♂問題児

「くそっ・・・もっと色々話がしたかったのに・・・」

「すいません。私のせいです・・・」

???

リョウマは何故ミューのせいなのか分からず首をかしげていた。


「クラリアスさんと魔法の撃ち合いをしたのが原因だと・・・・・・」

「ただそれだけの事で?」

「魔法と言っても、私たちが撃ち合った魔法の魔力がですね・・・・・・」

「凄い魔力の魔法だったわけか。オマケに火山で氷の魔法とか不自然極まりないですしね・・・」

ミューはテヘ笑いで誤魔化した。

「まあでもこれでレーティアとの繋がりが出来たわけだし、少しは安心できた」


ミューは両手をポンと叩いた。

「そうそう、リョウマさん自分の名前思い出しました?」

「いや・・・」

「多分ですけどリョウマさんの本当の名前"かずき"ですよ」


!!!!

リョウマは驚きのあまり両目を大きく開き固まっていた。

「そうだ!そうだよ!俺の名前一希!えーっと・・・・・・何一希だ?」

「何とはなんです?」

「苗字だよ苗字!」

「苗字・・・ですか?」

「ミューも、ミューステアの前になんか名前つかない?」

「あ、イクシードネームのことですか?」

「イクシードネーム?」

「はい!ハイエルフには名前の前にイクシードネームというのがありますよ」

「ちなみにミューのイクシードネームは?」

"フォレスニア・ウィン・エレマール=ミューステア"

「これが私のフルネームです!」


・・・なが

「イクシードネームにはちゃんと意味があるんですが・・・エルフ文化の中だけの物なので説明は割愛します」

「俺たちの世界でも苗字って言うのがあって、リョウマってのは下の名前なんだ。フルネームは"サカモトリョウマ"って言って、苗字はサカモト、名前はリョウマなんだ。子供は親の苗字を引き継いで下の名前を付けてもらうんだよ」

「へぇー面白いですね」

「ちなみにみゆは、苗字が"みなもと"名前が"ゆうき"なんだ」

「んーならその"みゆ"と言うのはなんなんですか?」

「それはあだ名だよ」

「あだ名・・・ですか?」

ミューはよく分からない顔をしている。


「お互いの仲が良くなった時に付ける愛称かな?みゆってのはみなもと"み"とゆうきの"ゆ"をとってみゆなんだ。呼びやすいし特別感があっていいだろ?ミューステアの事をミューと呼ぶのと同じだよ」

「なるほど!私のは長くて言い難いので略してるだけですけどね」

「それはそうと、なんで俺の名前分かったんだ?」

「リョウマさんがクラリアスさんにやられて死にかけてた時レーティアさんが叫んでました。あれは無意識に叫んでいた感じだったので本人も気づいてないかもしれませんが・・・・・・」

