♂絶望が希望に変わる瞬間

・・・・・・・・・。

重たいまぶたをゆっくり持ち上げる。


丸太を並べたような天井・・・・・・

見たことがない天井だ・・・・・・


カバッ!


俺は飛び起きた。

ここはどこだ!?


みゆ!?

みゆはどうなったんだ!?


そうだ、魔方陣!

・・・もしかして異世界?

そんなアニメみたいな事が・・・?


何だか頭の中で情報が錯乱している。

軽いパニック状態だ。


あれ・・・?

頭の中で何か違和感を感じる・・・・・・。

何だろ・・・?


コンコン

「入りますね」


「あっ・・・。お気づきになられていたのですね。私はミューステア。エルフのミューステアと言います」


エルフ・・・

確かに耳は尖っている。

色白で美人で高貴な雰囲気が感じられる。

本物・・・?


「あ、あのぉ・・・本当にエルフ・・・なんですか?」

「はい!」


落ち着け落ち着け・・・。

目の前の現実を受け入れるんだ・・・・・・。


「あの、ここはどこなんでしょうか?」

「ここはヘチマと言う村ですよ」

ヘチマ・・・。


「王都にほど近い観光村です。王様もときどきここの温泉に来られるんですよ」


王様、王都、温泉にヘチマ・・・。

これは情報収集からだな。

置かれている状況がまったくわからん。


「時に、勇者様のお名前はなんとおっしゃるのですか?」


名前・・・・・・。

これだ!

違和感の正体。

名前がわからん・・・・・・。

記憶喪失と言うやつか。


「あっと・・・、ごめんなさい。どうやらこの世界に来る時に記憶を無くしたみたいで、名前が思い出せません・・・・・・」

目をつぶり眉間にシワを寄せながら頭の中の記憶をさがすが全く出て来ない。


「・・・・・・そ、そうですか」

「名前が無いと不便ですよね。一度長老にご相談してみますね」

「それに勇者って・・・・・・?」

「え?その独特の衣装、異世界からこられた勇者様じゃないんですか?」

「異世界から来たのは間違いないですけど、勇者かと言われたら違う気がします・・・・・・」

「異世界から来れれた方は勇者様なんです」

「そ、そうなんですね・・・・・・」

「あ、それと食事、置いておきますので召し上がってください!」

「どうもありがとうございます」

「それとも食べさせて差し上げましょうか?」

本気かどうかは分からないが、真っ直ぐな笑顔で語りかけてきた。

「あ、いえ、自分で食べれますから・・・。お心遣いありがとうございます」

「では、長老の所に行ってきますね」

そう言うと部屋をあとにした。


自然と会話してたが、言葉は通じてるんだな。


ベッドから立ち上がり、体の各部を確認する。

怪我は無いようだ。

とくに痛いところもない。


そうだ、何か名前を書いたものは持ってないか?

・・・いつもなら右のズボンのポケットに入れているはずのスマホはない。

服に名前・・・・・・制服ならまだしも、さすがに私服には書いてないよな・・・・・・。

早くもお手上げだ。

大きなため息をついた。


ボフッ!

仰向きにベッドに倒れ込む。


目をつぶり、大きく深呼吸し心を落ち着ける。

今は名前より今後どうするかだ。

目をつぶりながらボヤボヤする頭の中を一つ一つ整理する。


たしか、卒業式だった。

みゆにプロポーズしたんだ。

20歳になったら結婚しようと。

そして神様の泉だ。

神様の泉に行って婚姻届を沈めたんだ。

・・・・・・そう、ルールがあったはず。

・・・・・・。


!!!!


まずい!

これは非常にまずいぞ・・・・・・。


3年以内に結婚しないと永遠にみゆに会えなくなる!

しかし、みゆにも魔方陣が現れたって事はどこかの異世界に召喚されたって事だよな。

会うこと自体無理・・・・・・。


いや、3年間は手の届く所に存在し合えるはずだ!

と言う事はこの世界にいると言う事か?

