♀違和感
私はどうすることも出来ないまま、時間だけが過ぎていった。
沈黙の中私は口を開いた。
「もう1時間くらい経ちますね・・・」
「そうですね。いったい二人に何が起こってるのやら・・・」
「あのクラリアスの言いようからすると、まだ一希殿のことを覚えているという事はとりあえず無事と言う事じゃな」
「そうですね」
ミューはうなずいた。
「しかしここでこうしておっても拉致があかんしのぉ・・・」
・・・・・・。
「一旦解散しましょう。モルドフさんの言う通りここでこうしていても何か出来るわけでもありませんし、ここに帰ってくるかどうかも分かりません。それに2人が戻ってきたら余程でなければ、魔力の気配で感知も出来ますから」
私もミューの意見に賛成とうなづいた。
「ならワシはここでしばらく待機しておるわい」
私はどうして良いのかわからず困惑していた。
その時ミューの方から声をかけてきた。
「レーティアさん、しばらく私と行動を共にしませんか?」
仲が悪いとは言わないまでも、共に行動すると言うほどの仲でもないミューからの意外な言葉に少し面食らった。
「はい。特に戻るところもありませんし、その・・・泊まるところもありませんし・・・」
少し恥ずかしいのかモジモジしながら答えていた。
「そうでしたね。でしたら尚のことご一緒しましょう」
「はい!」
二人はとりあえず宿に戻ることにした。
「ミューさん・・・。私ってミューさんの敵ですよね?」
ミューは苦笑いしながら答えた。
「いや、以前は問答無用に仕掛けてきたので応戦しただけですよ、別に私は敵だとかやっつけようとか、そう言うのは全くないですから」
「そ、そうだったんですね。ごめんなさい」
「にしても、レーティアさんの立ち位置すごく複雑ですよね・・・。魔族として毅然と振る舞うのか、人間と歩み寄るのか・・・」
「お父様の話を聞いていただけの時は人間は憎くて仕方なかったですけど、一希と出会って、自分の目で人間を見て、少し人間に対しての見方が変わったのは事実です。お父様もその事には薄々気づいていると思うのですが・・・」
そんな何気ない会話をしながら宿に向かっていた。
宿に着いた。
「レーティアさん、そう言えば村長さんに会うとかいってませんでしたか?」
「あー、ウラクムモロスの件ですね」
「今状態が状況なので一旦お断りした方がいいんじゃないですか?」
・・・・・・。
内心どうしたものか悩むと言うよりか困り果てていた。
何とか助けに応じたい気持ちがあるのに、なす術がない葛藤に自然と眉間にシワがよる思いだ。
「レーティアさん、眉間にシワがよってますよ!そんな可愛いのにシワシワのおばあちゃんみたいです!」
その言葉にハッとした。
「レーティアさんの気持ちわかる気がしますが、ここは曖昧な返事をすべきではないと思います」
苦しい胸の内から解放されたかったのか、ミューの言葉にもたれ掛かるようにうなずいた。
「そうですね。断るとまでは行かないにしても、機を見てと言うところですね」
「うーん・・・。私なら完全に断りますけどね・・・相手が相手だけに断った所で誰もが理解出来ると思いますし、ウラクムモロスがどういう存在か知っていれば尚のことですよ。頼む方もダメ元でしょうし・・・」
「とりあえず村長さんの所に行ってみます」
「せっかくなので私もご一緒します」
ミューはニッコリ微笑んだ。
私もその明るい笑顔に釣られ、自然と微笑んでいたようだ。
「レーティアさんもそんな可愛い顔できるんですね」
!!!