「でも、覚えていたんだな」

「あとはその苗字というのを聞き出さないとですね」


「あ、えーっと・・・」

「ミュー?」

「リョウマさんの事どっちの名前で呼んだらいいんでしょうか?」

「かずきで頼むよ。本当の名前の方がレーティアの記憶を刺激出来るかもしれないしな」

「はい!了解しましたー!」


「と、そうでした。ドワーフの村に向かうの忘れてましたね」

「あ・・・」

「ゲートの魔法は控えた方が良さそうなんで船で向かいましょう」

「えーーー高いお金でエリクサー買ったのに船で行くのー?」

一希は大きなため息をつきながら落ち込んだ。

「まーでも、そのおかげでみゆさんと会えたんですから良かったじゃないですか!」

「それはそうですけど・・・・・・」

一希はまた大きなため息をついた。


2人は公園を後にし港へ向かった。




「おい!おっさん!船に乗せてくれって言ってんだよ!」

「あめぇさんもしつこいねー。乗船料払ってくれないと載せれないって言ってるだろ」

「ゾル、乗船料っての持ってないのか?」

「すいません、乗船料おいくらになりますか?」

「どこまでのるんだい?」


「ザル、そう言えば目的地はどこなのよ?」

「あん?目的地は人間界だ」

「人間界って・・・・・・広すぎだよ!ここも人間界なんだよ!」

「おぉ・・・そうか・・・」


「おい、あんたら行先も決まってないのに乗るつもりだったのか?もうすぐ出航だから目的地が決まってから乗ってくれ」

「待てよ!なんでそんなに俺たちを載せたがらないんだ?」

「い、いや、行き先が決まってないのに乗るってのはおかしな話じゃねぇか」

「俺なんかすっげームカついた・・・。船ぶっ壊す」

「ひーーーあんたらなんなんだよ」

ザルババは右手に魔力を集中し始めた。

「あ、あんた魔道士か!?まて、待ってくれ!船にはたくさんの人が乗ってるんだ」

「あん?知るかそんなの」

ザルババは右手を大きく上げた。

「ひーーーもうダメだーーー」


"バーニングエクスプロージョン"

魔法を唱えながら火球を船に向かって放つ。

と、その瞬間ゾルババはザルババの右手を杖で叩き、魔法を放つ方向を変えた。

放たれた火球は海の沖合に飛んでいき爆発する。

「ザル何すんだよ!」

「それは私のセリフです。人間殺したら面倒なことになりますよ!」

「そうなのか?こんなクソムシ死んでも問題ないだろ?」

「人間社会では人間殺しはご法度です。それに私たちの正体がバレると何かと面倒な事になるでしょ!」


「あ、あんたら一体何もんなんだ?警備兵に連絡してやる」

「ま、待ってください!沖に人食いサメの群れがいたので追い払っただけです!」

「サ、サメの群れ?」

「はい!驚かせてしまって申し訳ありません。彼魔法使う時は人が変わってしまう癖がありまして・・・・・・」

「そ、そうかい・・・。とにかく面倒ごとはごめんだ。船に乗りたいなら別の船にしてくれ」

「はい、ご迷惑お掛けしました」


「ったく、なんなんだよ」

「ザル、今度勝手な事して面倒起こしたら氷漬けにして魔界に連れて帰りますからね・・・・・・」

「お、おう・・・すまん・・・」




「一希さん!今の爆発なんでしょうか?」

「港の方だったよな。急ごう」

2人は駆け足で港へ向かった。


ドンドンドンドンドン


「あ、船が出航する合図だ!」

「おーい、お前さん方も乗るのかい?」

「はい!そのつもりなんですけど、さっきの爆発はなんだったんですか?」


「あーあれね・・・。あそこの2人組の仕業だよ。なんでも沖にサメの群れがいたとかで追い払うためにやったって言ってたが・・・・・・。あれは船を壊すつもりだったに違いねぇ」

船長は事の説明をした。


「なるほど」


(一希さん、確かにあの2人、人間とは少し違う匂いがします)

ミューは耳元で囁いた。


「おじさん、やっぱ俺たちあとの船に乗るよ!」

「そうかい。あいつらただもんじゃ無さそうだから気をつけな」

「ありがとー」


「恐らくですがあの2人魔族ですよ・・・クラリアスさんと匂いの系統が似てます」

「魔族か・・・ちょっとカマかけて見るか」


一希はザルババのそばへ行く。

「さっきの爆発はあんたがやったのかい?」

「あぁん?そうだったらなんか文句あんのか?」


こえぇぇーー、スゲー怖いぞこいつ


「あなたがた魔族でしよ?」

「なんだてめぇ?」

「ザル!」

「うくっ・・・・・・」


「魔族は滅びさった種族ですよ。それに私たちは沖合にサメの群れがいたようなので追い払っただけなのですが加減ができず驚かせてしまってしまったようです。申し訳ありません。あんな大爆発起こすと魔族と勘違いしますよね・・・ホントごめんなさい」

「・・・・・・」


(ミュー、この2人本当に魔族なのか?)

(ええ、間違いありません)


ならためしてみるか・・・・・・


「レーティアはどこだ?」


!?

