♂♀魔界へ

「魔界ってやっぱ魔物とかいるのか?」

「そりゃいるわよ」

「そいつらが突然襲ってきたりするんじゃないのか?」

「まぁ、一希1人なら確実に襲われるかな。魔界の生き物は人間が嫌いだから」

「今はレーティアといるから大丈夫って事か」


「ただ、問題はお父様とそれに近い所にいる魔族の側近」

「側近?」

「彼らは大戦の生き残りなんです。なので人間に対し憎しみこそあれ、歩み寄るなどと言う考えは欠片も持ってないのです」

「それはクラリアスもじゃないのか?」

「そうですよ。クラリアスも人間に対しては憎しみしかしなかったはず。ただ、亡き女王に私の事を託され、その私が人間に対して歩み寄る姿勢を示していたからそれに従っていただけで本意では無かったでしょう」

一希が思い返すとクラリアスには確かにそんな節があったと気がついた。

「魔王は・・・お父さんはどうなんだよ?」

「そうですね・・・。現状で言うとクラリアスと全く同じでしょう。お父様自身は人間に対して憎しみしかない、ただ、私はそうじゃないと言うのも知っていて、きっと板挟みになっているはず・・・」

・・・・・・。

「言葉は悪いが"レーティアがこちら側にいるうちは安全"と言う事だな」

「・・・どうでしょうか・・・」

「それは娘を敵に回すってことか?」


「結果、大戦でも女王を犠牲に魔族を守ると言う選択をしていますから、私を切り捨て魔族を優先すると言う事は否定できません・・・」

・・・・・・。

「それは絶対に止めよう」

「え?」

「魔族が滅ぶ、人間が滅ぶ、自らの信念のもとに行動して結果としてそうなったのなら仕方の無いこと。ただ、それが妥協のおもいで切り捨てるなんて間違ってるよ」

「口で言うのは簡単だけど・・・」

「今回は前と大きく違う所が2つある」

「違うところが二つ?」


"魔界の姫は人間と仲良くしたがっている"

"異世界から来た人間の勇者は魔族の姫との結婚を望んでいる"


「レーティアも俺にもただの一人と言う存在だけど、お互いの種族に対する影響力は世界を動かすに十分事足りるものだ」

「そんなものかな?」

「あのクラリアスでさえレーティアが為に人間を手にかけることはなかっただろ?」

「確かにそうかもしれないけど・・・」

「レーティアのお父さん・・・魔王だって人間を滅ぼそうと思ってるなら、それなりに行動を起こしてるはずだ。それにウラクムモロスの脅威は人間だけでなく、エルフやドワーフ、魔族にまで及ぶ事を知ってもらえば同盟関係くらいにはなれる可能性が十分ある」

「確かに、お父様は私が人間界へ行く時に目立つ行動は控えるように釘を刺さしてきました。それは今は人間と事を交えるべきではないと言うお考えからかもしれません」


「それに、ウラクムモロスのあのチート的な力を考えたら、人間の団結力、エルフの知力、ドワーフの武力、魔族の魔力、全ての力を集結して挑まないとダメだと思う。戦う相手が神に近い存在なんだし、昔、戦国武将に三本の矢の話をした人がいたけど、今回はそれを超える四本の矢を持って挑まないと絶対に勝てない相手だ」

