♀️初めての空

話が終わったクラリアスは出発の準備をするため王の前を後にする。


レーティアは頭が真っ白になっておりクラリアスがこちらに向かってきているとこに気づかない。


クラリアスが部屋を出てドアを閉めるとそこにレーティアがへたりこむように壁にもたれかかっていた。


「姫!?」

・・・・・・。

反応がない。


「姫!どういたしました?」

クラリアスはレーティアの肩を揺さぶった。


「あっ・・・・・・クラリアス」

レーティアは自分を取り戻した。


「姫どうされましたか?」

「あ、いえ、その・・・私は人間界の事に詳しくないので、行き方がわからなくて・・・・・・。で、人間界に詳しい誰かをお供にして頂きたいと思って相談に戻ってきたんですが急に立ちくらみがしてフワッとなって気がついたら壁にもたれこんでいたみたいで・・・・・・」


「そうでしたか。お怪我はありませんか?」

「はい、倒れたわけではないので怪我の方は大丈夫そうです」


クラリアスの中に"今の話を聞かれたのでは?"と言う疑念があったがあえて聞かなかった。

聞いていたとしても、聞いてたとは言わないだろうし。聞いていなかったら説明に困る。

それに早かれ遅かれ気づくだろうと思ったからだ。


「とりあえずお部屋までお運びします。お供の件は王に私の方から申しておきますのでご安心ください」

「すいません・・・・・・」


レーティアはこの時なぜ王との話を聞いていたかどうかを聞いてこなかったのか不思議に思えた。

そして、勇者に会って話を聞きたいと言う想いが爆発しそうなくらい膨れ上がっていた。


部屋に着き、レーティアをベットの上に座らせた。

「勇者と会った時に感情に任せていきなりあんな高度な魔法お使いになられたので、そのリバウンドでしょうか?」

「うーん・・・わかりません」

「いずれにしてもゆっくりお休みください。人間界にはいつでも行けますので」

「・・・・・・・・・」

レーティアは困惑した表情で俯いていた。


「どうかしましたか?」

「・・・・・・たのですか?」

レーティアはとても小さな声で言った。


クラリアスは聞き取れなかった。

「何とも申されましたか?」

「・・・・・・・・・」

「申し訳ありません。上手く聞き取れなかったもので・・・」

「・・・私は人間だったのですか?」


・・・・・・。

ふぅー・・・・・・。

クラリアスは目をつぶってため息をついた。

「お聞きになられていたのですか?」

「・・・はい。故意ではありませんでしたが・・・」


クラリアスはレーティアの頭をなでなでした。

「はぅ・・・」

「姫は正直なんですね」

レーティアは恥ずかしがって下を向いている。


「一つ勘違いをされているようなので誤解を解いておかないといけないのと、真実を見るための目を持って頂きたく思います」

「誤解?真実を見る目?」

「はい」

クラリアスはそう返事をすると部屋の端にあった椅子を持ってきた。

「失礼します」

そう言って椅子に腰かけた。

「まず姫がお尋ねになられた"人間だったのか?"と言う件ですが、今私の口からお答えできる答えとしては"その可能性は否定できない"と言う事です」

「やっぱり・・・」

「そうではありません。あくまで王と話していた事は状況的にその可能性が有りうると言う仮定の話であって、そうである根拠は何もありません。私がそう思っただけです。ただ逆を言えば、私の思った通りであるかも知れませんが・・・」

「・・・・・・」

イエスともノートも言ってくれないクラリアスの答えに困惑している。

「それなのです。今の姫のお考えを持っていて頂きたいのです」

「?」

レーティアはよくわかっていない


「物事は思い込んでしまうと、そこにある事実を自分の都合の良いようにねじ曲げてしまい、真実が見えなくなります。姫がもし自分は人間だったんだと思い込んでしまったら、姫は目の前の事実をその答えに結びつけようとしてしまうでしょう」

「ですから、人間だったのか、そうでなかったのか、迷ったままで良いのです。どちらの可能性もあるのですから」

「クラリアス・・・・・・」

「この話は魔王様に内緒ですよ!」

「どうしてですか?」


「今お話したのは、心の底から『レーティア様には幸せになって頂きたい』そう思えばこそ本音で話しました。ただ、王に使える魔族の一人としては人間では無かったと祈りたいところですけどね」


