♀神様の泉、その奇跡は本物か?

・・・・・・これは参ったな・・・。

魔族と人間の板挟み・・・か。


この事を報告したら魔王様は何と言われるのだろうか・・・。

かと言って姫のお気持ちを無下にする訳にもいかん。

ふぅー・・・・・・。

クラリアスは悩んでいた。


「あのぉ・・・クラリアス・・・私どうしたらいいのでしょうか?」

「私も困り果てております」


少し沈黙の間があった。

「私が思うに、姫が興味をお持ちなのは人間達に対してでは無くあのリョウマと言うただ1人の人間だけではないでしょうか?」

「確かにそうかもしれません」


「しかし人間と剣を交えることになればリョウマとの戦いも必然・・・運命とは辛く当ってくるものですな。リョウマをこちらに引き込むにしろしないにしろ、我らが譲歩するしかなさそうですけどね」

「・・・・・・」


「でも、あの人達は何故あそこにいたのでしょうか?」

「実際のところは分かりませんが、あの場所には何もありません。あるとすればドワーフの村くらいなものかと」

「私が勇者の墓から剣を持ち去ったので代わりの物を作ると言った所でしょうか?」

「その可能性が高いと」

「やはり、魔族と事を構える腹なんですかね?」

「いや、そう判断するのは早計です」

「何も武器を取って戦う相手は魔族だけではないですよ。オークやゴブリンが人間を襲うなんて事はよくある事ですから」


「とりあえず王には報告が必要ですね」

「・・・・・・はい」

「ちなみに姫は今どのようにお考えですか?人間と戦うのお気持ちですか?」

「分かりませんが、少なくても今この時点ではその気はありません。むしろ歩み寄ってみたいと思う気持ちの方が勝ってる気がします・・・・・・」


「これはあのハイエルフの提案に乗ってみた方が良いのかもしれませんね」

「ハイエルフの提案?」

「はい。あのリョウマと言う人間は魔族と人間が仲良くなれるのを理想としているようです」


「可能なんでしょうかそんな事が・・・・・・」

「普通に考えたら難しいかと・・・ただ・・・」

「ただ?」

「姫の存在が魔族と人間の運命を握っている・・・・・・と言う状況になりつつある様に思います。特に、王は姫の言を非常に重く思っておられるので」

「何かとても重たいものを背負ってしまった気がします」


「お互い苦労が耐えませんな」

「あのリョウマと言う人もね」

どんよりした空気のかな2人の顔は少し緩んでいた。


「取り敢えず王の元へ向かいましょう」

「あの・・・」

「なんでしょう?」

「もし、王と私の意見が別れたら・・・クラリアスは私と王どちらに」

と言いかけた瞬間クラリアスは被せるように答えた。

「無論姫に決まっているでしょう。姫の事は女王様に託されましたので」

「ありがとう、クラリアス」

クラリアスは笑顔で答えた。


魔界の門の門番がこちらに気づいた。

「おや?クラリアス様、偉くお早いお戻りですね」

「ああ、少しトラブルがあってな」

「そうでしたか。ならワイバーンをお呼びしますね」

「ああ頼む」


レーティアはワイバーンの到着まで魔界の門の周辺を散策していた。


あの、リョウマという人間は魔族を受け入れたとしても、他の人間たちは魔族を受け入れることは出来るのだろうか・・・・・・。

なんだか、とっても面倒くさくなってきた。

取り敢えずリョウマから色々話を聞きたいですね。


そんなことを考えながら散歩しているとクラリアスが呼びに来た。

「姫のワイバーンが到着しました」

「はい!」


そうして2人は空の旅を楽しみながら魔王の所へ戻った。


「おや?クラリアス様もうお戻りですか?」

「ああ、色々トラブルがあってな。王はどこにおられる?」

「王なら、魔力を養うと言ってコルトピの魔泉に行かれましたよ」

「そうか」

「姫の我々もコルトピに向かいましょう」

「はい!久しぶりですし、ついでに魔泉に入ってきましょう」

「そうですね」


そういうと2人は魔王のいるコルトピに向かった。


「見えてきましたよ」

「はい!楽しみです!」


そうして2人はそばに降りた。

「おお、これはレーティア、こんな所で会うとは珍しいな」

