♂食うか喰われるか
クソッ・・・今のは何なんだ??
周りに光のサークルの様なものができたと思ったら閃光の様なものに包まれ、その眩しさから目をつぶっていた。
目を開けるもその眩しさからよく見えなかったが、目が慣れてくるにつれ見えてくるものがあった。
なんだ・・・ここは?
そこには見たことも無い風景が広がっていた。
・・・遺跡?
いや、神殿・・・か?
それを見て真っ先に思い浮かんだものは、パルテノン神殿だった。
パルテノン神殿とは違うがそれをイメージさせる様な形状の建物だ。
そう思わせる朽ちた感じもある。
ふと思い返すと、あの閃光の感じはこの世界に召喚された時の感じとそっくりだった。
そうか、どこかに転送されたのか・・・。
しかし一体なんの為だ?
そう言えば・・・
"一希を殺しては姫が悲しむので、一希と言う存在そのものを根元から消し去ってやる"
とか言いながら、なんか魔法使ってきたな・・・。
そう言ったんだから死んではいないんだろう。
それと"消し去ると"いう言い回しからすると同じ場所・・・いや、同じ世界では無いどこかへ飛ばされたと考えるべきか。
それに"根元から"ってどういう事だ?
・・・全くわからん。
ただ、外傷は全くない。
辺りを見回すが真っ白な空間に神殿がある以外は何も無い。
足元は雲のような物で霧がかっており、どうなっているのかよく分からないが地面に立っている様な感触はある。
とりあえず神殿の周囲を歩いてみたがやはり何も無い。
つまり、神殿に入るしかないって事か・・・。
こうしてても仕方ないので腹くくって入るとするか。
ブワーーーッ
そう決意した瞬間、後方から突風のようなものが吹き抜けた。
なんだ??
「ここなら邪魔は入らんよ」
!!!!
その声は見るまでもなく誰かわかった。
「お前一体俺に何をした!?」
「先ほど姫に説明したばかりで、同じ説明をするのが面倒なんだがねぇ・・・」
「なら質問を変えるよ。どうやったら戻れる?」
「私がもう一度イグゾニアスの魔法を使えば戻れるさ」
「どうせ使う気はないんだろ?」
クラリアスは目をつぶりため息をついた。
「お前は本当に頭が悪い。私が戻るために使うに決まっているだろう」
ムカー!
こいつの気どった感じが妙に腹に経つ。
だが様子が変だな。
やけに落ち着いているというか、殺す気どころか戦う気さえなさそうな落ち着きぶりだ。
「お前なんでそんなに落ち着いてるんだ?」
「本当に頭が悪いな・・・」
クソ、マジで腹が立つ・・・
一体なんなだよ
「お前が俺を殺せば戻れなくなるだろ。だから、お前は俺を殺ろす事が出来ないと言う事がわからんのか?」
そういう訳か・・・。
「ならもうちょっと付き合えよ。ここはどこでなんの為にこんなとこ連れてきたんだ?」
「・・・阿呆が。説明するのが面倒だと今」
「もういいって」
クラリアスの言葉を遮るように言い返す。
「お前は殺されない前提でいてるようだがそれは違うぞ」
「それはどういう事かな?」
「お前でもこの意味が分からないんだな」
一瞬クラリアスのまゆがピクピクした。
「お前は、自分が死ねば戻れなくなるので、殺ろされる事は無いと言う前提でいるようだが、とんだ見当違いだ」
「何を意味のわからんことを」
「とうせ俺を殺すか、殺さないにしても戻すつもりはないんだろ?どの道戻れないなら"お前を殺して共倒れ"と言う選択肢がある事を見落としてるんだよ!窮鼠猫噛みってやつだ!」
「キュウソネコカミ?何を言っているのかよく分からんが、やはりお前は天然のド阿呆だな」
「阿呆はお前の方だ。お前は殺されるかもしれないんだぞといってやってるん だ、気づけよ」
ハハハハハ
「それで私を脅しているつもりか?アホもここまで来れば面白いもんだな」
「いいか、まず、私を殺せる可能性は0だ。それに私にはお前を殺すつもりがない」
「えっ!?」
「むしろこちらの要件が済んだら帰してやるさ」
そう言うとクラリアスは不敵な笑みを浮かべていた。
どういう事だ・・・?
全く状態が理解できないぞ。
シュン
サワーーーー
一瞬何かが体を通り過ぎたような妙な感覚に襲われた。
その瞬間あたりは真っ白な光に包まれ何も見えない。
・・・・・・。
光がおさまるとそこには人間が・・・いや、ドラゴンの翼を持った人がいた。
一体何者だ?
「なんだ貴様たちは?」
突如現れたそれが話しかけてきた。
「おや?貴方は何者でしょうか?」
クラリアスが問い返した。
ザシュッ!
次の瞬間クラリアスの右手が宙を舞った。
「ぐぁぁわぁぁ・・・い、一体何が起きた!?」
「質問しているのは我の方だ」
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!
これは絶対ダメなやつだ・・・。
強いとか弱いとか勝てる勝てないとかそんな低次元の話じゃないぞ・・・。
俺が1だとしたら、あれは何万いや、何億の存在なんだ!?
と思えるほどだった。
「クッ・・・わ、私はクラリアス。魔族だ」
クラリアスも同じようなプレッシャーを感じたんだろう。
あの偏屈の捻くれ者が素直に答える事しか出来なかった。
「ほう、魔族か。魔族ごときがなぜ我の聖域にいるのだ?」
「貴様の聖域だと!?」
!?
