♂♀勇者の墓

勇者にはとりあえず名前がいるだろうという事で村と王宮を上げて異世界人の命名大会が行われた。

120個ほどほど候補が上がり多数決で5つに絞られた。

カイエン、ヴォーグ、セシル、ギリアム、リョウマ

この5つで投票を行うことなった。

皆は投票にノリノリだったが、この中から選ぶとなれば"リョウマ"が1番良いと思った。


「王様!申し上げたい事がございます」

「なにかな?」

「名前ですが"リョウマ"を頂くことは出来ないでしょうか?」

「ほう、それはまたどうしてかな?」

「"リョウマ"正式には坂本龍馬と言う人物で、俺の国で歴史的偉業を成し遂げた大人物なんです」

「ほほー、それは今から大業をなそうとしているそなたにはピッタリかもしれんの」

「よし、異世界からこられた御仁は"リョウマ"と相決まった」

「彼は勇者ではないが、勇者と同じく異世界から来た者だ。この世界で行方知れずの伴侶を探すために旅をしているが、彼の旅は我々にとっても有益でメリットがある。ゆえに皆、全面的に協力して欲しい」

「御意!」

一同は声を揃えて返事をした。


リョウマバンザーイ!

リョウマバンザーイ!


皆大いに喜んだ。

そんな中1人の騎士が現れた。

見た目にとても立派でその強さも伺えるほどだ。

いかにも"王国騎士"と言う感じで素直にカッコイイと思った。

「俺はシュヴァルツ、兄ちゃん剣の心得はあるのかい?」

「いや、それが全く・・・・・・」

「だろうな。そんなひょろっちい体で剣士はないわな」

「あははは・・・・・・」

「旅は急いでるのかい?」

「そうですね急ぎたいところではあるのですけど、まだこの世界のこと何も知らないですし、強くもないし、まずはこの世界で生きていける力だけは身につけないと、と思ってます」