「チート?三本の矢・・・?」

レーティアはその言葉に違和感を覚えていた。


「・・・三本の矢、三本の矢・・・。なんの事か分からないけど知ってる気がする不思議な感じ」

「そりゃ人間の時に学校で習っているはずだからな」

一希はそう答えながら笑っていた。


などと、レーティアと2人で話しながら魔界の扉のある場所へ着いた。


「ここは以前出会い頭に遭遇した場所だな」

「あの時は驚いたよ。お互いの魔法の扉を抜けたら目の前にいたもんね。でも、人間界にいて魔法の扉を抜けてくるって言うのはどういうことなの?」

「う~ん・・・あれはミューの何とかって魔法で空間移動みたいな魔法なんだ。なんか好きなところに瞬間移動できる的な」

「へぇ~その魔法ってクラリアスが行った"運命の世界"には行けないのか?」

「どうかな?あの時は"運命の世界"の存在を知らなかったから聞くことも出来なかったし・・・。でも、なんか行けそうな気がしなくもないな」

「次会った時ミューさんに聞いてみましょう」


話が終わるとレーティアは目を閉じ魔力を高めた。

次の瞬間魔力の波のような波動を感じ一希は思わず目を閉じた。

そして目を開けるとそこには赤黒い鱗にとても高貴な翼を持った人型の存在があった。

「・・・・・・。怖いよね・・・嫌いになった?」

レーティアは悲しそうな目をした。

「いや、この姿を見るのは2回目だ。もう驚かないよ」

「え?」

レーティアは一希の意外な反応にやや困惑していた。

「えっとあれは・・・ここで鉢会った時だよ。俺が凍死しそうになっていた時にレーティアが自分分の体を燃やして溶かしてくれたじゃん」

レーティアはあの時半ばパニック状態だったのであまり記憶に残ってないようだ。

「そ、そうだっけ・・・ごめんなさい・・・なんだかあの色々と時衝撃的な事ばかりで記憶があまり残ってなくて・・・」

「ま、まぁあんまり誇らしいもんでもないから覚えてなくて逆に良かったのかも」

と、誤魔化してみた。


クスクスッ

レーティアは本当に面白かったようで自然に笑っていた。


「んじゃ扉を開けるね」


レーティアは右手に魔力を集め手のひらで扉を押すような仕草をした。

すると目の前に光の扉が現れ空を開いた。


その扉の向こうの空間は赤黒い夕焼けのような空に、ゴツゴツした地面を見ると、岩山のような場所だと思われる。


「一希さん」

「一希でいいよ、さん付けされたら気持ち悪い」

「うぅ・・・か、一希、空に飛びたくない?」

レーティアはものすごく恥ずかしがっている。


「そうだなー、飛行機にも乗ったことがないから飛んでみたいかな」

「ヒコウキ?」

「あぁ、元いた世界で空を飛ぶ間乗り物だよ。遠くへ行く時の交通手段だ」

「それとは違うけど、移動手段で空を飛ぶのは一緒だね」

そんな会話をしながら扉をくぐった。


一希は扉をくぐった瞬間、別世界と感じる明らかな空気の違いを感じた。

「おや?姫様」

「あ、ワイバーンやさんのおじさん!」

「別にワイバーン屋と言うわけではないのですが・・・っ!?」

「ん?」

レーティアはワイバーン屋の親父さんの顔つきの変化に気づいた。

「な、なんで人間が!?」

!!!

「あーあのですね・・・これにはとても複雑な事情がありましてですね」


一希はこのワイバーン屋さんと呼ばれているおじさんの風貌に気圧されていた。

と言うのも、身の丈は2メートルはあるだろう長身にムキムキの筋肉、そしてアフロをひっくり返したようなあごひげ、ツルツルの頭に短い角のようなものが二本生えている。

よくゲームなどに出てくるオーガと呼ばれる種族、鬼と人が合体したような感じだ。

怖いと言うよりか、物凄いプレッシャーを感じる。


「姫!事情も何も人間なんか連れ込んだら大事ですよ・・・・・・」

「話せば長いのですが、とにかく一希さ・・・一希は味方なんです」

「そんな馬鹿な話あるわけないでしょ。お前一体何を企んでる!?」

そう言うと、オヤジは一希に対して構えをとる。

「ちょちょっと待って下さい!本当に何も企んでないですから!!」

「おやめなさい!」

レーティアは一喝した。

「は、はい・・・」


「一希は本当に敵ではありません。一希は私の結婚相手なんです!」

!!!