やつの聖域?
「ここは私が見つけた運命の神殿だ」
「・・・運命の神殿・・・か。あながち間違ってもおらんな」
運命の神殿!?
その名前から何となく察しがついた。
ここで、何かをどうかすれば俺の運命が変えることができるんだ。
だからクラリアスはここに俺を連れてきたのか・・・。
「ここは"レグジュポット"と言う我の生命の根源だ」
「レグジュポット?」
「そう、我ら龍神の言葉で"命の壺"という意味だ」
龍神?命の壺?
なんだかさっきから聞き及びのない言葉ばかり出てくるぞ。
「そこのお前・・・なぜここにいる?」
指さされたのは俺だった。
思わず"俺の事知ってるのか?"と聞きかけたが、さっきのクラリアスのビジョンがフラッシュバックし、口から言葉が出るのを踏みとどめた。
「・・・・・・」
クラリアスは千切れた腕を拾い、魔力でくっつけていた。
「おい、一希・・・戦えるか?」
「なんだよ藪から棒に。ってアイツとか!?」
「他に誰がいるんだ、アホめ」
「イヤイヤ無理に決まってるだろ勝てるわけが無い!」
力の差が分からないのか!?
「お前は正真正銘のアホだな。倒せとは言ってない。俺が戻るための魔法を発動させるまでの時間稼ぎだ」
「それってどのくらいだよ!?あんな化け物持ってせいぜい5秒だぞ・・・・・・」
「5秒あればなんとかなる」
「何とかなるのかよ・・・ってそれで俺は死んでお前だけ戻るのかよ」
「ここに来た時点でお前は死んだも同然だ。諦めろ」
「なら最後にここがなんなのか教えろよ」
「・・・冥土の土産と言うやつだな」
そんな言葉を自分が聞かされる日が来るとは思いもしなかった。
「ここは世界と全ての存在が繋がる場所だ。ここで運命の糸をきられると、今までの世界との関わり全てがなかったことになる。つまり、そこにお前はいなかった事になるという訳だ」
なるほど、それで俺の運命の糸を切りに来たわけか。
「その運命の糸を切るだけなら俺がここにいる必要は無いんじゃないのか?」
それを尋ねた時、奴が突如目の前に現れ、片手で俺の首根っこを捕まえ持ち上げていた。
「うぐっ・・・」
「なぜここにいるのかと尋ねたんだが聞こえなかったか?」
ズサッ!
クラリアスがやつの腕をきりおとした。
そして、そのまま俺の襟元を掴み引っ張るようにやつから距離をとった。
「ふむ。不意打ちとはいえ我の腕を落とすとは、並の魔族では無いということか」
クラリアスは俺の耳元でこう言った。
「私は恐らくもう助からん。奴の聖域とやらに踏み込んでしまったようだからな」
ゴクリッ
俺はクラリアスが死を目の前にし、最後に何かをやろうとしている事をそれとなく察した。
「いきなりなんなんだよ。らしくもなく神妙じゃないか」
「時間が無いので一度しか言わんぞ」
「奴の行動を見る限りお前を殺す気は無いようだ。その気があるなら俺の時の様にあっさりやれるはずだからな。とりあえず俺はやつの正体を暴く。そして、イグゾニアスでゲートを作ってやるから元の場所にもどれ。そして、何とかしろ」
「元の世界に戻れだと?それに何とかしろって言われても・・・」
「・・・姫を・・・姫を頼む」
そう言うとクラリアスの唇から青い液体が一筋の線を描いていた。
あれは魔族の血なんだろう。
血が出るほど噛み締めたその唇をみれば、どれほどの屈辱的な思いで言ったのか容易に想像できた。
そして、プライドを捨てて、憎むべき相手に頼むほどレーティアの事を想っているのかを。
クラリアスが叫んだ。
「おい化け物、いや龍神と言ったか・・・。お前は一体なんなんだ」
「そうだな、お前たちが"ウラクムモロスと読んでいる存在"と言えば分かるかな」
!!!
!!!
「ここで何をしているんだ?」
「我の根源だと言ったただろう。ここで作られた命草(めいそう)を食している」
「命草?」
「貴様が運命の糸をと呼んでいるものだ。ここに繋がっている者達がその世界で生きる事でこの命草は育つ」
「そういう事か」
クラリアスの中で全ての点が繋がっよたうだ。
!!!
クラリアスの体から巨大な魔力を感じる。
魔法の準備が出来たんだ。
"イグゾニアス"
ズドンッ!
そう唱えた瞬間奴はクラリアスの左胸を貫いていた。
さすがの奴もこの魔力の大きさに、ほっては置けなかったようだ。
グハァッ・・・
「ひ、姫を・・・た、頼んだ・・・ぞ・・・」
そう言うとクラリアスは自らの手で右の胸をえぐり何かを取りだし、それを一希に向かって投げた。
「私の・・・根源だ。有難く・・・持ってい・・・け。想いの形は違えど・・・お前の姫に対する想い・・・は、本物だ。任せた・・・ぞ・・・」
そう言うとクラリアの肉体は黒い蒸気となり消えて無くなった。
それを見た俺はクラリアスが命をかけて作ってくれたゲートに飛び込んだ。
真っ白な光とともに意識が飛び、気がつけばさっきの部屋にもどっていた。
俺は床の上に膝をつきながら固まっていた。
その足元には涙の跡が・・・。
自分も気づかない間にクラリアスに対して涙を流していたようだ。
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