♂挑戦状

王城へ着くと、俺とレーティアが一緒にいる事が理解できないと言う顔つきの魔族ばかりだった。

だが、レーティアが機転をきかし"話しかけたらぶち殺す"と思わせるような恐ろしい魔気を纏っていた。

もちろん、この状況を見越しての演技だ。


俺は演技だと分かってはいたが、あまりの重圧に思わず言葉を漏らした。

「演技だと分かっていても怖いな」

「そう思わせるようにしてるからね。とは言え一希にそう言われるとちょっと悲しいかな」

笑うところなんどろうけど、とてもそうできる空気でないことはさすがの俺でも分かる。


そうして、何が起きるでもなく淡々と王の元へ向かっていく。

大広間の手前辺りで背筋が凍るような殺気を感じた。

思わず振り返るとそこには以前港で戦ったクレイジーな奴がいた。

今にも飛びかかりたそうな雰囲気だが、レーティアのそれがそうさせなかった。

痛々しい視線を背中に受けながら大広間に入った。


あれが魔王・・・レーティアの父親か。

さすがというのか、王と呼ぶにふさわれい迫力と高貴な雰囲気だった。


「お前が異世界から来たという人間か?」

「はい。召喚されたわけではありませんが、ある事情からこの世界へ召喚されました」

「レーティアだな?」

「事情の方はご存知のようですね」

王は殺すつもりはないのだろうけど、威嚇とでも言うのか、とても重く苦しい殺気を放っていた。

「お前、怖くないのか?」

「・・・・・・」

「恐怖で声も出んか?」

「怖いですよ・・・」

「正直だな」

「いえ、勘違いなされてます」

「勘違い?」

「怖いのは王、あなたではありません。いや、あなたも怖いですが、真に怖いのは・・・」

話の成り行きとは言え、いきなり本題に入ったことで、単刀直入にウラクムモロスの事を話していいものか少し迷った。


「ほぅ我より怖いものがおると言うか。冗談にもならんな」

「はい。ただ、この事を知れば魔王である貴方はもちろん、この魔界の全ても俺たち人間と同じ運命の方舟に乗る事になります。それでも聞く勇気はおありですか?」

「人間の運命とはなんだ?」

「知って絶望か、知らぬで家畜か・・・」

俺は王を試すように鋭い目で言葉を放った。

「・・・・・・」

急に王の態度が変わった。


「悪かったな。お主を軽く見ていた。今の言葉にその目、運命を背負い、運命の岐路に立たされている者の目だ。逆に1つ問おう」

俺は静かに頷いた。


「お前は・・・お前たち人間はその運命に抗い乗り越えるととはできるのか?」

「・・・・・・」

俺は気持ちの上ではそのつもりでいるが、魔王のあの心の深淵を覗くような目の前に言葉をつまらせていた。


「なるほど。それでここに来たわけか」

魔王は言葉を詰まらせたほんの僅かな時間の意味を理解したようだ。

「その真の恐怖とやら話してみるがいい!」

その言葉は同盟成立を意味していた。

俺はその言葉を聞いた瞬間肩の荷が降りたような思いだった・・・・・・が、次の瞬間魔王の口からある言葉が続いた。

「だが条件がある」

「じょ、条件ですか?」

「魔界の全員が納得出来る強さを示せ!」

「強さ・・・ですか?」

「そうだ。運命に抗おうと言うのであれば、我らが納得出来るそれ相応の力を示してみせよ」


魔王を納得させる強さを見せろ的な展開はある程度想定していたが、魔界の全てを納得させろとは想定外の難題だぞ。


「この魔界で一番強いあんたに勝てば良いんだな?」

フハハハハ

「あいにく魔界の一番は我ではないがな。武力だけで言えばザルババ、魔力だけで言えばカルヴァーニュ、軍力で言えばクラリアスなど我より秀でた者もいる」

魔王が一番という訳では無いのか。


「とは言え我も大差ない強さではある。万が一、万が一だが、我が負けようものなら魔族の人間に対する憎悪は爆発するであろう」


確かに魔王を倒そうもんなら避難の嵐に会うのは必定だ。

「ならどうすれば・・・」


「1ヶ月準備をするが良い」

「なんの準備ですか?」


その俺の問いかけの後魔王はレーティアの方を見た。

「?」

