♀♀大賢者の奥義
エルフの里で修行中のミューは、レイナス経由でレーティアからの連絡を受け里を出る準備をしていた。
そして、準備が整いミューは事情を話すべく大賢者の元へ向かった。
「大賢者様、明日魔界へ行ってまいります」
大賢者はその雰囲気からおおよその状況は察していた。
「ミューステアよ"時"を武器にする敵と対峙した事はあるか?」
「時ですか・・・。噂に聞いた事はありますが戦ったことはありません。ただ友の魔族の姫は、時を飛ぶ相手と戦い勝ったと聞いております」
「ほう、その娘かなりの手練じゃな。ベルゾディアもそうじゃが恐らく魔族の中にも時を操作する者がおるじゃろう」
「ベルゾディアもですか!?」
「まぁそう早合点するな。時を武器にすると言っても、その形はいくつかある」
ミューはよく分からないと言う顔をしている。
「時のコントロールは四つに分けられる。ワシが知りうる限りその全てを制御できる神のような者はおらん。能力者の性質性格によりどれかの能力が開花すると言う感じじゃろ」
「その四つのコントロールとは?」
「まず魔族の娘っ子が戦ったと言う相手が使った"時を飛ぶ力"じゃが正確には"時を飛ばす"と言う力じゃ」
「時を飛ばす・・・ですか・・・」
「飛ぶと飛ばす、似ておるようじゃが正しく理解せよ。飛ぶは飛ばすの一部でしかない事が分かるか?」
ミューは目をつぶって考えていた。
考え込んでいると続けて大賢者が話し始めた。
「二つ目は"時を止める力"これはかなり厄介じゃが、手の打ちようはある」
!?
「時間を止められても対応策があると?」
「まてまて、対処法はあとじゃ。そして三つ目は"時を戻す力"これも対処法はある。最後は"時間の流速"じゃ。これには対処法がない」
ミューは時間を武器にする相手に対処法が全くもって検討がつかないでいる。
「ちなみにベルゾディアはどのタイプの時使いなんですか?」
大賢者は大きなため息をついた。
「お主は考えるという事を知らんのか?」
「知ってるか知らないかだけの事に対して、考える時間を割くのは、それこそ時の無駄ですよ・・・」
「・・・・・・。全くもって誰に似たのか徹底した合理的思考じゃな」
ミューは大賢者を見つめた。
・・・・・・。
「まぁ、良かろう。どうせ話すつもりじゃったしの」
ミュー心の中で"めんどくさ"とつぶやいた。
「ベルゾディアの能力は"時間の流速"つまり時間の流れる速さをコントロールする力じゃ。相手の時間の流れはもちろん、自分の時間の流れもじゃ」
それを聞いたミューはさすがに言葉を失った。
時間の流れをコントロールされるのはある意味時間を止められる事よりタチが悪い事に気がついたからだ。
時間を止められる、飛ばされると言うのは脅威的だが、動き出した後の相手の行動は分からない。
つまり時間が動き出した直後の敵の行動を予測しトラップを仕掛けるなどの不意打ちをすれば何とかなるかもしれない。
しかし、時間が流れているとなると不意打ちが出来ない上に、こちらの時間を遅くされると何をやっても見切られる、その上相手の攻撃を見きったところで避ける事が出来ない。
オマケに相手の時間が早くなれば見切るこ事さえ叶わなくなる・・・。
そう考えているとミューの顔から冷や汗が止まらず頬を伝ってポタポタ落ち続けていた。
「その様子じゃとその恐ろしさがわかったようじゃの。時を飛ばすのと時を止める事に対しては僅かな可能性じゃが対応策がある。しかし時間の流れを支配されると何をしても無駄なんじゃ」
ミューも同じ事を考えてもいたのでさほど驚きはなかった。
「今出てこなかった時間を戻す事に対しては対策があるのですか?」
「それはのぉ・・・時間を戻す力には二つパターンがある。時間だけを戻すパターンと、意識ごと戻されるバターン。後者に関しては時間が戻されたことに気づけないので対策は難しいじゃろ。書き換えられた現在を気合いで都度対応するしかない。前者に関しては時間が戻された感覚が残る。そのほとんどが現状回避の目的で使われるのでこの先どうなるかは意識の中に残っておる。まあ、未来予知のような状態じゃな」