!!!!!

ザルババとゾルババは意外な名前が出た事に驚いた。

2人は凄まじいプレッシャーを放ってきた。


「お前何もんだ?」

「その反応は黒だな」

「クソムシの分際で姫を呼び捨てにすんじゃねぇ!!!」


ザルババは一希の首をつかんで持ち上げた。

"アイスニードル"

ミューは氷の針でザルババの腕を突き刺した。

チクリと刺さる刺激に驚いて一希を離した。


「なんだこのひ弱な魔法は?」

「ここは町中なんでわざと弱くして撃ったんです」


ゾルババが前に出てきた。

「あなたエハイエルフでしょう?」

「よく分かりましたね」

「いえ、わからなかったんで確認しょうと思いまして、あなた方と同じことをしてみました」

「あらあら、これは1本取られてしまいましたね」


ゾルババは杖を構え戦闘態勢をとる。


一希があいだに割って入った。

「待て待て!別に戦おうと言う訳じゃない!むしろ歩み寄りたい」


「は?寝言は寝てる時に言うもんだぜ」

そういうとザルババは両腰に付けているナイフホルダーからナイフを抜いた。

片方はシンプルだが物凄い切れ味がありそうな洗練されたナイフ、もう片方は対照的でとても禍々しい不気味なデザインのナイフだ。

どこかで見た事がある気がする・・・・・・


!!!


思い出した!!

あれはムルフリックダガーだ!

王宮でしごかれてる時に読んだ、戦ってはいけない武器リストに載っていたやつだ。

7種類の猛毒を混ざらないように仕込むことが出来る悪魔のナイフだ。

どこで切られても何かしらの毒にやられてしまう上に、刃の場所によって毒の種類が違うので解毒が難しい。

特に複数箇所からの多種毒攻撃にあてられると解毒治療はほぼ不可能・・・つまり全ての攻撃をかすることなくかわすか防ぐしかない。


「ほう・・・こいつを見てその面(つら)になるとは、こいつがどれだけ恐ろしいものか知っているようだな」

「一かすりで重症、二かすりで致命傷、三かすりであの世行きだ」

「行くぜぇ!」


消えた!?

うっしゃあ!


首!?

ザルババはかるすだけで死に至らしめるダガーであえて首を狙った。

一希は、片膝をついて体制を落とし仰け反った。

かろうじてかわしたムルフリックダガーの刃先は一希の髪の毛を掠める。


やべっ!

こいつはマジでやばい・・・・・・。


「これを避けるたぁ、雑魚では無いようだな。まだまだ行くぜ!」


"アイスシールド"

ミューは魔法を唱えた。

「一希さん!その盾氷なので防げるのは1度だけです」

「そんな脆い盾意味ねーんだよ!」

ザルババはバックステップし大きく間合いをとった。


(一希さん・・・聞こえますか?心の声で話してください)

(なんか変な感じ・・・)

(その盾で攻撃を防いだら砕け散りますが、その瞬間"クラッシュ"と唱えてください)

(唱えるって魔法?俺魔力ないんじゃ・・・)

(盾に魔法がかけてあるので大丈夫です)

一希は頷いた。


「いくぜぇーー!一撃で死ぬのか、毒でじわじわ死ぬのか好きな方を選びやがれ!!」


ザルババはそう言い放つとすごい速さで突進してくる。

ただ、さっきと違ってかろうじて見える。

とその瞬間ザルババが4人に増えた。


残像か分身か分からないがこの数の攻撃防ぎきれるのか??

左右に二体ずつ別れた。

左右同時攻撃、かわせない・・・。


クソッ・・・毒だけは絶対に喰らってはダメだ。

こっちを防いで反対の攻撃は気合いで踏ん張るしか・・・・・・影!?


上か!!


一希は影でザルババの本体が上にいる事に気がついた。

「ちっ気づいたか。でも遅いこの距離なら」

一希は盾を構えザルババの一撃目を防いだ。

氷の盾は砕け散った。

「毒のダガーは防げたものの、もう片方のナイフが一希に襲いかかる」


"クラッシュ!"


