♂新たな疑惑

ドサッ・・・

えっ?

魔法の扉をくぐり抜けた瞬間ミューは倒れた。


「何奴!?」

王は警戒し、警護の兵士は皆剣を抜いた。

「待ってください、リョウマです」

王は警戒を解いた。

「皆剣を収めよ」

「ありがとうございます。いきなり失礼しました」


王は髭をサワサワしながら

「ミューステアの仕業だな・・・・・・」

と呟いた。


「はい、ただミューが気を失って・・・・・・」

「いつもの事じゃ。空間移動は恐ろしく魔力を使うらしくてな。しばらくしたら目が覚める」

「まぁ、いつもと言ってもこんなことをする時は余程の事があった時だけだがな」


リョウマは何から説明していいのかパニック状態だ。

「落ち着け!何があったのか時系列にして話せ」

リョウマは深呼吸した。


「まず島に着いて勇者の墓に向かったんです。そこに先客がいて観光の人かと思ったので"勇者様の墓参りですか?"と声をかけたら"何が勇者様だ!"とキレだして、その人を見たら、俺が探しているみゆそっくりだったんです。そっくりというかそのものでした。そして転生したのは魔族にじゃなくて人間だったんだなと言ったら、態度が急変し人間は敵だと言い出したんです。その後ミューが駆け引きしてくれて、その女の子は転生した魔王の娘だと言う事が判明しました。そして勇者の墓には剣がなく魔族に持ち去られたようです」


王は固まっていた。

「魔王が存在している!?それと娘もいるのか!?」

「何故だ、魔王と娘はあの時女王に食われたはず・・・・・・」

王はおかしな状況に動揺の色が隠せないでいる。


「それに勇者の剣は異世界から来た勇者にしか・・・・・・」

「そうか・・・その魔王の娘、転生者と言う事は異世界から来た勇者と同じと言う事か!?」

「これはマズイいぞ、魔族があの剣の力を使うとなると我らにとって脅威だ・・・・・・」


そうしているとミューが目を覚ました。

「ミュー!良かった、心配したよ!」

「ごめんなさい、ちょっと本気を出しちゃって」


「ミューステアよ、今回の件どのように考えるか?」

「そうですね。魔王とその娘が生きていたとなると、少なくても女王が食べたと言う話は嘘ですね。女王を犠牲にし、人間に気づかれない方法で生き延びたと言う所でしょうか?」

「あと1つ気になる事があるんです。レーティアと名乗る魔王の娘が自分のことを"この世界に舞い戻った魔王の娘"と言ったんですよね」

「舞い戻るとはいかようか?」

「言葉の意味をそのまま汲み取るなら、魔王の娘から1度何かに転生し、再び魔王の娘に転生して戻ってきたということでしょうか?」


「何故そんなややこしい事を・・・・・・」

王にはその意図が読めない。


「理由のひとつには"人間にバレないように生き延びる"と言うのがあるかもしれません」


王は難しい顔で質問をする。

「魔族は皆1度何かに転生して戻ってきたと言う事か?」


「いや、それはないでしょう。異世界転生などという高度な術はそう簡単に何回も何回も行使出来るものではありませんし、何より自分自身に行える術でもありませんので」


シュヴァルツさんが入ってきた。

「失礼します!お呼びとの事で参上致しました」


「魔族と戦い、そして生き残ったそなたの意見を聞いてみたいと思ってな」

「そうですね・・・。あの戦いの中である魔族を追い詰めた時に、やつが吐いた言葉が今になって気になります。奴は"自ら魔力を封印出来るものは封印しろ"と言っていた。あの時は何を意味しているのかさっぱりだったが、今思えば魔力を封印したら、我々人間はその存在に気づけなくなるのは無いかと推察致します」


王は髭をサワサワしながら言った。

「そうして隠れていた訳か。なら魔族は皆自ら魔力を封印し、今もどこかで隠れ住んでいるという訳か」


!!!


