第125話 好きになると楽にはなれない
「暇」
「は? えっと、さーせん」
「ああ、ごめんごめん。そういう意味じゃなくて、なんか夏休み明けてからの学校がさ、暇っていうか、つまんないの」
「センパイ……、高校生活の最後にそれは……」
「憐みの目を向けないの。その、なんだろ、普段と全然違うのよねえ。夏の前の楽しさがないっていうか」
「一夏越えて大人になったんじゃないですか、周りが。子供のままのセンパイがついていけないって、っく、だからいきなり横腹をつつくのやめてもらえます!?」
「夏休み前と言えばさ、夏休み何してた? って話になるとさ、受験勉強してたとか、就活してたとかさ、そんなんばっかでさ。あれ、高校生活の最後の夏休みってそういうのなの?って。私のイメージしてたのと違うっていうか」
「んー、まあセンパイは推薦取れてるし、表向き品行方正だし、その辺余裕だろうから周りとは全然違うんじゃないですか?」
「表向きってどういう意味?」
「そのままっすよ。いい子。いい子そう。勉強もできるし運動もできるし、誰ともあんま敵作らない。見た目はちょっちアレっすけど悪い事してない所とか」
「キミの言う悪い事は、まあ何となくわかるけど。私、そんな感じに見えるの?」
「俺、夏休みは大体センパイと遊んでたって言ったら、『そういう意味』の遊んでたって思われたっすよ」
「私の生き方の何が悪いの……」
「まあ、高校3年生18歳で美人で彼氏ぐらい居ても当たり前だろって人が『夏休みずっと付き合ってもない後輩』と『遊んでる』って時点で仕方ないっすよね」
「……? あ、美人って褒めてくれてありがとう。いえ、私が誰と遊ぼうが関係ないよね?」
「その遊びの内容が『お前ん家でマリカーしような』レベルだからっすかね。ちゃんと否定はしてますよ。でも、だから余計になんすかね」
「なるほど。『受験勉強しなくていい』『後輩と普段マリカーしてる』まあここぐらいは事実かもしれないけど『普段後輩と健全に遊んでるのを言い訳に』『誰かと性的な意味で遊んでる』と?」
「いや受験やら就活やらがあれば、余裕がないだけかもしれないっすけどね、3年生は。でもまあ……」
「よし、2年生で私をそういう目で見た奴殴る。主にキミが」
「1年生はいいんすか」
「あと半年もしないうちに関わりないしねえ」
「殴り尽くしてるんで、蹴りでいいっすか?」
「ん? え?」
「俺も知り合いから『夏休みどうだった』って話はふられますよ。で、事実『センパイと遊んでた』じゃないっすか。そのまま伝えたら。その、『そういう関係なのか』とか『ヤったのか』とか。そんな風に言われて。否定したら『センパイはそういう人なんだ』とか言われたら『まあ、察してください』」
「……相手生きてる?」
「そのぐらいは手を抜きますよ。男としての機能は殺したろうか思った時はありましたけど、まあ大丈夫ですよ、多分」
「あの、ごめんね?」
「は?」
「いきなり怖い顔しないで。いやだって、その、嫌な思いさせたでしょ」
「ああ、そうっすね。センパイの事、そういう風にしか見てないの、マジでうぜえ」
「そうじゃなくて! だって、私もさ、そう思われても仕方ない部分って多分あるし、だから……」
「関係あります? 勝手にそう思われるの、しんどいっすよ。だから俺は――」
「違う、違うの! そうじゃなくて、なんていうか、どうしようもないけど」
好き。
だから、私はきっと辛い思いをする。
けど、この辛いとか苦しいとか、そういう気持ちはむしろ心地が良い。
私は、愛されてるのだと思えるから。
「ずっとなんて言わないけど、せめて私が高校卒業するまでは笑っていよ?」
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