そこミューはひとつ疑問が湧いてきた。
「時間を戻す力があるなら、進める力もあるのではないのですか?」
「それは無い!」
強い口調で言った。
「また、はっきりとおっしゃいますね」
「当たり前じゃ。未来は存在しない。予測としての未来はあるじゃろうが、現在を通り越して未来が出来上がることは決してない」
ミューは未来は存在すると思うところもあったが、ここで未来のあるなし論争を繰り広げたところで答えが出ることも無く、確かめる方法がある訳でもないので、あえて反論しなかった。
「まぁ、あまり気にせんでええんじゃないか?ワシが知る限り時を操る能力を持つのは3人だけじゃ。ベルゾディア、ラフレスローザ、テレボ・ロアぐらいじゃて」
「・・・まぁ他にもおるかもしれんがの・・・」
「とにかく、ご指導ご教授くざたいましてありがとうございました」
ミューは、深深と頭を下げた。
「ほんと現金なヤツじゃて・・・。常にその姿勢でおれば可愛げもあるのにのぉ」
「申し訳ありませんりこの跳ねっ返りな性格は師匠譲りなもので」
・・・・・・。
「全くもって出来のいい愛弟子じゃて」
ミューはもう一度深深と頭を下げ大賢者の前を離れるのだった。
「おーーー!!!」
あまりの大きな声にミュー飛び上がった。
「びっくりするじゃないですか!一体なんなんです?」
「一つお前に言うのを忘れておったわい」
ふぅ~
「お約束のボケですか?それとも本当にボケたんですか?」
「どうしてお主はなぜいつもそう一言多いのかのぉ・・・。お主クロノスドアーは使えたの?」
「はい」
「よし後ろを向け」
「はぁ・・・」
ミューはよく分からないが後ろを向いた。
!?
ミューは振り向きざまに大賢者のほっぺたをひっぱたいた。
「なんでおしり触るんですか!」
「スマン、つい手が行った・・・。ほれ後ろ向け」
さすがに同じ事はしないだろうと素直に後ろを向いた。
ミューの背中に大賢者の両手が当てられる。
「良く感じるんじゃ」
両手から魔力を感じる。
「クロノスドアーを使う時の魔力式じゃ」
・・・・・・。
・・・・・・。
!!!
「気づいたか」
「両手で魔力の感じがちがう・・・それもさっきより魔力が強い」
「行くぞい」
ふっんっ!
!!!!
「感じたことの無い魔力の感じだ・・・これって・・・」
「魔力合成じゃよ。頭のいいお主の事じゃ、クロノスドアーの特性を考えたら何が起きたかおおよそわかるじゃろ」
「異空間への移動・・・ですか?」
「ビンゴ!その通りじゃ。これがないとベルゾディアの住むレグジュポットには行けんじゃろ」
今のはミューでもさすがに大賢者の思慮に恐れ入った。
「さすがですね。本当に凄いと思いましたよ・・・今のだけは」
「またぁ・・・なんでお前にはその余計な一言がついてくるのかのぉ・・・・・・」
「何度も言わさないでください」
「ったく・・・・・・。まぁ頭のいいお主の事じゃ魔力合成による凄さがわかるじゃろ」
「これは大賢者様が?」
「当たり前じゃ!ワシを誰だと思っておる!」
ミューは心の底から大賢者の偉大さに敬服した。
「大賢者様、失礼の数々本当に申し訳ありませんでした」
ミューはエルフ族に伝わる正式な礼の作法で心の底より礼をつくした。
さすがに大賢者もそれを見て揚げ足を取るような事はしなかった。
「最後に一言だけ言っておく」
「?」
「わしらエルフはドワーフのような熱血筋肉バカではない。だからあえて"ガンバレ"などと精神論を言うつもりは無い」
・・・・・・。
『世界の全てにエルフの凄さを見せつけてこい!』
ミューは心の中に熱く沸き立つものを感じていた。
ミュー大賢者の元を離れ村に降りレイナスの元へ向かった。
コンコン
「こんにちわ~レイナスさ~ん」
バタン
ドタドタドタ
カシャン!