「なら俺に2ヶ月よこしな。俺と互角に戦えるくらい強くしてやる」

「え!?本当ですか?」

「そのかわり2ヶ月は地獄だと思え!」

「はい!よろしくお願いします」

俺は話がうますぎると思って王様の方をチラッとみたら、王様は目配せしてきた。

俺はその場から深々と頭を下げ礼をした。

そうして俺は騎士のシュヴァルツさんに王宮騎士団の訓練所という名の地獄に連れていかれた。

「絶対に逃がさねーからな!」

「は、はい・・・よろしくお願いします」

こうして地獄の来2ヶ月が始まった。


━━━━━━。


あれから俺は2ヶ月ほど王宮で剣術を学んだ。

そしてシュヴァルツさんの合格試験に合格できず2週間の追試を受ける羽目になった。

まさに地獄だったが、おかげで剣の腕は、本当に王国騎士団最強のシュヴァルツさんと互角に戦えるくらいになっていた。

「シュヴァルツさん本当にありがとうございました」

「困った時きにその腕貸してくれたら問題ねーよ」

「はい、その時が来たら存分にこの腕振わせて頂きます」

さすがにこの身分で王様に会うことは出来ないので、シュヴァルツさんによろしくお伝えくださいと伝言し王宮を後にした。

そしてヘチマ村のミューステアさんのところへ戻った。


「あ!リョウマさん」

「今王宮騎士団の特訓から戻りました。おかげで随分強くなりましたよ!」

「確かに見た目からして出会った時とは全くの別人のようですよ」

「騎士団長のシュヴァルツさんと互角に戦えるくらいになりました!」

「それは本当に凄いですね!そこまで強いと先代勇者様と変わらないですよ!」

「せっかくなんで魔法は私がお教えしましょうか?」

「俺、魔法使えるんですか?」

「調べてみますね」

・・・・・・・・・。

「ごめんなさい・・・リョウマさん魔力ないですね。さすがに魔力が無いと魔法は使えません」

魔法に関しては、全く魔力がないらしく使えないそうだ。


魔法が使えないと不便だろうと、ミューステアさんは、わざわざ俺のために魔法を込めた使い捨てタイプの魔法スティックと言うのをつくってくれた。

ポキッと折ると込められた魔法が発動するというものだ。

それと、基本的な回復薬と毒消しを容易してくれた。


そう、実は近くの森でオークたちが暴れ回っているようで、つい先日、村人の数人が襲われて大怪我をしたそうだ。

それの退治をすることになってる。

鍛え上げられた剣の腕の見せどころというわけだ。

その日はやすんで次の日に討伐へ向かうことになった。


俺はミューステアさんと一緒に討伐へ向かった。

「ミューステアさん」

「はい?」

「オークってそんなに強くないと思うんですけど、ミューステアさんがいたらチョチョイとやっつけれるんじゃないんですか?」

「そうですね。倒すと言うだけなら他愛ないのですが、我々エルフは自然を破壊することは出来ないのです」

「そうか、オーク達は森の中だ。魔法を使うと森に被害が・・・」

「エルフって優しいんですね」

ミューステアはニコッと笑った。


「俺ガンガン攻めていくので回復お願いします!」

「えーっと・・・・・・私回復魔法使えません!」

ミューステアはテヘ笑いしている。


そうか・・・だから回復薬とか毒消しを・・・・・・。

想定外だ。


「リョウマさんの強さなら何とかなりますよ!」

「は、はい頑張ります」


と、言ってるそばからオークだ。

「ミューステアさん、あのオークやっつけちゃって良いんですかね?」

「そうですね。やっつけに来たんですから」

またミューステアさんの可愛い笑顔だ。


剣を抜きオークの前に立った。

「おい、そこのオークよくも村の人をやってくれたな!」


「ニンゲン、コロス」

オークが向かってきた。

オークは握った棍棒を振り下ろす。

すかさず剣で弾き飛ばす。

棍棒を弾かれバランスを崩した。

その隙にオークの左胸を突き刺した。

「リョウマさん!オークの心臓右側ですぅ!」

「なに!?」

オークは飛びかかってきた。

カウンター気味に顔面パンチを入れる。

オークは吹き飛ばされ後ろの木にぶつかり気を失った。

「ちょっとミューステアさん、オークの心臓右って事教えといてくださいよ」

「んーー心臓の位置知りたがっているのを知っていたら教えたんですけどねー」

「他にオークの弱点とかないんですか?」

「オークは水が苦手で水を嫌う習性があるくらいでしょうか?」

なるほど。

ただ、水をかけても仕方ないだろうし・・・・・・。

!!!

「ミューステアさん」

「リョウマさん、ミューステアさんって言いにくくないですか?ミューって呼び捨てて頂いていいですよ。親しい人はみんなそう呼びますので」

「そ、そうですか・・・では失礼して・・・」

「ミュー、回復魔法は無理って言ってたけど、剣に魔法かけたりは出来る?」

「なるほどです」

"アクアブレード"

リョウマのが水に覆われ水の剣になった。

「おお!良いじゃん!」

と、またオークのお出ましか・・・って多いな・・・。

オークは大きな音に反応して群れでやってきた。

8、9・・・12匹もいる。

「リョウマさん30秒だけ時間遅くしますね」

「へ?」

"タイムシーカー"


周りの時間の流れが遅くなった。

全てがスローに見える。


30秒か

向かってくるオークの右の心臓を突き刺していく。

1匹、2匹、3、4、5・・・

一気に7匹の心臓を貫いた。

タイムシーカーが解ける。

その瞬間7匹のオークは何が起きたのか分からないまま絶命して地に伏せる。

スゲー

「ミュー凄いよ!」

「はい、私ハイエルフですから!」

おや?今向かってくるこさオークは少し雰囲気が違うな・・・。

両手に短剣を握っている。

「あれはアサシンオークですね。気をつけてください。速いですよ!」

オークは力押しで動きは遅いイメージだったがこういうタイプもいるのか。


えっ!?

