♀ミモザとブレイバー

何だか我らの存在が人間達に知られつつあるので少し慎重行動するか。

そう考えるとクラリアスは魔界の門の出口を勇者の島に設定した。

そこから船で王宮のあるバルムラントをめざす。

人間界で1番大きな町なのでミューステアとも出会いやすいだろうと判断の上だ。


クラリアスは勇者の島から船でバルムラントをめざした。

この船という乗り物は本当に時間がかかる・・・。

まぁ急いでる訳でもないので、少し羽を伸ばすつもりでゆっくりするか。


クラリアスは船で4日程過ごした。


船は補給の為バルムラントの手前の港町に着いた。

そこで妙な噂を耳にした。


数日前にバルムラントの港の沖で大爆発を起こした怪しい2人組がいたらしい。

そして、その怪しい2人は勇者とエルフによって追い払われたと。


勇者とエルフというのは恐らく例の2人組だろう。

一体何があったのだろうか?


そう言えばザルババとゾルババも人間界へ向かったと言っていたが、まさか・・・・・・。

まぁゾルババがついているんだ問題ないだろう。


それより姫に悪いことをしてしまったので、お詫びがてらにお土産でも買っておくか。

クラリアスは、今人間界ではやっている"ダンシングビーンズ"と言う玩具を買った。

魔界には玩具のようなユーモアなアイテムがないのだ。

見た目はただのそら豆のような豆だが音楽を聞かせると踊り出すと言う珍妙な豆だ。

それも、音楽の種類やリズムに合わせて動きが変わる不思議な豆だ。

基準がよく分からないが、とりあえず20粒程買った。

補給も終わり船が出発する。

そうして残り3日船の中で過ごした。


ようやくバルムラントについた。

わずかだが魔族の魔力が残っている。

魔族であるクラリアスにしか分かりえないほど微量なもので人間たちがこれに気づくことはない。


ザルババ達に違いない。

ゾルババがついていながら何をやっているのか・・・・・・。


ここではあのエルフの気配は感じないな。

一体どこにいるのやら・・・・・・。


とりあえず"神様の泉"なるものの情報を調べるか。

クラリアスは大聖堂へ向かった。


ドンドン

クラリアスは入口のノッカーでドアをノックした。

「どうぞお入りください」

「神様の御前です。祈りを捧げるといいでしょう」

クラリアスは全く信仰心がないが、とりあえず形だけ祈りを捧げた。


「今日はどう致しました?」

「神様の泉というものについて調べていて、何か知っていれば教えて欲しい」


「神様の泉ですか。今は結婚の儀式の中で聖杯に水をくみ、神様の泉に見立てて誓をたてておりますが、本来ここから南、エルフ地区の手前にあるエーロスの泉が神様の泉なのです」

「何故そこで本当の儀式をしないんだ?」

「神様の泉で行う儀式は、結婚とは違うのですよ。来世でも再び逢えるようにと願うもの。その想いの証として結婚をする事が誓となるのです。その誓を違えるとその2人は現世でも、来世でも二度と会うことが出来なくなると言われています」


「それは神様の力なのか?」

「そう伝えられております。ただ来世でも2人が会えるのか、会えたのかは確認しようがありません。ただ、誓を立て結婚をしなかった2人は会えなくなったという話はいくつも聞き及びがありますので、恐らくですが来世での出会いもきっと現実となる事でしょう」


「結婚以外に他には何か守らねばならない取り決めなどはあるのか?」

「特にはないですが・・・・・・誓を立てて3年以内に結婚しないと、と言う事ぐらいでしょうか?あ、そう言えばその3年間、2人は運命の鎖で繋がりどんな事があっても引き裂かれないとされているようです」


