♀レーティア

頭が重い・・・・・・

でも体は軽い・・・・・・

周りは物凄く熱い感じがあるのに熱いとは感じない。


空腹感はあるが、お腹が減っていると言うのとは何か違う感じ。

とにかく眠い。

眠いと言うよりは寝すぎて完全に目が覚め切ってない感じって言うのかな?


私は目をこすった。


えっ!?


その目にはとても鋭利な獣のような爪、赤黒い鱗のような皮膚が目に入った。


な、何これ!?


両手を見る。

何この手・・・悪魔?

え?

えっ!?


足も同じように鱗状の皮膚に爪だ。


えーー??


あーーー夢ね、あまりに非現実的すぎてびっくりした。

尖った鋭いつめでほっぺたを突き刺してみた。


痛っ・・・

頬から青緑の血らしきものがポタポタ落ちる。

え?

痛い・・・・・・

ウソ・・・・・・夢じゃない・・・・・・

何これ・・・・・・


理解できない現状に頭を抱えうずくまった。

一体何がどうなっているのか皆目検討がつかないまま、数分が過ぎた。


この状況を理解しようとするが、頭の中が真っ白で何も分からない。

ただ1つ、今までの自分とは何か違う違和感だけがそこにあった。


サザッ、ザザッ

何か引きずるような、足音のようなものが聞こえる。


「お嬢様お目覚めになりましたか。お体の調子はいかがですか?」


・・・・・・。

お嬢様?

体の調子?


お嬢様はかたまっている。


「お、お嬢様?少しお待ちください。今王を呼んで参ります」


王?

誰?


王とは誰の事かを思い出そうとした時に気がついた。


"記憶が無い"


生きる為の基本的な事は体が覚えているようだけど"記憶""思い出"などな情報が一切欠落している。


「レーティアよ目覚めたのか?」


「あ、悪魔!!」

私は思わず叫んだ。


「レーティア?大丈夫か?」


レーティア?

私の名前?


「は、はい・・・大丈夫だと思います」


???

???


王と、その側近と思われるものは不思議な目でこちらを見ている。


「まあいい、しばらく休んでおけ。また後で来る」

そう言って2人は去っていった。


私は少し考えてみた。


あの姿を見て、自分の姿もそうだけど、驚いたという事は、それに対して免疫がない。

つまり私は、今の私ではなかったと考えられるわけだ。

ありえない話だとは思うけど、何かの拍子に誰かと入れ替わった?


などと考えてみたりした。


まぁ、考えても分からないので流れに任せるしかないか・・・・・・。

とりあえず、何も分からないので様子を見てみようかな。


そうして部屋から出る。

よく見たら通路はゴツゴツした岩肌で洞窟の中のような雰囲気だ。

奥の曲がり角から誰か来る。


「あっ!姫さま。ついにお目覚めになられたのですね!」


「ぎぃやゃぁぁぁぁーーー!」

私は思わず叫んだ!


曲がり角から曲がってきたそれは、即座に振り返り戦闘態勢をとった。

「敵か!?」


・・・・・・。

そこには角柱の上に壺があるだけで怪しい姿は何も無かった。


「姫、驚かさないでください」

そう言って歩み寄ってくる。


「いゃぁあぁぁーーー来ないでーーー!」

「えっ?私ですか!?」


それは、人間の形をしているが全身に無数の目があり黒い翼のような物を生やしたとても恐ろしい姿をしていた。


「そんな、幼少の頃からの付き合いじゃないですか・・・今更驚くなんて・・・」

ショックを隠し知れず、全身の目が涙で潤んでいた。


私は確信した。

私はここの住人じゃない。


!!!


今この人、幼少の頃からの付き合いって・・・。

このレーティアって人の事聞けるかも。

それに"ついに目覚めた"って言ってた・・・・・・と言う事は長い眠りについてたのかな?