アサシンオークは目の前で消えた。

「上です!」


!!!

バックステップで回避する。


すかさず追い討ちをかけてくる。

短剣の二刀流で斬撃が嵐のように襲ってくる。

とても全部防ぎきれない。

十数箇所斬撃を貰う

痛い・・・とても痛いがシュヴァルツさんの訓練に比べたらマシだ・・・。

シュヴァルツさんに感謝だな。


「リョウマさん、速くなりますよ!気をつけてくださいね!」

"ダブル・・・トリプルクイック"

リョウマのスピードが3倍になる。


は、はえぇーーー

アサシンオークより速い。

あれだけ激しかった斬撃をことごとくかわす。

防ぐまでもない。

一瞬の隙を見てクビを落とす。


残りの4匹は鎧を身につけ、いかにも指揮官クラスと思える。

見るからに硬そうだ。


「ミュー!トリプルパワー的な魔法ある?」

「力が上がる魔法はないですー」

「え?ないの?」

「クイックは重力操作してるだけなんで、肉体的な能力が上がってる訳じゃないのですよ!」

「でも、たぶんあれくらいの鎧なら水の剣でスパッと行けると思いますよー」

オークはは大きな斧を振り降りしてきた。

剣で払うようにふせぐと、斧は剣でぶった切られた。


え!?