「そうか!全部繋がりましたよ!」

「王様、それは間違いです」

「魔力を封印したら魔力が必要な事は何も出来なくなる。つまり異世界転生の術がつかえなくなるということです」

「だから魔力を封印せずに娘を転生させた。その後自ら魔力を封じ身を隠した」


「ならどうやって娘を再び転生させた?」

「それは・・・・・・」


シュヴァルツは強い口調で言った。

「問題はそこでは無いと存じます。現に魔族が存在し、再び我らの敵となる。それに対してどうするかが大事なのでは?」


「シュヴァルツさん、魔族って強いんですか?」

「相手にもよるが、経験測で言うなら魔王の娘は恐らく今の我々では歯が立たんだろうな。それの共にいた魔族も大事な娘の護衛につけるくらいだ、かなりの手練だと思う」


「手を取り合う術はないんでしょうか?」

「リョウマのその気持ちはよく分かるが、こちらはともかく向こうさんにその気がないだろ・・・・・・」


「みゆの記憶さえ戻れば何とかなるのかも・・・・・・」

ミューは大声で叫んだ

「あーーーー!!!」


みんな突然の大きな叫び声に驚きあたりは静まり返った。

「皆さん論点がズレてますよ」

「元々戦いの原因はなんですか?魔族が人間界に侵略してきた事からですよ。ならなにか理由(ワケ)があって攻めてきたんでしょう。その理由を解消してあげれば、歩みよることが出来るんじゃないですか?」


「話し合うにしても、まず奴らの居場所がわからない」

「もう手詰まりかよ・・・・・・」

シュヴァルツは剣の鞘を地面にコツコツ当てている。

相当イライラしてるようだ。


リョウマはミューに突然妙な事を言った。

「もし、ミューが魔王だとしたらどう行動しますか?」

「わ、私がですか・・・?そうですね・・・」


「女王が魔王と娘を食べたと言う事がデマだとしたら・・・・・・」


ミューは1人であれこれ考えてるのかブツブツ独り言を呟いていた。


デマを流したのは、女王が最後の魔族だと思わせるため。それは魔王と娘を死んだことにして逃がすことが目的。娘を転生させたのは魔王がやられても魔族の血を絶やさない為。その後自分の魔力を封じ気づかれないように生きながらえる・・・・・・魔力がないと何も出来ないのになんの為に・・・・・・娘の体を守るため!つまりもう一度娘を呼び戻しの転生をするつもりだった。既に娘が転生している結果を見ると魔王に魔力が戻ったのは間違いない。つまり魔王は何らかの方法で魔力を取り戻した。女王が魔王を"食べた"と言うデマを流したのは何故か?デマなら融合や吸収でも構わないはず・・・。という事は魔族は食べる事で魔力を吸収できる生命体である可能性が高い。つまり魔王は何かを食べ魔力を吸収し回復した。何を食べた?魔力のあるもの・・・・・・。分からない。何を食べたのか・・・・・・。魔力のある人間?いや、そもそも魔力のない魔王が人前に現れることは考えにくい。という事は人目につかない所・・・・・・。勇者の眠る島。あそこには僅かながら魔物もいる。奴らを食べた?少ないと言っても群れで生きてるアイツらの中に単騎で飛び込むことも考えにくい。あの島で魔力を帯びた食べるもの・・・・・・。


"勇者様の遺体!?"