「不思議な話もあるものだな。それに誓を破ると言うのはどう言う状況なんだ?」

「どちらかの心変わりや不貞行為による破局等でしょうか・・・・・・実に嘆かわしい事ですが・・・・・・」

「そんな力が現実に働いているとなるとその神と呼ばれる存在が実在するという事か?」

「神様は存在します・・・が、因果関係に関してはなんとも・・・・・・」


リョウマと言うやつの話は嘘ではなかったようだな。


「ありがとう。物凄く参考になった」

「それは良かった。神の御加護があらんことを」


クラリアスは聖堂を後にした。

とりあえずエーロスの泉に行ってみるか。

クラリアスは町の出口まで歩いていき、少しでた所の林に身を潜めた。


辺りを見回し不振な人間がいないことを確認し魔法を唱えた。

"インビジブル"

"レビテイション"


泉まで姿を消し一気に飛んで行くのだった。

しばらく飛んでいると森の中に開けた場所を見つけた。

あれが例の泉か?

クラリアスはそこを目掛けて飛んで行った。


泉が見えてきたのでクラリアスはそこへ降り立った。


嫌な感じではないが何か妙な違和感があるな。

泉としては別段変わったところもなくただの泉だ。

底は深そうだが・・・・・・。


!!!!


誰か来る!

クラリアスは姿を消していることを忘れているのか森の中に身を隠した。


男女2人の人間がやってきた。

「ここが神様の泉だよ」

「なんか不思議なところだね」

「始めよっか」

2人は頷いた。


何やら羊皮紙にお互いの名前を書いているようだ。

2人は親指にナイフの刃先を押し当て血を出した。

指を名前の上から押し当て血判をついた。

それを泉の上に浮かべるとゆっくりと沈んで行った。

しばらくすると当たりは一瞬眩い光に包まれた。

きっと来世でも会える事が約束されたのだろう。


辺りが眩しく光ったあたりから、2人はしばらく両手を繋いだままだった。

光がやみ、2人はしばらく見つめ合うと、繋いでいた片方の手を離し泉を後にした。


あの光、確かに何かしらの力が働いたのだろう。

クラリアスは詳しい話を聞こうと考え2人の後をつけた。


しばらく歩き、ちょうど森を抜けたところで声をかけた。

もちろん人間に化けてるので別段怪しい姿ではない。


「突然すいません」

!!!

2人は驚いた。

「はい!?なんでしょう?」

「実は神様の泉について研究しておりまして、ぜひお話をお伺いしたいのです」

2人は顔を見合せた。

「一体何を話せば良いのでしょうか?」


「この泉は来世でも結ばれると言うのは本当だと思いますか?」

2人は顔を見合せ頷いた。

「本当ですよ。だって私たちは前世でも一緒でしたから」

!!!

「なぜ分かるのです?」

「出会っただけでそれとなく、運命の糸っていんでしょうか?そう言うものを感じるんです。なんと言うか違和感と言うんでしょうか?そしてその・・・キスをら交わした瞬間、お互いの奥に眠る記憶が蘇り繋がるんです」

「私は前世では帝国騎士、彼女は町娘だったんですよ。戦いで死にかけていた私を助けてくれ、そこから次第にお互い惹かれ合い、結婚する事になり、来世でも一緒になろうと神様の泉を訪れたようです」


そんな事が有り得るのか・・・・・・

クラリアスは正直に驚いていた。


「今では2人ともただの農家ですけどね」


一体何がどうなればそうなるものか・・・・・・


「逆に言うと、その泉で儀式を行わないと出会えない・・・という訳ですか?」


男は目をつむり首をかしげながら言った

「でもまぁ、泉で儀式を行う前は偶然の奇跡の出会いを遂げてる訳ですから出会える可能性も有り得るでしょう。ただ、それを絶対的なものにしたいと言う願いからですよ」


人間とはよく分からんな。


「でも、儀式を行った上で結婚しなければ・・・出来なければ二度と会えなくなんですよね?」

クラリアスは男に尋ねた。


「そうらしいですね。でも普通に考えて泉で違いを立てる2人にそんな事がありえると思いますか?」

男は鼻で笑うかのような顔つきで答えた。


クラリアスは腕を組み目をつぶった。

「確かに普通ならないような気がする」

「ただ、大聖堂の神官はそのような例もあると言っていた」


女は悲しそうな顔をしながら言った。

「結婚出来ない状況なんて色々ありますよ」


!!!

