第116話 パパとの遭遇

「あの、俺……自分、欅颯って言います。その、はじめまして」


「うん、知ってるよ。娘からよく話を聞いている。とても仲良くしてくれているそうで」


 え、何これ。

 昨日急にセンパイから「明日暇だから、久しぶりにうちおいでー」って言われて、何も考えず土産持って行ったら、先輩の父親が居た。

「明日、センパイのお父さんが暇だから」ってそういう意味か?

 

「君はお酒好きかい? 久しぶりの休暇でね、ワインかウイスキーを空けようと思うのだけど、どちらがいい?」


「いや俺、未成年っすけど。ていうか、貴方の娘さんより年下なんすけど」


「好き? 嫌い?」


「……、洋酒はちょっと」


「では日本酒にしようか。ちょうど越乃寒梅の大吟醸を譲ってもらってね」


 うん、それ普通お金を出しても買えない奴。

 産地の酒屋とか生産者とツテがないと入手困難の奴。


「冷がいい? 熱燗にする?」


「待ってください、俺、未成年って言いましたよね。飲酒ダメ、絶対」


「気にしない気にしない」


「気にして? 酒臭い高校生とか普通にやばいから」


「泊まって行くんだよね? 大丈夫」


「ちょっと、え? 俺泊まる気なんて――」


「え? 桜から今日君が泊まりに来るって聞いてたんだけど」


「外堀埋められてるー」




「でだよ、颯君。うちの娘はねー。可愛いんだよー、超可愛い」


「はあ、でしょうねえ」


「そんな、もう可愛くて可愛くて仕方ない桜が誰ともさ、そういう恋愛的な話しないっておかしくない!?」


「え、いや。まあ、人によるのでは」


「俺からすればねー、過去に悪い男に騙されてさー、トラウマ? な事があったんじゃないかって思うわけだよ。わかる? 颯君も娘ができればわかるよ?」


「誰かー。誰かこの酔っ払いから俺を助けてー」


 俺は酒は……自分のペースで飲む事を条件にセンパイのお父さんとサシ飲みをはじめた。

 驚くほど、センパイのお父さんは酒に弱かった。

 おちょこ一杯で顔が真っ赤。

 爽やかながらも威厳ある風格がもうどこにもなかった。


「ほんと、桜を頼んだよ。この2年……はまだ言いすぎか。でも最近の桜は本当に楽しそうで、親としては幸せなんだよ」


「……だから、箱根旅行も色々していただいたのですか?」


「いや。でもそうだね、施された側から見ると、そうなるか。でもね、純粋に『自分の娘が大切な友人と旅行に行く』事を産まれて初めて話してくれたのを見て、少しでも楽しい思い出を作らせて上げたいと思う気持ちは、親としてはきっと、普通だよ」


「それでも、ありがとうございます。楽しかったです。きっと、俺の中で一番楽しい夏休みの思い出になりました」


「君のような息子が出来て私も幸せだよ」


「おいちょっと待て!」


「だって、男女二人が同じ部屋で……。え? まさか?」


「もう何をどう言えばわからないんすけど。俺とセンパイは出会った時のままの関係です。仲のいい先輩と後輩、ただそれだけです」


「パパとしては、もっと積極的になって欲しいな? 孫は三人欲しい。死ぬまでに曾孫が見たい」


「誰かー、誰かこの酔っ払いどうにかしてー」

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