なにか割れた・・・・・・。
「ご、ごめんなさい。お待たせしました」
「なにか割れたよつですけど大丈夫ですか?」
ミューは苦笑いで尋ねた。
「はい!大丈夫じゃないですけど大丈夫です!」
言っていることはおかしいが、気持ちは分かる。
「レーティアの所に行くんですよね!」
レイナスは妙に嬉しそうだ。
この雰囲気は"私も連れて行って"と言わんばかり。
私は"レイナス"と言う子の事はあまり知らないけど、短い付き合いの中でも強情で意地っ張りであろう事はそれとなくイメージ出来る。
断ってもついて行くと駄々をこねるだろう。
先に釘を刺しといた方が良いかな・・・行先は魔界、未知の世界だしね。
それも"訳あって"と言っていたところから察するに、恐らく魔王達と戦わなければならない事態なんだろう事は想像がつく。
クラリアスさんや港で戦った魔族達の事を考えると、正直レイナスさんは足でまといにしかならないだろう。
それに、レイナスさんの力が必要なら一緒に来て欲しいとなるべきはずだ。
しかし、少しでも全力が必要ならレイナスさんの力も欲しいはず・・・。
つまり、そこまで危険ではないという事なのかもしれない。
などど少し考え込んでいた。
「あのー・・・ミューさん?」
レイナスの、その声にふと我を取り戻す。
「あ、すいません、少し考え事をしていました」
「はい、それは見れば分かります。それと・・・・・・」
「それと?」
ミューはその意味深げな"それと"の言葉に首をかしげた。
「・・・・・・」
「?」
やはり連れて行って欲しいと言いたいのだろうか?
目をつぶり、また少し考えている。
「あの・・・心の声が漏れていました・・・・・・です」
!!!
ミューは真っ赤になった。
「ご、ご、ごめんなさい!!私ったら・・・とても失礼な事を・・・」
レイナスの事を足でまといなどど言っていたことに、動揺隠せないでいた。
「いえ、本当の事ですから・・・」
レイナスの表情が暗くなった。
「・・・でも・・・、それでも私はレーティアの所へ行きたい・・・」
「・・・・・・」
「確かに戦力としては役に立たないと思う。でも、傷の手当なんかのサポートは出来ると思う。いや、サポートが無理でも、ご飯を作ったり、マッサージしたり、あと、あと
・・・その・・・・・・」
レイナスはワガママでレーティアに会いたい訳じゃなく、わずかでもレーティアの力になりたいと思っているんだろう。
痛いほどその想いが伝わってくる。
「分かりました。とりあえず一緒にいきましょう」
「ホントですか!」
レイナスの表情は一変し、喜びに満ち溢れていた。
「ただし、命に関わるほど危険だと判断したら帰っていただきますよ」
「はい!」
二人は少し食事をし、火山の方へ向かった。
「ミューさん、私詳しく状況を理解できてないのですが、かなり深刻な状況なんでしょうか?」
「そうですね。正直お手上げ・・・と言っても良いでしょう・・・もちろん諦めてはいませんけど。少なくても一人一人の力では到底叶いません。しかし、みんなで協力すればきっと道は開けるはずです」
レイナスの表情が緩んだ。
「なんかあれですね、こうハッキリとお手上げと言われると逆に腹括ってダメ元でなんでも出来る気がします!」
あはははは
「さすがドワーフですね。そのポジティブさは見習わないとですね」
「それなんか褒めてないですよね・・・」
「褒めてます!褒めてますよ!エルフは性格的に理論思考なんで羨ましいです。たとえば、絶対に曲がらないものは何をやっても曲げれないので、曲げなくていい方法を考えようとするんです。諦めとは違いますが、ある種の開き直りですね」
「へぇ~、私なら何がなんでも曲げてやるって感じになりますけどね」
「そういう所が羨ましい」
あはははは!