意外な言葉に顔を赤くしていた。
「な、な、な、何を言うんですか!?」
「だってとっても可愛いですよ!私の方が可愛いですけどね!」
・・・・・・
プッ
アハハハハ
2人は思わず大笑いした。
「そう言えば少し気になっていたんですが、ミューさんっておいくつなんですか?」
「私ですかぁ?」
「いくつに見えます?は、なしですよ!」
「ぶーー。人間の年齢で言えば14歳ですね」
「お、お子様じゃないですか!?」
「・・・レーティアさんも一希さんと同じ反応ですか・・・。エルフの年齢としては38くらいですよ!!」
「うわ、おばさん・・・」
「レーティアさん酷い・・・」
当然の反応と言えば突然の反応だ。
「ご、ご、ごめんなさい、つい、その、本音が・・・」
「ホンネって・・・。そう言うレーティアさんも見た目20、2、3くらいに見えるんで魔族年齢なら相当なもんなんじゃないんですか?80歳とか?」
ミューは目を細めて小憎たらしい顔をしながら言った。
「・・・・・・」
私何歳だろ・・・。
「急に大人しくなって・・・もしかして怒っちゃいました?」
「あ、いや、自分の年齢が分からなくて・・・」
「そうか、転生してるからか・・・まぁ歳なんてどうでもいいんですけどね」
たしかに、歳の話なんて話す話題のない時につかうあれだ・・・気にしても仕方ない。
そう言えば、ミューさんは一希がこの世界に来てからずっと一緒だったって言ってたなぁ・・・。
「ミューさんは一希の事どう思ってるんですか?」
ミューはニヤっとした。
「あれですね、ヤキモチですね!」
「あ、いやそうじゃないんですけど」
「好きですよ!」
!!!
ミューの一言に何かグサッと胸に刺さるような感じがした。
「なんか"ほっておけなくて気になる感じ"と言うんでしょうか?母性本能をくすぐられる感じって言うんでしょうか?生まれたてのヒヨコみたいな感じですかね?」
"好き"の意味の違いにどことなくホットした安堵感を得た。
「大丈夫ですよ!レーティアさんと一希さんの事は存じてますから!」
まるで心の中を見透かされてるようなこの言葉に少し恥ずかしさを覚えた。
「転生なんてさせられなければ幸せでいられたのかなぁ・・・」
思わず本音が出た。
「でも、元の世界のことは覚えてないんでしょ?」
「ええ・・・」
「なら今の事を考えないと!と言うか今が本当の姿で元の世界が仮の姿って事でしょ?」
確かに転生させられた仮の姿だったという事になるのか。
そんな話をしているうちに村長のところに着いた。
「すいませーん!ボウケンジャーのレーティアですぅ!」
「ボ、ボウケンジャー??」
あっ・・・・・・
レーティアは恥ずかしくて真っ赤になった。
「これはその、色々ありまして・・・」
ミューにレイナスとのやり取りで村長にボウケンジャーと名乗った事を説明した。
「あははは・・・そうなんですね。色々と大変ですね」
ミューは苦笑いしていた。
「おお、わざわざすまんねぇ」
村長が出てきた。
「昨日はお世話になりました」
「いやいやこちらこそレイナスの事でお世話になりました。で、今日はどうされましたかな?」
なんか昨日の今日で切り出しにくいなぁ・・・・・・
レーティアの顔色が少し曇ったのを見て村長の方から切り出してきた。
「何かお困り事でもおありですかな?」
「ええ、その・・・昨日のウラクムモロス討伐のお話なんですが・・・」
「ウラクムモロス討伐??なんの事ですかな?」
「えっ?」
!?
ミューも驚いた。
「村の人が襲われたとかでレーティアさんにウラクムモロスの討伐依頼をしたと聞いたのですが・・・」
「お、こちらの方は?」
ミューは一歩下がって頭を下げた。
「申し遅れました。私はエルフの長が一人ミューステアと申します」
それを聞いた尊重は膝をつき両手で拝み出した。
「まさかエルフの長であるハイエルフ様に会える日が来ようとは思いもしませんでした。ありがたや、ありがたや・・・」
ドワーフとエルフって仲が悪かったんじゃなかったっけ?