「ええ、少し報告しなければいけない事がありましたので・・・」

「こんな所まで来るとは余程火急な事とみえるな」

「はい・・・」

レーティアは話が上手く切り出せずにクラリアスの方をチラチラ見ている。

「かしこまりました」

クラリアスは瞬時に理解し説明を始めた。


「王よ実は情報収集の為人間界のドワーフ村のそばに向かったのですが、そこでたまたま勇者と鉢合わせまして・・・・・・」

「何と!?」

「そこで一悶着あったのですが、お互い話をするタイミングが出来まして話をして来ました」

王は無言で頷いている。


「どうも今の勇者は人間の手によって召喚されたものではないようなのです」

「なんだと?どういう事か詳しく申せ」

「はい」

━━━━━━━。

クラリアスは事の経緯を偽ることなく説明した。


「・・・・・・ふむ。それはそのリョウマと言う者の考えであって人間たちの総意ではあるまい」

「は、その通りでございます」

「なら、そんな戯言聞くに足らんではないか」

「そこなのですが、彼にはミューステアと言うハイエルフのトップがついておりまして、ある意味人間族に多大な影響力を持つキーマンと呼べなくは無い状態で・・・」

「なんと!?ハイエルフの長がいるのか・・・」

「そして、そのハイエルフからの申し出で、1度王との対話の機会を設けて欲しいと要望が出ております」


「ふむ。ことの成否はともかく会って話しは聞いてみる価値があるやもしれん。ただ、信用は出来んので話をするなら人間界で行う」

「かしこまりました」


「報告は以上でございます」

「ご苦労」

「では失礼致します」

「クラリアスよ我々は苦渋を舐めさせられた魔族の生き残りだ」

「・・・・・・はい」

魔王はそれ以上何も言わなかったがクラリアスは王の言わんとしている事がよく分かった。


「せっかくこんな所に来たのに魔泉には入らんのか?」

「王・・・レーティア様とご一緒にお入りになるおつもりですか?・・・女性ですぞ」

「娘の裸を見ようなんてお父様ってえっちなお方なんですね」

「な、何を言う!私はクラリアスに言ったのだ。レーティアは向こうで入るに決まっているだろう!」

「なら姫をお守りするのが私の役目ゆえ、姫の周囲を警護するためあちらの方で警戒致します」

「一緒に入る気ではあるまいな?」

「王・・・・・・親バカですぞ・・・・・・」

「話をはぐらかすな」

「入るわけが無いでしょう。周囲を警護すると言ったではありませんか」

レーティアは少し残念そうな表情だった。


そう言って2人は奥の魔泉へ移動した。

「クラリアス、なぜ一緒に入ってくれないのですか?」

「一緒に入って欲しいのですか?」

「あ、いやそういう訳ではないのですが・・・私と一緒は嫌なのなかのと」

「周囲を警護すると言ったではありませんか。それにこんなに素敵な姫君と一緒に入るのが嫌だと思うわけ無いでしょう。意地悪なご質問をなさる」

「はわわ・・・決してそんなつもりは・・・ごめんなさい」

「ははは、意地悪はこちらでしたかな」

「・・・もう・・・」

「ではごゆっくりと」

「ありがとう」


ちょと残念に感じた。

私クラリアスの事好きかのかな・・・。


はぁ~

でも、ここの泉はお肌にも良くて魔力も正常化されて心も体も癒されるぅ~。

レーティアは少しの間、魔泉を堪能した。

魔泉から上がりクラリアスの元へ向かった。

「お待たせしました」

「ゆっくり出来ましたか?」

「お陰様ですっかり生き返りました!」

「それは良かったです」


「では1度お部屋へ戻りますか?」

「はい」

そうして城に戻り部屋に着いた。



「それでは私はここで失礼します」

「あ、クラリアス、リョウマ との話で分かった事がいくつかあります」

「それは一体どのような・・・?」


「私は人間だっようで、その人間だった時にリョウマと結婚の約束をしていたらしいのです。そして神様の泉という所で誓いも立てたと言ってました」

「その誓とは?」

レーティアは神様の泉の事を説明した。


「なるほど・・・・・・それは面白い話しですな」

「クラリアス、喜んでる場合ではありませんよ」