つまり同じ世界に召喚されたという事!?

探せばどこかにいるはずだ!


そう思うと、嬉しさからか自然に涙がながれおちていた。


コンコン

「村長をお連れしました。入りますね」


「勇者様?」

村長の目に、涙を流している勇者の姿が映った。

「何がお辛い事がおありですかな?」


袖で涙をふき笑顔で答えた。

「いえ、逆です!希望が出てきたら嬉しくてつい・・・・・・」


「"希望"ですか。素敵な言葉です。私も大好きな言葉ですよ」

「私たちでお力になれる事はありますかな?」


「すいません。勇者として召喚されて助ける側なのに・・・・・・」

勝手に召喚されて怒り心頭になるはずなのに、村長の親切な言葉と雰囲気、ミューステアさんの優しさにつつまれ、そうはならなかった。

そもそも、この人たちのせいでは無いしな。


村長はとても優しい笑顔で

「いえいえ。困ってる時はお互い様ですよ」

と、親身に言ってくれた。


「感謝します」


「あのぉ・・・不躾で申し訳ないのですが、俺達を召喚したのは誰だかわかったりますか?」


村長は目をつぶりながら顎の髭をさわさわして考えている。

「そうさのぉ・・・そんな事ができるとしたら王宮の魔道士長とか上役の方々ではないでしょうか?」

「それに、今"俺達"といいましたかな?」

「そうなんです。俺の大切な人なんですけど、一緒に召喚されみたいなんです」


「それはおかしな話ですな。召喚できる勇者はこの世界に1人だけと昔から決まっておるはずなのですが・・・・・・」

「え!?ならみゆはどこに??」

「勇者さまの大切なお方はみゆ殿と申されるのか」


村長はまた目をつぶりながら髭をさわさわしている。

「ミューステア、エルフの知識で何かわからんかね?」


「たしかに勇者様の召喚は1人のはずです。過去に複数の勇者様の召喚に挑まれた事があったそうですがダメだったと言う結果があります。つまり、みゆ様はこの世界に召喚された訳では無いということになりますね」


「そんな・・・・・・ならみゆはどこに・・・・・・」

神様の泉の3年間手の届くところに存在するとルールと2人は召喚できなと言う現実。

この矛盾した状況に苛立ちを隠せないでいる。

1つ仮説を立てた。

"この世界にはいないが、手の届く別の世界にいる"だ。


「あの、ミューステアさん」

「なんでしょうか?」

「簡単に行き来できる別の世界とかってあったりするんですか?」

ミューステアの表情はとても険しいものになった。


「残念ですが別の世界と行き来すると言うのは不可能です。異世界からの召喚は片側の世界からもう片方の世界の理をねじ曲げるとても高度な技です。簡単に行えるものではありませんし、呼び出す事は出来ても送り出す事は・・・・・・」


勇者の表情はこの世の終わりかと思えるに相応しいとても落ち込んだものだった。

ミューステアは話に違和感を感じ勇者に問いかけた。

「勇者様はなぜみゆ様が召喚されたと?」

「あの時、いきなり俺の足元に青い魔法陣が現れてみゆに助けを求めようとしたら、みゆの方にも赤色の魔法陣が現れたんで・・・・・・」


!!!!


「今、赤色の魔方陣と言いましたか!?間違いなく赤でしたか!?」

ミューステアは天地がひっくり返ったかのような驚きぶりだ。

勇者はその驚きぶりに驚き一瞬固まった。

「勇者様、本当に赤で間違いありませんでしたか!?」

「はい、赤で間違いありませんでした」


ミューステアは恐怖に脅えた表情で膝から崩れ落ちた。

「ミューステアさん!?」

勇者はと長老はただ事ではない事を悟った。

「ミューステアさんどうしたんですか?赤の魔方陣はどういうものなんですか?」

「ミューステア、落ち着きなさい。何がどうなのかはワシには分からんが、もう事は起きておるあとじゃ。今更取り乱してもしかたあるまいて・・・」


ミューステアは涙を流しながら口を開いた。

「勇者様・・・勇者様・・・」

「ミューステアさん・・・?」

「みゆ様は・・・みゆ様は・・・」

床に涙の水たまりが出来そうなくらい泣いている。

「みゆ様は・・・魔族の誰かに転生させられました・・・・・・」


!!!!