レーティアは"なんだろう?"と言わんばかりの表情だ。


「お主らと魔王軍とでひとつ力較べをしよう。魔王軍から3名精鋭を出す。お主らも、もう1人集め3人で望むが良い」

「三対三で戦うんですか?」

「そうだ。しかし目的はあくまで力を示すこと。殺し合いでは無い」

「わ、分かりました」

「では1ヶ月後に力の大会を開く。力を示し魔族たちから信用を勝ち取って見せよ!」

まさに魔王からの挑戦状だった。


その言葉を後に俺たちは大広間を出て白を後にした。

今回はレーティアも敵方という事で王城には残れないため一緒に城をでた。


「なんか大変な事になったね」

「ああ、ある程度戦うことは想定していたけど、これは想定外の自体だ・・・。何より3人というのが・・・」

俺は思わずため息を漏らしていた。


「でも、3人目はどう考えてもミューさんしかしいないでしょう」

「そうか!ミューか!」

「えっ!?」

「え?」

「まさか、ミューさんの事忘れてた?」

「あ、いや、そういう訳では無いんだけど・・・」

「嘘だぁー。絶対忘れてたでしょ。"3人目はどうしよう"って顔してたよ!」

「うぅ・・・。まぁ間違いではないけど・・・」


レーティアは目をつぶって少し考何かをえているようだ。

「どうしたんだ?」

「相手はザルババとカルヴァーニュさんは確定してると思うんだけど、あと一人は誰かなって」

姫であるレーティアがカルヴァーニュさんと"さん"付した事に違和感と言うか疑問が湧いた。

「カルヴァーニュって人さん付してたけど、どう言う関係なんだ?」

「あー、カルヴァーニュさんは魔法の先生なんだよ」

「なるほど。師弟対決か」

「そうだね。でも、正直魔法では絶対勝てないから、先生の相手はミューさんでないと」

「え?この戦いってタイマンなの?」

「タイマン?」

魔族には"タイマン"と言う言葉がないのか

「タイマンってのは1体1で戦うと言う事だよ」

「なるほど・・・」

「と言うことはザルババってのは俺の担当か?以前一悶着あったしな」

「ザルババは結構執念深くて頑固なとこあるからね」

「あと一人は誰なんだろうな・・・。クラリアスがいたら間違いなくクラリアスなんだろうけど」

「そ、そうだね・・・」

レーティアはとても悲しそうな顔をしていた。

「ご、ごめん・・・。そういえば魔王ってクラリアスの事知らないんじゃないのか?」

「そうだね・・・。でもそれを話すにはウラクムモロスの事話さないとだし・・・」

「とりあえず、訳あって来れないという形で伝えとくしかないよな」

レーティアは複雑な顔をしていた。


「どっちにしても、勝たないとウラクムモロスの事もクラリアスの事も話せないしな。とりあえず俺を鍛えてくれ!以前ザルババと戦った時、場所が場所だけにザルババも力を抑えていたはずだ。この魔界でとなれば全力全開で来ることは間違いないだろうし」

「うんわかった。1ヶ月間みっちり特訓だよ!」


━━━━━━━━。

あれから4週間が経った。


「特訓のおかげでだいぶ強くなったね」

「本気になればレーティアに勝てるかも。まぁ、特訓と言うよりかは一方的なイジメだったけどな」

と冗談交じりで言ったらレーティアはほっぺを膨らましていた。

「結果的に強くなったんだし良いじゃない!」

レーティアはこめかみの辺りをポリポリかいていた。

「ああ、そうだな。ありがとな」

「でも、ホント油断したら負けちゃうかもしれないから笑えないよ」

「それはその姿のレーティアだったらって話だろ。魔族の姿のレーティアになったら・・・」

「人をそんな化け物みたいに言わないで~」


そこは気にするんだな。

俺はここに来た時とは比べ物にならないくらい強くなっていた。

恐らく以前戦った時のザルバばなら訳なく倒せるだろう。

今ならクラリアスにさえ負ける気がしない。

ただ、魔法に関してはからっきしダメなままだ。

「そろそろミューにも連絡する取らないとだな」

「一度レイナスに連絡してみるね」


レーティアはフィンブルビットを耳から外しレイナスに呼びかけた。

"レイナス、レイナス聞こえますか?"