一希はおもむろに"結婚相手"と叫ばれたことに恥ずかしさを感じていた。

魔族には浸透のない言葉で口にしても抵抗感はないんだろうけど、俺の世界でこう叫ばれたらかなり恥ずかしいことこの上ない。嬉しいけど・・・。

「け、結婚相手!?・・・結婚とはなんですかな?」

この、何かわからないのに驚いていると言うそれはボケてるとしか思えない反応だ。


「結婚とは魔族で言うところの"二身一体の契"の事です」

「二身一体の契ですと!?!?」

この絵に書いたような反応・・・ホントにあるんだな・・・。

「人間と魔族が!?」

オヤジの頭の中はパニックになっているようで目が泳いでいる。

「王はご存知なのですか??」

「直接話してはいないですが、それとなく耳には入ってるかと」

オヤジは頭をかいたり、髭をさわさわしたりかなり動揺している。


「と、とりあえず状況は呑み込めました。が、しかし人間はワイバーンに乗ることは難しいかと・・・」

「乗り方なら私も説明できますから大丈夫ですよ」

「いや、そうではなく、いくら飼い慣らされてるとは言え目の前に人間がいたら一口で胃袋の中ですよ・・・」

「な、なんかいい方法はないんですか?」

一希は思わず質問した。


人間とのコミュニケーションを取るのが不愉快なんだろう、あからさまに嫌そうな顔をしている。


「魔族と同じ匂いがすれば食べられんとは思うがの」

具体的にどうしたらいいのか全くわからん。


レーティアがポンと手を叩く。

何か思いついたようだ。


「私がギューッとして匂いつけてあげよっか!」

「なんのマーキング行為だよ!」

思わず突っ込んだ。

「チェッ、いい考えだと思ったのに・・・」


「ん!?」

オヤジが何か反応した。

「お前、なんで魔族の匂いがするんだ?」

「?」

「気をつけてみれば、わずかだが魔族の匂いがするぞ!」


一希は全く心当たりがない。

「えーっと・・・レーティアの側にいたから匂いうつった・・・のかな?」

「なんで私が臭いものみたいな言い方なのー!?」


「!?」

「姫じゃない・・・これは何か知っている匂いだ・・・」


うーん・・・なんだろ・・・

「と、そもそも、その魔族の匂いってのはうつるもんなんですか?」

「いや、"匂い"と言っても、そういう物理的な匂いじゃない。気配だとか、独特の魔力の質と言うか、どっちかと言うと気配ようなものだ」

そう言われると余計に心当たりがない。


!!!

親父は何か思ったのか目を大きく見開きながら呟いた。

「ク、クラリアス様・・・?」

!!!

その言葉にレーティアと一希は驚いた。

「その人間からする魔族の匂いはクラリアス様と同じ匂いだ!どういう事か説明しろ!」


「あっと、えーっと・・・その・・・」

突然の展開にレーティアは反応に困った。


一希はバッグからクラリアスの根源を取り出して見せた。


!!!!

「こ、これは・・・・・・」

「クラリアスの根源だ」

「・・・あ、ありえない。なぜこのような事が・・・」

あまりのショックに親父は膝をつく。

レーティアはオヤジの肩に手を当て事の次第を説明した。


━━━━━━━。


「そんな・・・あのクラリアス様が人間を逃がすために命を犠牲にするなんて・・・」

オヤジは悲しみと悔しさが頭の中を錯綜していた。

「それは違う!」

一希は強い口調で答えた。

「あいつは人間の為に自分が犠牲になるような事をする奴じゃない。クラリアスとは短い付き合いだがそれだけは断言出来る」

「ではなぜ・・・」

「レーティアのためだよ」

「・・・姫の為?」

「あのウラクムモロスの異次元的な強さは俺たち二人に絶対的な死を認識させた。そんな中クラリアスはなんとしてもレーティアだけはアイツから守らねばと言う想いから、憎むべき人間の俺に全てを賭けたんだ」

「なぜお前なんかに・・・お前なんか捨ててクラリアス様だけが逃げる・・・」

「無理だったんだ!それほど奴は強すぎたんだ!あれだけ強く頭の良いクラリアスだ、逃げれるものなら迷わずそうしていたさ。それが出来ないと悟っていたからこそ、奴からレーティアを守るには俺を逃がすしかないと考えたんだ」

オヤジは言葉を失っていた。

「クラリアスが"姫を頼む"と俺に伝えた瞬間、噛み締めた口元から流れ落ちた血をみればどれほど辛い決断だったか・・・そして最後に自ら根源をえぐりだし、それを俺に託したんだ」

オヤジは信じられない表情のまま固まっていた。

「だけどそのおかげで、今こうしてこの瞬間がある。そしてウラクムモロスの存在も伝えることげできる。あとは魔王の力を借りることが出来ればベルゾデイァを討ちクラリアスの無念も晴らすことが出来る」

「ワシにはもうどうしたものかわからん・・・。とりあえず王の元へ行ってくれ」

「ありがとう!」

そう言うとオヤジはワイバーンを呼んだ。


レーティアと一希はワイバーンにまたがり、レーティアの指示で飛び上がり魔王の住む王城へ向かった。


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