驚いたのは斬ったリョウマの方だった。

こんなに切れるのか・・・

こいつら動きは遅い。

敵の斬撃を難なくかわし、次々と斬撃をを入れていく。

あっという間に全滅させた。


「ふー終わった」

「まだ奥にもいるみたいですよ」

2人はさらに奥に進んだ。

子どものオーク1匹と幼児ぐらいのオークが2匹、計3匹残っていた。

「子ども?」

「ですね」

子どものオークは怯えて抱き合っている。


「あのさーオークって教育とかできるのかな?」

「人並みの知性はあるはずですけど・・・・・・」

「こいつら人間にと同じように教育したら、人間と同じように生活していけないのかな?」

「人間は襲ってはいけない、守るものだとそう育てていけば上手くやって行けるんじゃないかな?」

「私達はともかく、村人達は受け入れることでき無いんじゃないでしょうか・・・」

「魔族と仲良くなろうとしてるのに、オークと仲良くできないようじゃ話にならないよな・・・・・・」

「リョウマさん・・・・・・」

「どの道このままほっといたら何しでかすか分からないし連れて帰ろう」

「はい!」


そうしてオークの子どもを三匹つれてかえった。

村にはいった瞬間、村人達の態度は明らかに動揺していた。

そまま村長の所へ向かった。


「これはリョウマさん。おお!?そのオークの子供はなんですかな?」

「この子達、きちんと教育して村の役に立つように育てて欲しいんだ」

「お、オークをですかな?」

「まだ、オークとしての育ち方はしてないので、ちゃんと育てて行けば俺たち人間と変わりませんよ!」

「そんなもんですかな・・・・・・」

「もし、その子達が人間を襲うような事をしたなら俺が全て責任取りますので・・・」

「分かりました。森にほっておいたら何をしでかすかわからないですし・・・」

「ありがとうございます!」

こうしてオーク退治は完了した。


「リョウマさん、オークと戦って剣がボロボロになってますね」

リョウマは剣を抜いて見てみた。

「本当だ・・・・・・。刃こぼれしまくってる」

「勇者様のお墓に、来るべき時のために勇者様がお使いになられていた伝説の剣が封印してあるのですが、それを拝領してはいかがでしょうか?」

「そんな事いいんでしょうか?」

「経緯はどうあれ、魔族と事を構えることになる訳ですから必然の流れかと思いますよぉ」

「村長に聞いてみましょうか?」

「えーっと、聞くなら王様にですね!」

「あ、そうか・・・・・・」


2人は王宮に向かった。


門兵にシュヴァルツさんを呼び出してもらった。

「師匠、本日オーク討伐完了しました」

「ほぅ、何匹いた?」

「雑魚が7人とアサシン1匹、鎧を着た指揮官の様なのが4匹でした」

「オークナイトだな。あれはそこそこ強かったろ?」

「ミューに魔法剣かけてもらったので楽勝でした!」

「ずるいな・・・・・・と、そんな事でわざわざ呼び出した訳じゃないんだろ?」

「さすがですね。王様に取り次いで欲しいんです。と言うのも後々奴らと事を構えることを考えたら、勇者の剣が必要になるかと思って、その相談に」

「ほほー、だがあれは素質あるものにしか使えねー代物だ。俺は剣に認めて貰えなかったよ」

「そうなんですね・・・・・・根拠はないですが俺なら使えそうな気がします!」

「はっはっは!そうでなくちゃ試す意味がねぇ!」

「ちょっと待ってな。王様に報告してくるよ」

「ありがとうございます!」


「何だかリョウマさんを見る目が変わりましたね」

「そりゃ2ヶ月で騎士団のナンバー1と同じ強さにされたんですから・・・・・・」

ミューはまたあの可愛い笑顔で微笑んだ。

「リョウマ!中に入ってこい!」

「はい!すぐに!」


小走りでついて行く。

廊下を進み玉座の間についた。

リョウマは剣を兵士に預け中に入る。

「リョウマよ、話は聞いた。お前さんが使いこなせるかどうかは分からんが、封印を解いておくので手にするが良い」

「ありがとうございます」

「見事その手にできれば剣に選ばれた証拠。そなたが自由に使うが良い。ただし剣を抜けず手にすることが出来なければ諦めて他の武器を使うしかないぞ」

「はい。かしこまりました」


「勇者の墓はここから南の島にあり、船で10日ほどかかる。準備をしっかりして向かうが良い。船は手配しておく」

「何から何までありがとうございます」

「あと、これはオーク討伐の報奨だ」

そう言って巾着ブクロをくれた。

これは・・・・・・?

中には金貨100枚ほど入っていた。

「金貨100枚ですね」

「き、金貨100枚!?」

ミューは飛び上がった。

「ミュー?」

「リョウマさん、金貨100枚って物凄く大金ですよ!!ただのオーク退治の報奨としては多すぎます!!」

「え?そんなに大金なの?」

・・・・・・。

周りの視線が冷たい・・・・・・。

「えっと、えっとですね・・・・・・金貨100枚あったら、ごくごく普通の家が1件買えちゃいます・・・・・・」


普通の家が1軒・・・家って2000万円くらいか?

2000万!?

金貨1枚20万相当なのか!?

いやいや、いくらなんでも貰いすぎだろ。

「王様、これはいくらなんでも多すぎます!」

「そうか?勇者の代わりを務めてもらうことを考えたらその位は当然かと思ったんだが・・・・・・」


・・・・・・。

そうか、俺の存在を勇者と同じようにしてくれた訳か。


「ご厚意感謝申し上げます。報奨に見合う仕事を必ず努めますので、有難く頂戴致します」

「お主はみゆ殿を探し出すことに尽力してくれば良い。ついでにチョチョイとゴミを掃除してくれるだけで結構」


大きなゴミになりそうだ・・・・・・。


「はい!感謝致します!ついでに大掃除もきっちり致しますので」

「はっはっは!大掃除がついでとは面白いやつじゃ!」

わははははは

その場にいた皆は大笑いした。


「では、気をつけて行くんじゃぞ」

「はい!」


その日は村長の家に戻りゆっくり休んだ。

次の日、店に繰り出し必要品の買い出しに出かけた。

武器は勇者の剣が手に入る予定なので、防具を少し良い物に新調した。

そして、王都にある船着き場のそばの宿屋に向かい、次の日の出発に備えた。


そして朝が来る。

荷物を確認し船着き場へむかう。

「船酔いしないかな・・・・・・」

「船弱いのですか?」

「乗り物は全体的に弱いかな・・・・・・」

「なら魔法かけときますね」

"スタビティ"