「クラリアスは本当に優しいのですね!」

「姫の事は幼少の頃から見てきましたからね。私の中にも姫に対して少しながら親心があるのかもしれません」


クラリアスの真っ直ぐで一点の曇りもない言葉は、レーティアの心にとても暖かいものを感じさせた。


クラリアスは両手をポンと叩いた。

「王に上手くお話して私が姫の護衛兼人間界の案内人になりましょう」

「良いのですか?」

「うーん・・・嫌なら辞めておきますが・・・・・・」

「あわわわ・・・嫌じゃないです!!クラリアスが良いです!」

「ありがとうございます」


「そうしたらもうひとつの町の調査には誰を行かせるか・・・・・・」

「ザルババはダメなのですか?戦闘の訓練をつけてくれたんですが、物凄く強かったので何があっても大丈夫に思うんですが」

「強さは間違いないですけど、脳筋野郎なので絶対人間殺しますよ・・・・・・。そうだ!双子のゾルババと一緒に行かせたら、さすがに無茶しないかも・・・・・・」


「ザルババって双子だったんですか?」

レーティアは少しだけ驚いた。


「ええ。ゾルババはとても頭が切れる子なんですよ。私の後継者にと考えております」

「クラリアスそんなに頭いいんだ・・・・・・」

「魔王軍一だと」

「自分でそこまて言えるなんて大した自信なんですね」

「恐れながら"自信"ではなく"事実"です」

レーティアは何だかクラリアスの事がすごく気に入った。

いつも優しく、ハッキリとした意見は、聞くものを安心させる不思議な力がある。

目がいっぱいあるのが少し残念だけど・・・。


「では少し王様の所に行ってきますね」

「あのぉ・・・私は?」

「ここでゆっくり休んでいてください・・・。と言っても話を聞いてショックを受けていただけなんでしょうけど」

バレていた。

「・・・ごめんなさい」

「いいんですよ。あの話だけ掻い摘んで聞いたら、ショックを受けるのは当然でしょうから・・・。聞かなかった事にとは申しませんが、あまり深くお考えにならない方がよろしいかと思います」