「あ、あの・・・ごめんなさい。長い眠りで記憶がおかしくなってるみたいで・・・」

レーティアは少し目 に涙を浮かべ嘘くさい小芝居をした。


「そうでしたか・・・・・・それで私の事も・・・」

「ごめんなさい」


「では、改めまして私はクラリアスと申します。魔王軍第1部隊の部隊長兼参謀をしております」

「ありがとう」

「それと、私、自分の事も覚えてないんです・・・」

「なんと・・・・・・よろしい。少しだけ昔の事お話しましょう」


"今から80年前、我ら魔族と人間族は自分たちを賭けたとても大きな戦いがありました。どちらも力に優劣がなく拮抗状態でした。ある日人間は『異世界召喚』と言われる術で『勇者』なるものを呼び出したのです。その存在はとても強大で魔族は太刀打ち出来ず魔族はやられる一方でした。魔王は一族を守るため必死に抵抗しましたが力及ばず魔族は壊滅状態になってしまった。追い詰められた魔王は魔王族の血を絶やすことだけは絶対に出来ないと苦肉の策をとったのです。娘のレーティアの魂を違う世界に移す『異世界転生』と言う術でレーティアの魂だけを逃がしたのです。そして魔王自身の魔力を封印し魔族の気配を悟られない状態にしレーティアの肉体と一緒に生き延びる術をとったのです。女王もその方法しか無いと理解しある噂を流したのです。『勇者を倒す力を得るために、魔王と娘を自ら喰った』と。そうして勇者と戦うも、もちろんそんな力がある訳ではないのでやられてしまったのです。その後勇者は魔族を根絶やしにする。害意のない低級魔族まで殺したのです。魔族の気配が完全に亡くなった事を確認し、戦いは集結したのです。"


「そんな事が・・・・・・悲しい出来事ですね」

「で、その後レーティア・・・私はどうなったのですか?」


「それは・・・」

「クラリアスよい。その続きは我が話す」

「こ、これは王・・・・・・御意」


「・・・王様?」

「おいおい、これでも私はお前の実の親なんだ、お父さんと呼んではくれまいか?」

レーティアは戸惑っている。


「ど、努力します・・・」

「そうか・・・ありがとう。我が娘よ」


「ここでの立ち話もなんだ、部屋で話の続きをしてもいいかな?」

「はい、分かりました」


「皆、80年振りの娘との時間だ、しばし席を外せ」

「御意!」

「あと、クラリアスは念の為、部屋の前で見張りを任せる」

「御意!」


「レーティア、先程の様子からすると何も覚えていないんだな?」


「・・・はい、なんにも・・・」


「その魂は二つの世界を生き抜き、異世界転生と言う魂の転生を2度も経て戻ってきたんだ、記憶の障害が出ても仕方がない事・・・・・・」


「異世界転生・・・・・・という事は私は元々魔族?」


「ああそうだ。魔族から転生した先では何として生きていたのか分からんが、元々魔族であったのは間違いない。紛れもなく私と、亡くなった誇り高き女王の娘だ」


「そうですか・・・・・・」


「と、話の続きだったな」


"戦いが終わり、私とレーティアは人間が近づけない火山の地下に潜り根城とした。そこに住み着いて1ヶ月くらい経っただろうか、クラリアスとほか5人が私の根城に来たのだ。それは私の元へ来たのではなく、頭の切れるクラリアスは私と同じ事を考え同じ事をしたのだ。己と、理解ある側近5名の魔力を封印して勇者に見つからないように、人間が立ち寄れない火山の地下へ逃げ延びた。そこから80年経った今、勇者はとうとうこの世を去った。私はそれを聞き勇者の墓を暴き、その勇者の力が宿っていた肉体を喰らい魔力を取り戻した。その魔力で、集まってくれた魔族が自ら封印した魔力を解放した。 皆の魔力が全開した先時ついに異世界転生を行った。そしてレーティアが戻ってきた"


「という訳だ」

「80年も私の体を守ってくれてたんですね」

「当たり前だ!私の愛する娘の体だ。命に変えても守る」

「それに私は子供が産めない。お前は魔族最後の女、母親候補だ」


「私が魔族最後の女で母親候補・・・・・・」

「勇者がいなくなった今、人間を滅ぼし気高き女王の、そして散っていった魔族たちの仇をうつ!卑劣な人間は全滅だ!」


・・・・・・。

「私にはその気持ちが分かりませんが、私も魔族ならそうあるべきなんでしょう」

「わかってくれるか」

「・・・・・・努力します・・・」

「すまんな。苦労をかける」


「と、話も済んだとこで私は仕事に戻るとする。今すぐではないが人間らを滅ぼすための準備を始めねばならんのでな」

「はい。無理なさらずに」


「レーティアは優しいな」

「ありがとう・・・・・・お、お父様」

王は少し驚いたが、笑顔でこう言った。

「ありがとう。でも無理はしなくていい。本当にそう思えた時に言ってくれればいい。ではまたな」


そう言って部屋から出ていった。


レーティアは素直にこう思った。


見た目は怖いけど、心の中はとても優しく、私の事を心から愛してくれているんだと。

そして、こんなに優しい魔王を苦しめた人間ってどんな卑劣な生き物なんだろうと・・・・・・。

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