亡くなって日も浅ければその魔力は肉体に留まっている。位の高い魔法使いなら死んだ後、数十年経ってもその骨には魔力が残っていたなんて話もあるくらいだ。現に勇者様のご遺体はなかった。その得た魔力で自己の封印を解き、異世界転生を行い魔王とその娘の2人が同時に復活。勇者がいなくなった今魔族達は立ち上がろうとしている・・・・・・。


ブツブツ言っていたミューが口にした言葉は

「・・・・・・最悪です」

だった。


そのミューの考えを伝えた。

「なんと、そのような・・・・・・」


「あれだな、あとは奴らはどこに隠れてるか?だな」

「エルフの力で何とかならんのか?」

「は、はぁ・・・それがてきてたらこんなに苦労は・・・・・・」

皆ため息をついた。


リョウマは手を挙げた。

発言の前に手を上げるという文化がないので、王はその行動がよくわかっていないようだ。

「どうしたリョウマ?」

「みゆ・・・じゃない、レーティアは"忌まわしき人間が魔族にした仕打ちを報復する者。今はその時ではない"と言っていました。ならば向こうから仕掛けてくると考えられます。いつなのかは分かりませんが・・・・・・」

「それと"忌まわしき人間が魔族にした仕打ち"と言う表現はなんでしょうか?人間界を侵略に来て返り討ちにあった者が言うセリフでは無いように思います。むしろ人間が魔族を苦しめていた存在だと言うふうに聞こえるのですが・・・・・・」


ミューも目をつぶりながら頷いていた。

「確かに"魔族にした仕打ち"というのが気になりますね」


王は机を叩きながら立ち上がり声を荒らげて言った。

「それは我らが魔族を滅ぼした事に決まっているだろう!」


「でも王、逆の立場で考えてみてください。我ら人間が魔族を侵略しようとして滅ぼされて苦渋を舐め、復活の兆しが見え、魔族に遭遇した時に、王ならそのようなセリフおっしゃいますか?」

「確かに"仕打ち"と言う言葉は少し違う気がするな」


「記録として残っているのは"我々人間は人間界を侵略しに来た魔族から世界を守った"となっていますが、実はそうじゃなかったのでは無いでしょうか・・・・・・」


!!!


「どういう事だ?」

王の顔は険しい物になっていた。

「根拠はありませんので、あくまで可能性の1つでしか無いのですが」


『人間が魔界を侵略しょうとした』


「馬鹿な!?なぜそのような事を?」

「理由はわかりません。ただ領地拡大、資源の確保は、人間の世の常。魔界と言う新天地の存在を知れば興味が湧きあわよくば己の物に!となるのは必然かと・・・・・・」


「魔族の方からが攻めてきたんなら、旗色が悪くなれば逃げ帰えり、出直せばいいだけの事。それをしない・・・いや出来なかったという事は、魔族は人間からの進行を食い止めていて引く事ができなかった・・・・・・そうであれば先の私の考えに全て説明がつきます」


皆息を飲んだ。

正義は人間にありと思っていた勝利は、侵略のための不義愚行だった。

「そう決まった訳ではありませんが、その可能性も有り得るかと。人間という生き物は、都合の悪いことは隠蔽し臭い物に蓋をする生き物ですから・・・」


エルフの言葉はとても重く返す言葉がないと皆口を閉じていた。


「リョウマさん。私は魔族と人間の間にあった戦いの真相を調べてみようと思います」

「分かりました」

「王様、王宮の禁書庫にある物を拝謁する許可を頂いても宜しいですか?」

王は冷や汗をかきながら頷いた。

「ただし、この場にいる物以外には絶対に口外しない事」

「はい、心得ております」


ミューはそうして真相究明に動いた。


リョウマはみゆの記憶を呼び戻すための方法を考えた。

「王様、紙とペンはありますか?」

「もちろんあるが紙とはまた高価なものをどうするのか?」

紙は高価なのか・・・・・・。


「レーティアの中に眠るみゆの記憶を呼び起こすために色々試してみようと思って」

「わかった。リョウマよミューステアもしばらく離れる事だし、当面王宮に住んではどうかな?」

「良いんですか?」

「もちろんだ。こちらもその方が心強い」

「ありがとうございます!」

「では部屋を用意させる。紙は手元に来たら部屋まで届けさせるので少し時間をくれ」

「ありがとうございます」


そうしてリョウマはみゆの為に何かを作るのだった。


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