第117話 お泊りって楽しいよね

「うちのテレビ、小さくてごめんね?」


「いや、一般家庭的に大きなテレビって今時必要ないと思ってるんで、大丈夫。大丈夫じゃないの、この状況ね?」


「んー、何が?」


「センパイん家のリビングで! センパイ膝乗っけて! なんか適当に映画見てる事っすよ!!」


「? いつも通りじゃない?」


「いやそれ俺の家、で一応シアタールーム。二人きり。でもこれ、めっちゃ視られてる。ていうかお父さん? なんでずっとニコニコして俺らの事見つめてるの? そこ普通娘はやらん的なところじゃない?」


「あ、そっか。ごめんごめん。娘が幸せそうにしている姿見ているとつい。お邪魔らしいんで、また明日ね」


「えー、止める立場のお父さんめっちゃ笑顔で退場したけど?」


「よし、邪魔はいなくなった。いつも通り、ぎゅってしてちゅってして」


「おいこら。普段そういう事しているように言わないで?」


「……しないの?」


「ぎゅっ、はするけど。ちゅっ、はちょっと。流石に、ちょっと」


「まあいいけど。ぎゅっしてしててね。つまんないテレビのバラエティ見てようよ」


「つまらないって言わないで? ならもっと、こう、楽しい事しよう?」


「じゃあ、トランプしようか。二人ババ抜き」


「それ、楽しいんす?」


「どこにババを置くか。そういう心理戦。ちなみにトークで煽るのが推奨」


「まあ、いいですけど」




「そろそろ止めます?」


「え、なんで勝てないの? え、なんで?」


「あ、駆け引きとか以前に運がいいほうなんで。そういうの適当にやって適当に勝てるんで」


「罰ゲーム」


「は? いや俺勝ったでしょ」


「リアル運、不公平。だから負けて辛いって思った私の心、癒して」


「……具体的には」


「てへ、うちそんな部屋広くないから一緒に寝て? でないとリビングのソファーしかないんだ」


「あ、じゃあ帰ります。今から軽く走ってもギリ横浜駅につけるし、そのまま終電使えるんで」


「違う! 違うの! そういうのじゃなくて! 普通に諦めて私と一緒に寝よ? 別に抱いてとか、そういうのじゃないから! 箱根とは違うから!」


「本当に?」


「……ホントウデスヨ?」


「俺が絶対に、一時期の過ちでセンパイを傷つけないってわかってて、そうやって誘うんですか?」


「……一時期の迷いとか、そういうの、いや。普通に。普通でいいじゃん」


「自分で言うのもなんですが、俺は面倒な人間です。普通とか、正直わからないです。でも……そうっすね、センパイは好きっす。けど、好きってのが本当の――」


「めんどくせー。うっせー。ちゅーさせろー、ちゅーだけでいいからー、ぎゅってしてちゅーさせろー!」


「あ、ちょ、んっっ!? ちょっ、んんッ!!」


「キミ、今日一緒に寝る、いい? ちゅー以外しないから、いい?」


「……はい、すんません」


「謝らない! 私の我侭だから!」


「はい、ありがとうございます……?」


「よし、じゃあずっとちゅーしながら一緒に寝ましょうねー」

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