「これで揺れから守られますので酔わないと思います」

「いつもありがとう!」

ミューはニッコリ微笑んだ。

最近このミューの笑顔を見るのがすごく嬉く感じる。


「おーい、そこの若いの乗るのかね?」

「あ、はい!」

「乗船券はあるかい?」

リョウマとミューは顔を見合わせた。

「そんなの貰った?」

「私は何も頂いておりません」


「なんだないのかい?」

「あのぉ、王様が船を手配しとくと仰っておられたのですが、乗船券みたいなものは何も頂いてなくて・・・・・・」

「おお!兄ちゃんが異世界からの。話は聞いてるよ!さぁ乗った乗った!」

「あ、ありがとうございます!」

こうして何とか無事船に乗り出航できた。


そして10日経ち島に到着する日がやってきた。

10日もかかるのは、直行便では無いからだ。

三ヶ所経由している事で日にちがかかってしまうのだ。


「おーい兄ちゃん着いたぞー」

「ありがとうございます・・・って降りるの俺たちだけですか?」

「まあな。ここは勇者様の墓以外何も無いからな」

「そうなんですね」

「ただ、島自体は割と広いし、魔物はいなくなったと言ってもゴブリンやオークなんかは住み着いてるからな。気をつけるんだぞ」

「ご親切にありがとうございます」

「帰る時はポッポで連絡してくれたら、定期便に合わせて島によるから連絡してくれ」

「了解しました」

そう言うとタラップを上げ出航した。


さて、少し島を探検するか。

「大丈夫だと思いますが、念の為魔力と気配と臭いを消しておきますね」

"イクスティング"

「おお!足音がしない。いい意味で違和感がある」


ミューの魔法のおかげで危険に遭遇すること無く墓に着いた。

「おや?先客か?」

「まぁ観光の名所でもありますからね」

「しかし、モンスターがいますから、だいたいあのようにボディーガードと一緒来る方が多いんですよ」

「まぁ、世界を救った勇者の墓だもんな。見たいという人がいてもおかしくない話だ」

「とりあえず剣を抜くのは観光の方が去ってからにしましょう」

「そうですね」


そういう事でとりあえず供養も兼ねて墓参りしとくか。

「こんにちは」

「お姉さん方も勇者様の墓参りですか?」


!!!!


「何が勇者様だ!」

「姫、落ち着いて・・・」


!?


「みゆ?」

「えっ?」

ミューステアは驚いた。


「お前はなんだ?」

なんだか少し怒り気味な雰囲気で答える。


間違いない。

あの顔立ち、髪型、背丈に体型、間違いなくみゆその物だ。

「みゆ!俺だよ!俺!記憶喪失で名前覚えてないんだけど、こんなに早く会えるとは思わなかった!それに転生したのは魔族じゃなくて人間だったんだな!」


!!!!


