第123話 残暑、線香花火の香り

「俺たちの夏休みはこれからだ……。これからのはずなのになぜ庭で花火をしているのだろうか。花火の匂いと秋の匂いを嗅ぐとセンチメンタルな気持ちになってしまう」


「もう今週で終わりだからね? 旧暦的には秋だしね? 現実逃避しないで?」


「センパイはむしろなんでそんな普通なんすか。高校最後の夏っすよ」


「知ってるかね。大学のほうが夏季休暇は長いのだよ」


「高額な授業料払ってるのになんてことを」


「きっと来年も同じ感じの夏になるだろうしね」


「もう何度も言いすぎててなんですけど、高校卒業しても後輩に絡む以外の生き方を考えようとしてください。俺だって来年は受験っすからね。今年のように過ごせると思わないでください」


「それはもちろん。だって受験失敗されたら同じ大学に行けないじゃん」


「……俺の第一志望まだ覚えてたんすね」


「ちなみに心変わりは?」


「今のところないっすよ。そんな急に進路変えようと思うほど、劇的な事は起きてないっす」


「いやこの夏色々あったと思うんだけど……?」


「んー? センパイと何かしら遊んでた記憶しかないっすね」


「そっかー。うーん、まあそれはそれでいいけど、でもなあ」


「歯切れの悪い。俺の人生が穏便に運んでいる事に何の不満があるんすか」


「一緒に遊んだって言っても、箱根旅行したでしょー、夏祭りにも行ったでしょー。キミの言い方だと、普段の放課後とかのレベルみたいじゃん」


「ああー、そうすねえ。けど進路を変えるって意味だと、むしろこのままじゃないとって感じです」


「ンッッ! それならいいんだけど!?」


「あ、落ちた」


「ちょっと不吉なんだけど!!」


「何がっすか。線香花火の話っすよ」


「まあ、そうだね? 見ればわかるよ? でも受験やら進路の話でその単語使う?」


「センパイってそういうの気にする人でしたっけ」


「私個人としては気にしないけれどさ。いやでも流れ的にさー」


「大丈夫……の根拠はないけど、なんとかします。線香花火のように、一瞬ぱっと輝くだけの人生を送るつもりはないっすから」


「ほう。その心は?」


「線香花火って好きなんすけど、ああ終わった……、って気持ちになるのが好きだったんすよ。でも今年はなんでか、もっと続けばいいのにって」


「ほうほう。続けて?」


「おいわかってんだろ。やめろ恥ずかしい」


「つまり、私と来年もこれからもずっと一緒に居たいという意味でよろしいかね?」


「あー、数秒前に戻りてえー。完全に失言じゃねーかあー! 恥ずかしいわ!!」


「そうやってちょっとずつ後悔を重ねて成長するものなのだよ少年」


「セーブアンドロードで効率よく攻略したいプレイヤー対オートセーブで意地でも周回させる製作者の図ですね」


「例えがへたくそか! 全然意味わからない!」


「そうっすね。生きるって難しいですね」


「え、そんな壮大な話だったっけ」


「そりゃあ壮大っすよ。俺とセンパイの来年と、そのまた先の話ですから」

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