そんな事を考えていたのが顔に出ていたようだ。
「"エルフとドワーフは仲が悪いのになぜ?"と言いたげな顔ですな」
アハハハハ・・・
見透かされていた。
「確かに種族としてはそうなんじゃが、わしは以前エルフの方々に命を助けられてな。それ以来エルフには感謝の思いしかありゃせんよ。そのエルフの長であるハイエルフ様にお目にかかれるとはこれを奇跡と呼ばすしてなんとするものか・・・」
そういうものなのか・・・。
普段から見てるからそんなに特別な感じはまったくないや。
「その、ウラクムモロス討伐の話なんですがどういう事ですか?」
「いや、それは私の方が伺いたい所です。ウラクムモロスの討伐依頼などしておりませんよ」
「でも昨日、村人が殺されたからって退治して欲しいって!」
私は声を大きくしていった。
「いやはや、誰も殺されたりしておりませんよ。何かの勘違いでは無いですかな?」
「そんなことは無いよ!レイナスもいたし、レイナスも討伐は無理だって話してたじゃない・・・」
「うーん・・・。申し訳ありませんが、本当になんの事やら・・・」
「では、そのレイナスさんと言う方に会いに行ってみましょう」
ミューがそう言うと、私は頷き手を引っ張るように急ぎ治療院に向かった。
はぁはぁはぁ・・・
「レーティア・・・さん・・・しんどい・・・ですよ・・・ハァハァ」
そんな声にも気をかけずとにかく走った。
「もぉー・・・レーティアさ~ん~~・・・」
ハァハァハァハァ・・・
「ここですか・・・ハァハァ・・・」
着くなり中に入り受付の人に事情を話しレイナスとの面会許可をとった。
バタン!
部屋に着くなりものすごい勢いでドアを開けた。
そして、レイナスの元へ駆け寄った。
「レイナス!昨日村長からウラクムモロスの討伐依頼の話あったよね?」
レイナスはその気迫に驚き目をパチクリさせていた。
「ねぇ!村長言ってたよね?」
「急にどうしたのよ!?村長?昨日はそんな話出なかったけど・・・何よりウラクムモロスなんて倒せるわけないじゃない」
ガタン!
!?
「も、もぅ・・・レーティアさん一人で突っ走りすぎですぅ・・・」
ハァハァ・・・
ミューのその疲れ果てた姿を見てハッとした。
「ご、ご、ごめんなさい。つい気が先走ってしまいました」
「もぅ・・・本当ですよ」
状況がよく分かってないレイナスはポカンとしていた。
「あー、えーっと・・・この方は?」
「は、初め・・・まして・・・私はエルフのミューと・・・申します。ハァハァ」
「初めまして・・・少し休憩されてはいかがですか?」
息付く暇もなく返事をした。
「お気遣いありがとう・・・ございます。単刀直入にお伺いしますが、村長からウラクムモロス討伐の話は無かったというのは本当ですか?」
「はい。昨日はレーティアさんと色々ありまして、それの報告をしていただけで、ウラクムモロスの話は何も・・・」
「では、村の人がウラクムモロスに殺されたという話は?」
「???」
レイナスはなんの事か心当たりが無い様子
「そんな話ありませんよ・・・。もしそんな事があったなら村全体に知れ渡ると思いますけど・・・」
???
私は何が何だか訳が分からずいた。
ミューもどういう事なのか理解できなく困惑していた。
「レーティアさん!」
ミューが突然大きな声で呼んだ。
「ハ、ハイィ!?」
突然の大きな声に驚いた。
ミューは私の耳元で話しかけてきた。
「その、殺された村の人の事って誰だがご存知なんですか?」
「あ、いえ、村に来たのは昨日が初めてなので・・・」
ミューは何か思うことがあるのか考え込んでいた。
「それがどうかしたんですか?」
「いえ、さっきの事があったので、勝手に結びつけてるだけかもしれませんが、ひょっとしてクラリアスさんが言っていた"運命の世界"と関係があるのではないかと思いまして・・・」
「えっ!?どういう事ですか?」
レイナスが私の肩をチョンチョンつついてきた。
「一体なんの話しをしてるの?」
「あーえーっと・・・ちょっと説明が難しいかな・・・」
「?」
「ゴメン。ちょっと話がまとまったら説明するから、ちょっと席外すね」
そう言ってミューと部屋の外に出た。
「今の話どういう事ですか?」
「あくまで推測・・・いや、ただの妄想かもしれませんが、その殺された村の人は運命の糸から切り離されたのではないかと思いまして」
!?