返事が返ってくるまで少し間があったが、レイナスからの返事は返ってきた。


"それは私のセリフだよ!レイナスも体大丈夫?"


"そうか、それは安心したよ。でも無理はダメだよ"


レイナスの話は俺に聞こえないんだが、レーティアは気付いてるのか分からないが自分の話は声に出ていた。。

しかし一人でニヤニヤしている所を見ると久しぶりの友達との会話が嬉しいと言った感じだろうか。

"あのね、レイナスにお願いがあるんだ"


"ミューさんと連絡が取りたいの"

"少し事情があってミューさんの力が必要なんだ"


"ウラクムモロスの事調べるとか言ってたけど、どこにいるのかまでは分からないな・・・"

レーティアは困ったような表情に変わった。


なんだかよくわからんが問題発生といつまた感じか?

「レーティア?何か問題発生か?」

「あ、なんでわかったの?」

「その表情見たら誰でもそう思うわ!」

「そ、そう・・・。ミューと連絡をとる方法がなくて困ってるの」


フフフ、実はこの展開は想定済みだ。

レーティアとレイナスは繋がってても、レイナスとミューの繋がりがない。


「それなら一つ良い方法があるよ」

一希の意外な言葉にレーティアは目を丸くした。

「なになに?いい方法って何?」

レーティアは子供のように聞いてきた。

「レイナスはレーティアの鱗持ってるんだろ?あれに魔力を込めたら、魔族の気配にミューは気づくんじゃないか?」

ドヤ顔でこたえた。

レーティアはポンと手を叩いた。

「なるほど!一希頭いいね」


"レイナス!私が渡した鱗に魔力を込めたら、魔族反応が出ると思うから、ミューに伝わると思う!"


"レイナス?どうしたの?"

フィンブンビット越しにではあるが、レイナスの異変に気がついたようだ。


"それ、頭の中で会話が出来るやつだよ。頭の中でミューさんの事意識しながら何が話しかけてみて"


おお、ミューと連絡が取れたんだな。


"訳あって1週間以内に魔界に来て欲しいって伝えて欲しいかな"


"ミューさんにそう言ったら事情はわかると思う"


レイナスとミューのやり取りが聞こえない俺にはレーティアの独り言しかし耳に入ってこない。


"そうなんだ。なら4日後に迎えに行くって"


"待ち合わせは、お昼にドワーフ村の近くの火山入口で"


お昼にハチ公前でが異世界になるとこうなるのか・・・。


"じゃあね!ありがとう"