勇者は驚きすぎて固まり言葉が出ない。

その時間わずか5秒かそこらの時間だったが、まるで数十分たったかのような感覚だった。


「えっと、その・・・・・・」

勇者も何をどう聞いていいのか分からない。


村長はミューステアを肩に手を当て

「ミューステア、勇者の大切なお方に関する事だ。落ち着いて説明してくれないか?」

「はい」


ミューステアは涙を拭って話し始めた。

「赤色の魔法陣は魔族が使う転生術の証です。つまり魔族の誰かに、みゆ様を転生させ、魔族として蘇らせたという事です」


「元には戻せるのか?」

ミューステアは俯き無言のまま首を振った。


・・・・・・。

勇者の頭の中で色々な考え思いが駆け巡っている。

頭の中で色々な可能性が出てきた事に逆に冷静になった。


「ミューステアさん。いくつか聞きたいことがあります」

「はい、私にわかる事でしたら」


「そもそも"転生"とはどう言うものなんですか?」

「転生とは別の個体から別の個体へ、魂を元よりその肉体を含む全てをエネルギー化しその全てを移し替える術です。転生させられた元の個体は跡形もなく消えてなくなります」

「それはつまり、元の存在はこの世の中から消えてなくなると言う事ですか?」

この時勇者は"元の個体"と言わずあえて"存在"と言った。

「半分正解で半分間違いです」

「肉体がなくなる訳ですから、元々の肉体を含む存在としては消えてなくなります。ただ、肉体を含むエネルギー体として別の体に移る訳ですから存在そのものが消えて無くなるわけではありません。崩していうなれば新しい入れ物(にくたい)に移り変わるだけと言うのが1番近いでしょう」

「それはつまりそれは"みゆ"なんだな?」

「えっと・・・」

「みゆなんだな!」

勇者はとても強い口調で答えを迫った。

「はい、肉体が魔族ではありますが100%みゆ様です」


『良かった・・・』


勇者は安堵の気持ちから思わずもらした言葉だった。


「良かったとは?」

「俺はみゆと結婚する約束をしたんだ。それも神様の泉で」


村長とミューステアは驚いた。

「結婚ですか!」


「俺たちは、神様の泉である儀式を行い3年以内に結婚するという約束をしたんです。。そうすると来世でも2人は再び結ばれるんです。ただし3年以内に結婚しなければ、この先永遠に2人は出会うことが出来なってしまうんです」


!!!!


今の話で、ミューステアの中にあった勇者とみゆの事が全て繋がった。

「そういう事でしたか」


????

村長は全くわかっていない。


「なら、魔族の誰かは分かりませんが、その魔族のみゆ様と結婚・・・ですね!」

「ああ!絶対にみゆと結婚するんだ」


"魔族と勇者が結婚"

そう聞こえた村長は

「そんなおかしな事があって良いんじゃろうか・・・・・・」

と戸惑いの様子を隠せないでいる。


「村長、新しい事をする時は皆、迷い、戸惑うものですよ。逆に言うならば魔族と勇者が結ばれたら世の中に真の平和が訪れるのではないでしょうか?」

「んまぁそうとも言えるがのぉ・・・・・・」

村長は、何十年、何百年と魔族に苦しめられてきた過去の歴史を知っているだけにとても複雑な表情だ。


「とりあえず希望が出てきた!」

「はい!私も全力でご助力させていただきます!」

「わしもじゃ!」

「はい、感謝します!」


「みゆーーー待ってろ!絶対迎えに行くからなーーーー!!」

窓から大きな声で叫び、勇者はやる気に、喜びに満ち溢れていた。

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