ~・・・」


・・・・・・。

・・・・・・。

・・・・・・。


レーティアの反応を見て3人とも理解した。

作戦なんてないのかよと・・・。


「作戦っていう程じゃないけど、戦う相手を少し変更した方がいいかなーと思ってるだけなんだけど」

「ほう」

「カルバーニュさんは魔法においては右に出るものがいないので、ここはミューさんに固定でいいと思うの」

「テレボ・ロアはレーティアさんですか?1度勝ってる事ですし、レイナスさんの敵討ちですもんね」


ビシッ!

「イヤイヤ、敵討ちって、私死んでないから~!」

思わず突っ込んだ。


「テレボ・ロアは一希に行ってもらいます」

「は!?そんなの無理に決まってるだろ!」

「同じ人間なんだから気合と根性で何とかしてよね!」

「何とかって、なんだよ何とかって・・・・・・」

「と言うのは精神論で、実際の所は絶対勝てないと思う。だから死なないように、死物狂いで戦かって」

「死なないように、死に物狂いって言うことは、つまり、死に物狂いじゃないって事になるのか?」

「何を訳の分からない事言ってるんですか・・・とにかく死ななければ良いんですよ」

「・・・・・・はい」


「私とレイナスでザルゾル兄妹を倒します。これで3勝1敗私たちの勝ちです」

「でも、戦力的に俺とレイナスでザルゾル兄妹に当たった方が、テレボ・ロアも倒せるしいいんじゃないか?」

「一希・・・ザルババに勝てるつもりでいてるの?」

「え?無理なのか?」

レーティアはこめかみの辺りをポリポリ書きながら答えた。

「う~ん・・・無理そうかな」

「そ、そんなもんか・・・。1度戦ってソコソコの勝負にはなっていたと思うんだけどな・・・」

「でもそれって人間界ででしょ?どれだけ力を抑えて戦っていたと思う?」

「そ、そうか・・・」

「私も一緒に戦いましたが、確かにザルババさんだけでも相当なものだと感じましたよ。ゾルババさんですか?あの地味な方かなりのやり手でした。一希さん、ザルババさんとゾルババさんのコンビは、レーティアさんと私がコンビを組んだのと同じ・・・と言えば強さの感じが分かるでしょう」

ミューがフォローしてくれるのかと思いきや、その口から出た言葉はトドメの一撃だった。

「そ、そんなに強いのか・・・」

「はい。決して過大評価ではありませんよ。正直レーティアさんとレイナスさんでも厳しいと思います。かと言って私とレーティアさんが組んだら、お二人ではカルバーニュさんを抑えることは出来ないでしょうから・・・」


こうして作戦とは言い難いが戦う順番が決まった。

ミューは確実な勝利を得るためにカルバーニュについて根掘り葉掘り聞いていた。

レイナスも足を引っ張るまいとはりきっている様子だ。


一希は一端の戦力のつもりでいたのに、ただの頭数合わせと言わんばかりのポジションに、なんとも情けない思いで塞ぎ込んでいた。


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