リョウマの口から魔族と言う言葉が出た瞬間、向こう2人の雰囲気が変わった。

「お前達何者だ!!」

「みゆ?俺の事覚えてないのか?」

リョウマは少し動揺している。


「お前なんか知らない!」

「それに人間は敵だ!」


その一言にミューが反応した。

ミューは攻撃する訳では無いが戦闘態勢になっていた。

「リョウマさん、あの人たちは人間に化けた魔族です!!」

「なんだって!?」

「でも、あの姿、みゆそのまんまですけど・・・・・・」

「いくつかの状況は考えられますが、今魔族と遭遇するとはとても厄介な事に・・・・・・」


「姫、あの女エルフだと思われます」

「戦闘能力は低いですが、魔法がとても厄介です。万が一あれがハイエルフだとしたら、我ら2人で戦うのはとてもリスクが高いと・・・・・・」


お互い牽制し合っていてその場は緊張感を含む妙な空気に変わっていた。


「それにあの男"転生した"と言っておりましたな。ただの人間と言うわけではなさそうですね。それに姫のことを"みゆ"と言ってましたな。心当たりはありませんか?」

「・・・全くないです」

魔族側も戦うつもりでは無いが物凄く警戒姿勢をとっている。


ミューは少しでも相手の情報を引き出すために餌をまく。

「リョウマさん、あの女性は"元いた異世界"のみゆ様と同じお姿なんですか?」

わざと聞こえるように大きな声で言った。


「あのエルフ"元いた異世界"と言ったぞ。という事は、アイツは勇者か!?」

「勇者!?」

「姫、これはまずい・・・・・・非常にまずいですよ」

魔族組はやや動揺している。


リョウマが切り出す。

「お前達、本当に魔族なのか?」

「俺は異世界から来た。俺の大切な人、みゆって言うんだけど、そいつもこの世界に転生させられた。その・・・そこの彼女の姿はみゆそのものなんだけど、その人転生した人なんじゃないのか?」


「あいつ何故転生の事を知っているんだ?」

「あの人私の事を"大切な人と同じ姿"と言ってましたね。私とあの人は何か関係あるのでしょうか?」

「分かりませんが、人間と魔族、関わりあいがあるとすれば敵同士と言うだけのことかと・・・・・・」

「それに、異世界から来たと言うことは勇者ですよね?お父様の言いつけ通り逃げましょう。万が一ですが、ここで死ぬわけにも行きませんし」

魔族組は撤退の姿勢に入る。


「ちょと待てって!これだけは教えてくれ!その子転生した子じゃないのか ?」

「お前に話すことなど」

「クラリアス!」

「は、はい・・・・・・」

レーティアはクラリアスの言葉を遮った。


「いかにも。私は転生によりこの世界に舞い戻った魔王の娘レーティア。忌まわしき人間が魔族にした仕打ちを報復する者。今はその時ではないか、いずれ剣をぶつける事になるだろう」


リョウマの目には涙が浮かんでいた。

会えて嬉しい思いと、何も覚えていない事の悲しさ。

その心境は言葉にできないくらい複雑なものだった。


魔族組が立ち去ろうとした瞬間リョウマが叫ぶ


『俺、結婚の約束絶対に守るから!まだ2年と10ヶ月あるから!』


その言葉がレーティアの耳に入った瞬間動きが止まって固まった。

「・・・結婚?」


クラリアスは大声で言い返した。

「人間の分際で何を意味のわからない事を言っている。血迷ったか!」


「ああ!その可能性があるなら血迷ってやるさ!」


「姫、あの頭のおかしいのはほっておいて帰りましょう」

「・・・・・・・・・」

「姫?」

「・・・・・・・・・」

「姫!」

レーティアはハッと我に返る。

「姫、まさかあの変な人間に心を許したのでは・・・・・・」

「馬鹿なことを言わないで」

「失礼しました」


レーティアは左手を伸ばした。

それを見たミューも両手を出す。


"カオスインフェルノ"

レーティアから漆黒の炎が撃ち放たれる。


"アブソリュートゼロ"

ミューは撃ち放たれた漆黒の炎を絶対零度の冷気で打ち消した。


お互いの魔法の属性が反対属性同士でお互いを打ち消し合い、物凄い爆発が起きたものの風圧だけで、破壊的な力は相殺され消えていた。


爆風が晴れた頃には魔族組の姿はそこになかった。

リョウマは呆然と突っ立っていた。


「リョウマさん、思うことがあるのは分かりますが、魔族が目の前に現れた以上、色々考えなければならない事が山ほどあります。まず目的の剣を手に入れ、王に報告しましょう」


「あ、ああ。そうですね・・・・・・」

リョウマの心は上の空だ。


リョウマさん、心ここに在らずな感じです・・・・・・。

「早く剣を」

「はい・・・」

「王にも報告を」

「はい・・・」

「トイレ行きたいんですか?」

「はい・・・」

「目の前に、は、裸の女性が!」

「はい・・・」

・・・・・・・・・

ダメだ全く上の空ですぅ・・・。


「リョウマさん!私、リョウマさんにチ、チューしますよ!」

「はい・・・」


チュッ・・・


!!!!