「4日後にミューさんとドワーフ村の火山で待ち合わせになったよ」

「ああ、聞こえてた」


レーティアはドキッとした。

「えっ!?なんで聞こえてたの??」

「なんでも何も普通に声出てたぞ」

レーティアは恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。

心の声で話してたつもりだったらしい。


「と、とりあえずこれで準備はオッケーでだね」

「ああ、あとは勝てるかどうかだな」

「私の相手は誰ななるんだろう・・・」

「心当たりは無いのか?」

「う~ん・・・」

レーティアは首を傾げていた。


「ザルババって奴のそばにいた連れはどうなんだ?」

「連れ?・・・誰かわからないけど、恐らくゾルババかな?」

「ゾルババ?兄弟かなんかか?」

「ザルババの妹だよ」

「そうか・・・。ゾルババってやつもあんな兄貴いたら苦労してるだろうな」

「アハハ八・・・」


「でも、多分ゾルババでは無いと思う。確かにそれなりに強いとは思うけど、どっちかと言うと前線で戦うと言うよりかは後方支援なタイプだから」

「そうか・・・。クラリアスに近いタイプでそれなりに強いやつはいないのか?」

「う~ん・・・」

レーティアはまたもや首を傾げていた。


「まぁ、当日のお楽しみって事だな」

「楽しみではないけど、そういうことになるね」

「とりあえずミューと合流したらもう一度作戦会議だな。またあの山までワイバーン乗っていくんだろ?」

「そうだね。遠いしね」

「魔界には町とか村とか無いのか?」

「ないかな。集落と言ったら王城くらいじゃないかな」


確かに、ワイバーンでここに来る時も空から見渡した限り町や村らしきものはなかった。

赤褐色の大地に石や岩が無造作に転がっている荒野のようだった。

人間と共存出来ればここももっと住みやすく整備・発展できるのにな・・・。

いや、人間界のような環境が魔族にとって良いとは限らないか。

でも、王城は人間の城と変わらない感じだった。

建築技術はあるが必要としてないのか、需要がないのか・・・。

ただ単に町を作るだけの労力が足りないだけなのか・・・。


そもそも、魔族と人間ってなんで仲悪いんだ?

人間を襲うからか?

人間が人間を襲うことだってあるんだ、そんなに大した問題では無いような気もするが・・・。

!!!!

逆か?

魔族と言うだけで敵視し虐げてるのは人間の方なのか?

そもそも何が原因でこうなったんだろうか?



「どうしたの?」

・・・・・・。

「おーい一希さーん?」

レーティアはそう言いながら一希のほっぺたをつついた。

「うおっ!あっ・・・」

突然の事に普通に俺は驚いた。


「なんかボーッとしてたよ?」

「ああ・・・ちょっと考え事をな」

「ふーん・・・」

何考えてたんだと言いたげな表情だな。


「いや、そもそも魔族と人間ってなんで仲悪いのかなと思ってたり、人間と交流が深まればこの荒れ果てたた魔界も住みよくなるんじゃないかなとか・・・」

考える間もなくレーティアは答えた。


「魔族って人間ほど数いないから町とか村みたいなものが要らないというか、出来ないんだと思う。それに人間と交流が深まれば人間達が魔界へ流れ込んで来て魔族は追いやられてしまう・・・と言うところじゃないかな?」


確かに人間が魔界へ生活圏を広げる事はあっても魔族が人間界に進んでくるとは考え難い。

思ってるほど簡単に相入れれるわけではなさそうだな。

ウラクムモロス戦線が成されたとして、その先に平穏はあるんだろうか・・・。

滅んだはずの魔族の存在が明るみになりむしろしいたげられる・・・。

最悪"ウラクムモロスは魔族の手先"なんて事にされかねない。

そんな事を考え出すと人間ってすごく醜い種族だなと思えてくる。

「今更なんだけど、魔族の事を考えたらウラクムモロス討伐に魔族の力を借りない方が良いんじゃないか?」

レーティアはやや複雑な表情で言った。

「魔族、そんなに頼りにならない?」

「あ、いやそうじゃなくて・・・」

俺は今思っていたことをレーティアに伝えた。

「ふーん・・・さっきからなんか物思いにふけっていると思ったらそんな事かぁ」

「イヤイヤ、そんな事かって程軽いもんじゃないと思うぞ」

やや強い口調で答えた。


「お父様も、そのくらいの事はわかってると思うよ。だから私たちの力を見たいんじゃないかな?」


ふぅ~

「そういう事か。これは思ってた以上に責任重大だな」

「えー今更!?」

「えっ?」

レーティアとの温度差に驚きを隠せなかった。

正直俺は、ウラクムモロスを倒せば、それで全てが解決すると思っていた。

どうすれば全てが丸く収まるのか・・・・・・

「なになに、また考え込んでるよ・・・」


ふぅ~

今度はレーティアがため息をついた。

「とにかく、まずはこの試合で勝たないと始まらないんだから、とりあえずまずは勝つことを考えないと!後の事はそれからだよ!」

確かにあれこれ考えても事が進めば意外と問題なく、ただの取り越し苦労なんて事はよくある話だ。

「そうだな、勝ってもないうちから勝ったあとのことを考えても仕方ないもんな。そうと決まったら特訓だ!」

「いいねいいねその感じ!ビシビシ行くよー」


その後二人は妙なテンションになり最終追い込みの特訓を始めるのだった。

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