クラリアスと男は顔を見合せ驚いた。


クラリアスと男は思わずは尋ねた。

「「それは、例えばどのような状況なんです?」」


ふぅ~

女はため息をつきながら答えた。

「男ってみんな頭硬いのかしら・・・」


クラリアスと男は再び顔を見合せた。


「例えば借金の形に娘が連れていかれ、お互い手は届くのに理不尽な制約を強いられ結婚出来ない・・・とか」


・・・・・・。

「「な、なるほど・・・」」


クラリアスは人間社会とは不憫なものだと感じた。

魔界は基本弱肉強食、弱い者が悪いのだと言う自然の摂理に基づいている。

どちらが理不尽なのかは難しい問題である。


ともあれ、神様の泉の存在意義、また、その力の源がなんなのか、そのことに関しての収穫はなかった。

反面、神様の泉の誓いを破った者の話を聞いてみたいものだと思った。


「こんなことを尋ねるのもどうかと思うんですが、誓を破った方をご存知ありませんか?」


「う~ん・・・」

男はかんがえている。


「あっ!」

女はなにか思い出したのか大きな声を出した。


「あのドワーフ村に修行に行った鍛冶屋のお爺さん!」

「あ!そうだ、あの人が誓いを守れず愛する人と会えなくなったと言う話があったな!」


やはり神様の泉の力はほんとうなのか?

「その、鍛冶屋のお爺さんの話と言うのは?」


「その人は、人間界でも頂点に立つ鍛治職人の名家の息子だったのです。ある時国王が最高の鍛冶職人を決める腕くらべ大会を開いたのです。その人は優勝し地位と名声を手に入れ想いの人と結婚する事になりました。しかし、その頃魔族の動きが活発で、ある時、勇者様が召喚されたのです。そして魔族を討ち滅ぼすには、人間の技術で作られた武器だと限界が見えていいました。

そこで、その人はドワーフ族の元へ更なる技術を求め修行に行く決心をしたそうです。ただ、ドワーフ族の鍛冶場は女人禁制。そのため想い人との結婚は修行を終えてからと言うことになったのです。鍛治職人としての腕は超一流だったので、新たな技術習得と言うことで2年間の修行を経て戻り、結婚すると言う約束をしました。その誓としての神様の泉で儀式を行ったそうです。

ところが2年経ってもその人は戻ってきませんでした。さらに半年、さらに3ヶ月、そして誓の期限まで残り1ヶ月になっても戻ってきません。なんでも奇跡的な物質の発見により、勇者様の剣を作る事に没頭し、約束の日が過ぎている事すら気づかなかったそうです。しかしその事もあり勇者様の剣"ミモザブレイバー"が完成し魔族を殲滅する事ができたという事です」


「なんで勇者の剣が"ミモザブレイバー"って知ってるんだ?」

男は疑問に思い尋ねた。


「興味を持つのはそこなのね・・・。前世が帝国騎士だけの事はあるってことかしら?」


男は苦笑いしていた。


「あまりに悲しい話なので色々調べてたら、たまたま知ったんですよ。ちなみに"ミモザ"って言うのが彼の結婚するはずだった彼女の名前、"ブレイバー"は彼の名前。結婚していたら彼女は"ミモザ=ブレイバー"と言う名前になっていたのよ。そして、彼は剣にその名前を託し、自分の名前を捨てたんです。なので今は名前がないんですよ」


ふむ・・・少し興味深い話だな。

その鍛治職人を尋ねてみるか。


「その鍛治職人の男はどこにいるんだ?」

「噂ではそれ以降ドワーフ村に住んでいると言う話です」

「そうか、ありがとう。実に参考になったよ!」


「いえ、大したことではありませんので、ただ、絶対に彼の前でミモザとブレイバーと言う言葉は出さないようにしてください」

「・・・わかった」


2人はクラリアスに頭をさげ村へ帰っていった。


少し遠いがドワーフ村へ行ってみるとするか。

という事でクラリアスはドワーフ村へ向かうのだった。

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