「・・・・・・・・・」

なんだ??

なんでミューが俺と・・・?


リョウマの目が生き返った。

「ミュー?」

「あ、やっと気がつきましたか」

「え?」

「あまりに衝撃的な事が一瞬の間に沢山起きたので、頭が整理できずパニックになったんでしょう。ずぅーっと上の空でしたよ!」


「なんでミューとチューしてたの?」

「チューしますよって聞いたら"はい"って言いましたからしました」

「衝撃的な事でパニックになっている時は、それを超える衝撃的な事を起こすのが良いかと思いましてつい・・・・・・」

「あははは・・・・・・ごめんなさい。迷惑おかけしました」

「ホント迷惑ですぅ!帰ったらおしりペンペンの刑ですっ!」

「あははは、分かりました」

「いや、そこは拒否してください・・・・・・ほんとにペンペンしますよ」

「ミューになら何されてもいいような気がする・・・・・・」

「変態ですか?」

「・・・・・・・・・」

「否定しないんですか!?」

「ぷっふふっ!」

「?」

「可愛い女の子の前では男はみんな変態ですよ!」

ミューは恥ずかしくて顔が真っ赤になっていた。


「もう、そんな変態語録はどうでもいいので早く剣を!」

「そうだった」


伝説の剣が収められたところに行くが、剣が抜かれていた。

「「剣がない!」」

2人は同時に言った。


状況的に考えて魔族組が持って行ったと考えるのが妥当だろう。

2人は内心そう考えた。


これは非常にまずい・・・・・・。

想定外の状況だ・・・・・・。

ミューはとても嫌な予感がしていた。


ミューはもうひとつ違和感を感じていた。

よく見たら石の棺桶の蓋が少しズレていた。

気になって蓋をずらして開けてみた。

死体がない。

これも魔族組の仕業か・・・・・・?


「リョウマさん、勇者様の遺体も無くなってます」

「一体なんのために・・・・・・」

「分かりません・・・・・・が魔族達に何かの動きがあるのは明白です」

「確証はありませんがさっきの彼女は恐らくみゆ様・・・・・・。ご記憶をなくされていたようですが、あの魔族としての立ち振る舞い・・・・・・。魔族としての記憶をすり込まれているのか、記憶を改ざんされているのかもしれません」


「でも"結婚"と言う言葉に反応しましたよ!」

「確かに・・・。頭の中の記憶は失ってはいるけど魂の深層に眠る記憶は残っている?」

「つまりその記憶を呼び起こせば元の世界の記憶が戻るって事ですね!」

「確かにその可能性はあると思うのですが、ひとつ気になるのは、彼女が"この世界に舞い戻った魔王の娘"と言った一言が引っかかります・・・・・・」

「どういう事ですか?」

「えっと、その・・・・・・とりあえず剣も遺体も無くなってますので、ここにいても仕方ありません。帰って王に報告して今後の対策を考えることが先かと」

「そうですね。でも次来る船はまだしばらくかかるんですよね?」

「たしかに。それに船では時間がかかってしまいますので少し本気を出しますね」

「本気出したら帰れるんですか?」

うふふ

ミューはまたあの可愛い笑顔を見せた。


"熱き炎の精霊よ、冷たき水の精霊よ、激しき風の精霊よ、優しき大地の精霊よ、汝らの力合わせ持ち、そこに時空の扉を切り開け"

"クロノスドアー"


目の前に光の扉があらわれた。

「さ、行きますよ!」

「これは一体・・・・・・」

「いま王宮の玉座の間に繋がってます!話は後です。行きましょう」

「は、はい」


そうして2人は事態を説明すべく王宮に戻ったのだった。



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