一希がそう唱えると砕けた氷の破片が一斉にザルババに向かい飛んでいった。

この距離では避けるどころか防ぐことさえ出来なかった。

氷の破片はザルババの全身に突き刺さっている。

「ク、クソォ・・・やられたぜ・・・」


"セラペヴォ"

ゾルババは魔法らしきものを唱えた。


ミューは自分たちの使う魔法とは呪文が違ったが、瞬時にそれが回復魔法だと分かった。


"アブストラクト"

ミューはゾルババの魔法を妨害した。


回復魔法が妨害された!?

ハイエルフとはそんな事まで出来るのか?

攻撃魔法を打ち消すなんてのはよくある話だけど、回復魔法が妨害されるなんてのは初めて・・・・・・。

このハイエルフかなり危険。


"バニッシュ"

ゾルババそう唱えると2人の姿が消えた。


「き、消えた!?」

「正確には"隠れた"が正しいですね・・・。魔力の痕跡が複数残ってます。逃げるために私たちを撹乱しているのですよ」

「一体人間界に何をしにきたんだ?」

「分かりませんが、あの魔法使いの方はかなり厄介ですよ・・・・・・切れ者です」

「レーティア達はともかく、魔族と人間の歪みは簡単に消えそうにないな。問答無用で攻撃してきたし、殺意剥き出しだったし・・・」


ミューは何か考えているようだ。

とても難しい表情をしている。

「ミュー?何難しい顔をしてるんだ?」

「あ、はい。少し思うことがありまして・・・」

「何だよその思うことってのは」

「彼らがまだ潜んでるかもしれませんので後ほどお話します」


「とりあえず一旦宿に戻りましょう」

「ドワーフの村には行かないのか?」

「それも後ほど・・・・・・」

一希はよく分からないが、ミューがそういうのでとりあえず宿に向かう事にした。

「でも、町中であんな魔法ぶっぱなすなんて魔族にも問題児の1人2人はいるもんだな」

「本当迷惑な話ですよね」



「ゾル、さっきの奴ら勇者なんじゃねーか?」

「ハイエルフを共にしてるくらいなんで十分有り得ると思うよ」

「あいつハイエルフなのか?大将がハイエルフがどうのこうの言ってたぞ」

「なら恐らく勇者で間違いないかな」

「クソー殺っときゃよかった」

「いやいや、やられてたのお兄の方じゃ・・・・・・」

「馬鹿か!あれはちょっとびっくりしただけでやられたうちに入ってねぇ」


「とりあえず1回魔界に戻ろうよ」

「そうだな。黙って人間界に来てあんまり派手なことしたら大将に何言われるか分からんしな。でも、お前あのエルフに変な魔法かけられたまま戻って大丈夫なのかよ?」

「ただ魔法を妨害されただけ・・・」


ゾルババはザルババの一言で"あのエルフなら何か罠をしかけていてもおかしくない"と思い状態異常を確認する魔法を唱えた。

"カタステイト"


!!!

「あのエルフやはり危険だ」

「どうしたんだ?」

「あたしにトレースの魔法をかけていやがった。監視追跡するつもりだったんだ・・・」

「頭のいいお前がいっぱい食わされたって訳か。こりゃおもしれぇ!」


"カタルシア"

ゾルババは浄化の魔法でトレースを解除した。


「一応魔王様の耳に入れておこうよ」

「お前そんなことしたら勝手に人間界行ったのバレるじゃねえか!」

「遊びに来ただけなんだからいいじゃない」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ」

ザルババは少し考えたが、よく分からなかった。

「まぁ、多少は楽しめたし良しとするか。戻ろう」


結局騒ぎを起こしに来ただけだよ・・・・・・。

もう、こんな問題児のおもりは嫌だ・・・・・・。


そんなことを考えながら魔界の扉をくぐり魔界へ戻った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る