「切り離されたからそれに関する話自体が無かったことになってる!?」
「でも私はおぼえてますよ?」
「さっき確認したと思うのですが、レーティアさんが知ってる殺された人ってのはどこの誰なんですか?」
「えっと・・・・・・」
!!!
「そういう事か!どこの誰だか分からないからそれ自体関わってないって事なのか」
「多分」
「つまり"ウラクムモロスと運命の世界とは何らかの繋がりがある"と考えられませんか?」
「ちょっと考えすぎじゃ・・・」
「確かにそうかもしれませんが、その、ウラクムモロスが人間だけを選んで食すと言うのは不自然な話ですよ。なぜその違和感に気づかなかったんでしょう」
「どういう事ですか?」
「つまり、エルフも、ドワーフも食われてはいるんですよきっと。そのうえで運命の糸を切られて誰もその事実に気づけていんです」
「そんな・・・考えすぎじゃないですか?」
「・・・確かに、さっきの今なんで勝手にこじつけてるだけなのかもしれませんが、ウラクムモロスと繋がってたとしたら、正直とても厄介ですよ・・・本当に討伐しないといけない事態になるかもしれません」
クゥゥー、クラリアスにその辺の事聞けたら何かわかるかもしれないのに。
まあ、あの様子では教えてくれそうには思えないけど・・・。
「とりあえずレイナスさんと村長さんにもう一度事実確認を取って一旦宿へ・・・いや、モルドフさんの所へ向かいましょう」
「そうですね」
コンコン
「はいどうぞ」
ガチャ
「お待たせー」
「なにそれ?最初来た時はノックもなしに襲いかかるように飛び込んできたのに、今更そんな上品な入り方するの?」
レイナスは笑っていた。
「アハハ、そう言われると返す言葉がないよ」
「で、その話っての話してくれるんでしょ?」
内容が内容だけに話しにくいなぁ・・・
「ウラクムモロスが絡んでるわけ?」
レイナスがきっかけをくれた。
「ええ。もう一度確認したいんだけど、昨日村長といた時ウラクムモロス討伐の話は出なかった?村の誰かが殺されたとか・・・」
「うん。本当に何も無かったよ。間違いない」
「そっか・・・。実はね・・・」
━━━━━。
私は信じてもらえるかは分からないけど、事の説明と可能性を説明した。
・・・・・・。
「半分・・・かな」
???
「正直信じれそうなのは半分くらいって事」
「半分は信じてくれるんだ」
「ん?勘違いしてるわよ。信じれるところはないわ。嘘だと否定も出来ないし、本当だと肯定もできないって事」
「なんかよくわからない言い回しするね」
「信じろって言われても、ウラクムモロスが人を食べたって話は聞いたことないし、その、なに?運命の世界?そんなものがある事すら胡散臭い話じゃない・・・けど、レーティアが嘘をつくとは思えない。だから半分かな」
「あぁぁ・・・なるほど薄まってる感じなのね・・・」
しかし、レイナスの気持ちがよく分かる。
自分が逆の思うはずだ。
「恐らくもう一度村長さんに尋ねたとしてもきっと同じ答えが返ってきますね」
私もそう思い頷いた。
「とりあえずモルドフさんの所へ行きましょう」
「はい」
私も現状それしかないと思いミューと一緒にモルドフさんの所へ向かうことにした。
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