「いやはや、これは失礼しました。確かにそれが事実なのであれば、このままですと姫とリョウマは会えなくなってしまいますな」

「よく分かりませんが、あのリョウマと言う人間と会えなくなると、何かとても具合が悪い気がするんです・・・・・・」

「ふむ・・・・・・、感情の問題ではなく、なにかの歯車が狂うと言った感じでしょうか?」

「それです!そんな感じがするのです!」

レーティアは痒いところに手が届いたかのように喜んだ。


「姫、申し訳ありません。考える事が多すぎるせいか、少し頭が痛くなってきましたので、少し休ませて頂きます」

「大丈夫なのですか?」

「少し休んだら治りますので」

「すいません。苦労ばかりかけてしまっていますね」

「これもそれも姫の笑顔を見る為ですから、お気になさらずに」

「ありがとう」


そういうとクラリアスは自分の部屋に戻って行った。


しかし、魔族になった今でもその誓約は生きているのだろうか?

人間達は異世界召喚を行っていないのに召喚されたという事は制約によるものなのか・・・・・・。

そもそも、来世でも一緒になれるなど確認するすべもない。

それに姫とリョウマは別世界の存在。

それが異世界転生したタイミングで、そんな奇跡に近い出会いが起きるものなのか?

そもそも神様の泉とはなんなんだ?


ふぅ~

クラリアスは深いため息をついた。

全く持って理解出来ん。


!!!!

まてよ、神様の泉は来世でも出会いを約束される奇跡の泉ではなく、2人を永遠に引き離す呪いの泉と考えられなくもないのでは・・・・・・?

2人の魂はその呪いに抗っている!?

考えすぎか・・・。


情報が欲しいな。

不本意だがここは知識の宝庫であるエルフに少し聴いてみるか・・・。

そう思うと早速エルフの元へ行こうとレーティアの所へ戻る。


「姫、少し用事が出来ましたのでもう一度人間界へ行ってまいります」

「体調は良くなったのですか?」

「ええ、まぁ・・・」

クラリアスはレーティアに内緒で動くことに少し後ろめたさを感じ何かハギレの悪い返事をしていた。

「クラリアス、隠し事とは私はとても悲しいです・・・・・・」


クラリアスは迷った。

ただの1可能性に過ぎない事を話してレーティアを混乱させてしまってはと思う気持ちと、ただの可能性と言うだけなので正直に話してしまおうと言う考えと・・・。


・・・・・・。


「姫、神様の泉の話をお聞きになられてどの様に思われましたか?」

「神様の泉ですか・・・、好きになった者の同士が来世でも出会えると言う奇跡の力は素敵なことではないでしょうか?」

「・・・やはりそう思いますよね」

「違うのですか!?」

「なんの根拠もない、ただ私の仮定の話なのですが、その奇跡の力には真逆の制約も付きまとっているのです。永遠に会えなくなると・・・」

「???」

「つまりこれは奇跡という皮を被った呪いではないのだろうかと・・・・・・」

「呪い!?」

「意図は分かりませんが、誓約を破りその罪科をおわせる事が目的なのではないか?幸せを得るためとはいえ、誓約を破ったときのリスクが大きすぎる気がします」

「そんな・・・・・・」

「勘違いしないでください、あくまで単なる私の妄言でしかありませんので」

「それを調べに行くおつもりだったんですね」

「はい」

「なんの為にですか?」

「姫の為にです!」

「私の為?」

「もし、奇跡が成就され来世で再び2人が出会えば、また、神様の泉で誓を立てるのは必定。つまり奇跡と言う神様の泉の永遠の虜になってしまう・・・・・・。その誓約が破られるまで・・・・・・」


レーティアは少し考えていた。

「仮にそうだとしたら、私とリョウマの前世から神様の泉に関わっていたと?」

「あくまで仮の話ですが・・・・・・」


「・・・考えすぎではありませんか?」

「ええ、そうかも知れません。なので知識豊富なエルフと話をしようと思ったわけです」


「私は邪魔ですか?」

クラリアスは黙ったままだった。

「何か分かれば必ず全てを教えて下さいね」

「はい」


そう返事をするとクラリアスは人間界に向かったのだった。



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