「ホントクラリアスは優しいですね!」

「そんなに褒めても何も出ませんよ。では行ってまいります」


クラリアスは王の間へ向かった。

「王、レーティア様から一つ申し出がございました」

「何だ?」

「人間界の知識が乏しい事から1人で行くのは不安と申され、人間界に詳しい共を連れていきたいと、そしてその共にわたくしを指名されております」

「うむ、クラリアスなら安心だ!頼む」

「つきまして私が調査する予定の町なのですが、ザルババとゾルババの2人に行かせてはいかがでしょうか?」

「戦いに行くんじゃないんだぞ。調査の任務には適さないと思うが・・・・・・」

「なのでゾルババも同行させようと」


魔王は指をトントンしながら考えている。

「やはりダメだ。あいつらだと絶対に人間を殺してしまう。戦いを仕掛けるにはまだ早い」

「そうですか。なら別の者にご指示下さいませ」

クラリアスはそう言うとレーティアの所へ向かった。


「姫、王に許可をとって参りましたので人間界へ行く準備をしましょう」

「はい!楽しみです!」

「今回は調査が目的ですよ」

「ハイハイわかってますよぉー」

レーティアはほっぺたを膨らましていた。


その時調査の任務から外されたザルババは一旦家に戻っていた。

「おーいゾルーいるかー?」

「お兄どうしたの?」

「みんな人間界に行くみたいなんだけど俺らも行ってみないか?」

「目的は?」

「ぶらり旅」

「却下します。リスクが伴うだけで何もメリットもない行動はいただけません」

「相変わらずお堅いねー」

「んじゃちょっくら遊びに行ってくるわ」

「待ちなさい!お兄一人で行ったら絶対トラブルになるからあたしもついて行くよ・・・」

「行くメリットがないんじゃないのか?」

「お兄一人で行かしたら何かと騒ぎ起こして面倒な事になりそうなので、リスク回避のためです・・・」

「ニシシシ、よくわかってるじゃんさすが妹」

「いつも尻拭い差せられるこっちの身にもなってよ・・・全くもう・・・」

ゾルババはブツブツ文句を言っている。


「ちょっくらワイバーン借りてくらー」

「内緒で行くんならバレないように、ちゃんとステルスストーン付けて貰ってきてくだいね」

「お、そか、了解ー」

ザルババはそう言うと猛スピードでワイバーン牧場に走っていった。

はぁ~・・・なんでいつもこうなんだろ・・・・・・。


1時間後、ザルババは2匹のワイバーンを連れて帰ってきた。


「ただいまー!」

「お兄早かったね」

「よし行こうか!」

「えー今から行くの?準備とか出来てる?」

「なんだよ準備って」

「・・・・・・もういいよ、あたしがしますっ!30分待ってて」

そう言うとゴソゴソ準備を始めた。

なんだよめんどくせーな・・・


「いったいなんの準備がいるんだよ」

「人間界で使うお金とか各種証明書なやなんやらですよ」

「金なんか現地徴収っしょ!」

「ほらそれ!それがトラブルの火種なんです!」

「ほんと細かいなぁ・・・・・・」

「お兄がガサツすぎなんですよ」。

ブツブツいいながら準備を進めていた。


「姫、魔界の門に向かいますので今回はワイバーンで移動します」

「ワイバーン?」

「ご存知ありませんか?」

「はい・・・・・・」

「連れてまいりますのでしばらくお待ちください」


そう言うとクラリアスは牧場に向かった。

「グスターいますか?」

「おや、これまた珍しい方が。今日はどのようなご要件で?」

「ワイバーンを2匹貸してほしいのだ。任務で人間界に行かねばならないのです」

「おやおや、今日は人間界に行かれる方が多い日ですね」

「他にも誰かがワイバーンを?」

「はい、先程ザルババ様が。なにやらザルババ様も人間界に行く様なことを仰ってましたが」

結局王はザルババ達を調査に出したのか。


「そうでしたか。ではワイバーンをしばらくお借りします」

「お気をつけて!」


2匹のワイバーンを連れてレーティアの所へ戻った。

「姫、準備が出来ました」

『うわーー!!これがワイバーンですか!!』

レーティアは初めて見たワイバーンの大きさにとても驚いた。

その目は子供のようにキラキラしていた。


「これに乗るんですね?」

「はい。早速向かいましょう」

「はい!」


「あと、人間界で"姫"と呼ぶのは余計な勘ぐりをされかねませんのでレーティアとお呼びする事を御容赦ください」

「ええ構いません。むしろ普段からそれで構わないくらいですよ」

「お心遣い有難いのですが、周りの目がありますゆえに・・・」

「そうですか・・・」


「では出発しましょう」

「はい」

「まずは、そこに足をかけ、グイッと体を上にし背中に乗ってください。そして手綱を握りくるっと手にまわし絶対に離さないようにします」

レーティアはワイバーンの背中にしがみつき手綱を握った。

くるっと手綱を周り準備完了。

「何とか乗れました」

「では、手綱を打って飛ぶように指示を出してください」

レーティアはピシッと手綱を打った。

ブワッ!ブワッ!


「飛んだ!クラリアス飛びましたよ!」

「はい、お上手です!」


ワイバーンは羽ばたき上昇した。


「上昇したら手綱を2回引っ張って下さい」

レーティアは手綱を2回引っ張った。


ワイバーンはものすごいスピードで前進した。

「ひぇーーー凄いスピードです」


「絶対に手綱を離さないで下さいね!そして止める時は手綱を1回引っ張れば止まってくれます。そしてゆっくりと軽く手綱を引っ張り続ければスピードを落としてくれます」


レーティアは教えて貰った操作を一通り試した。


「クラリアス!ワイバーンすごく楽しいです!」

「それは良かった!」


「では魔界の門に向かいます」

2人は猛スピードで魔界の門に向かった。

30分程飛んだ。


「姫、あそこが門です」

「あの山ですか?」

「ええ、麓に門がありますよ」


「さぁ降りますよ」

「・・・クラリアス、降り方がわかりません・・・」

「これは失礼しました。手綱は握ったまま出良いので背中を2回トントンと軽く叩いてください」

レーティアはワイバーンの背中をトントンとした。


フワッフワッ・・・バフっ!


「降りれました!」

「そうしたら手網をワイバーンから外して横のバッグにしまってください」


カチャカチャ・・・。

手綱を外してカバンにしまった。


「そうすればワイバーンの任務は完了です。自分で勝手に牧場に戻ります」

「へー賢いんですね。また機会があれば乗りたいです」

「はい。機会があればまたご用意致します」


「人間界で船の移動だと時間がかかりますので、今回は人間の少ない火山のそばに出口を作り、そこから馬で町に入ろうと思います」

「よく分かりませんのでお任せします」


そうして2人は火山にある洞窟の奥に魔界の門を開いて人間界に入った。

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