二人は互いの考え方の違いが真反対なのがエルフとドワーフの仲を表してるようで思わず笑っていた。
「あ!そういえばレイナスさん魔法つかえるんですよね?」
「ミューさんには到底及ばないですがルルブッチ村の中では一番の魔法使いですよ!」
・・・・・・。
ミューはフリーズした。
「ん?」
レイナスは突然ミューが固まったのを不思議そうに見ている。
「ミューさん??どうしたんですか?」
「あ、いや、先程傷の手当やサポートは出来ると言っていたのでてっきりヒーラーなのかと思っていたので・・・・・・」
「あっ・・・、あれはそういう意味じゃなくて・・・ごめんなさい」
「だ、大丈夫ですよ」
ミューは回復の魔法などを少しでも教えてもらえればと思っていたが、的外れに終わり落胆していた。
「あ、でも村には聖職者いますよ!」
レイナスは取り繕うかのようにフォローした。
「いえ、道中、回復魔法など教えてもらえれば、少しでも戦術の幅が広がるかと思ったんですが、今からここで学ぶ程の時間はありませんので」
「そうでしたか・・・」
レイナスはガッカリした。
「あっ、でも補助魔法なら使えますよ!」
「補助魔法なら私も多少は・・・と、レイナスさん魔力は何系ですか?」
「私は土と炎です」
ミューはポンと手を叩いた。
「私は氷と風なんですよ!と言ってもほぼ氷で風はおまけみたいなものですが」
「私も土がメインで炎は粗末なもので無いよりかマシくらいなもので・・・」
「と言うことは防御系の補助魔法が使える感じですか?」
「はい!アースプロテクションや、ガイアシールド、サンドミストとか」
「私の不得手なものばかりです!是非ご指導ねがえますか?」
「そ、そ、そんな指導だなんて恐れ多い、私の魔法なんてハイエルフのミューさんに比べたら・・・」
レイナスは嬉しい申し出だが少しでも困惑していた。
「いえいえ、そんな事はないですよ。自属性以外の魔法は指導者がいないと習得は困難ですから」
「分かりました。まだまだ修行中の半端者ですがよろしくお願いします!」
レイナスは気合いを入れた。
「いやぁ・・・よろしくお願いするのは私の方なんですけどね」
レイナスは自分の顔を両手でぺちぺちし、両手を拳(こぶし)にし気合いをいれ、魔力を高めていた。
うわっ・・・なんか走り込みとか腹筋とか熱血指導始が始まりそうな予感・・・なんか気合い入りすぎてるよぉ・・・。
ミューは頼んだものの、少し不安が頭をよぎった。
「ミューさん!まずは走り込みで体力と力強さを・・・」
「待って待って!無理無理無理!絶対無理!そんなトレーニングしたところで数日で体力とかつきませんから!!」
レイナスは落ち込んだ。
「・・・そうですよね。魔力操作から始めます・・・」
「ぜ、是非そうして下さい」
ふぅ~危ない危ない、思った通りだ。
「とりあえず、レーティアさんの為にもお互い頑張りましょう!」
ミューは柄にもなく拳を突き出した。
レイナスもそれに感化され拳を突き出しぶつけ合った。
レイナスはそれが嬉しかったようでガッカリしていた表情に少しだけ笑顔が戻った。
やはりドワーフはこう言う熱い感じのがしっくり来るんだと、改めて感じていた。
「とりあえず火山入口に向かいましょう」
「はい!」
そうして二人は合流地点の火山の入口に向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます