第112話 親友に彼女ができていた

「報告がある」


「おう、こんなクソ暑い中いきなり呼び出して」


「詫びに奢っただろ?」


「これ、何?」


「コーヒーだが、コーヒー以外に見えるか?」


「見えるな。何故ホイップクリームがこんな大量に乗っている。あとなんかチョコクッキーみたいのが混ざってないか?」


「颯は甘いもの好きだろ?」


「まあ、うん。で、これは何? 注文した時、なんか呪文唱えてなかった?」


「……もしかしてスタバ来た事ない?」


「チェーン店はコメダ珈琲派だ。そもそもこういう店は来ない」


「あー、確かにどっか店入るかってなると、いつも颯に連れられてお洒落な喫茶店だったな」


「どうもこういう店は落ち着かないんだよなあ。つか普通に五月蝿い」


「そうか? ファストフードとかファミレスよりマシだろ」


「一緒にしないで。いや一緒なのか?」


「まあ、別にこのまま持ち帰りも出来るし、嫌なら外出るか?」


「アホか、なんでクソ暑いのに店出るんだよ。いいから報告とやらを。バスケ部絡みか?」


「彼女ができました」


「…………おう。おめでと」


「意外と淡白な反応。まあありがとう」


「そっか……夏は人を変えるのか……。オンナコワイ言ってた純がついに観念したか」


「あんま夏は関係ないと思うけど」


「じゃ、お幸せに」


「待って? コーヒー持って外に出ようとしないで?」


「え、だって話し終わりだろ? てか電話とかでもよかったじゃん」


「普通掘り下げない? 一応俺達親友だよな? え、親友だよな!?」


「なんなの、単に幸せ風自慢がしたいだけなわけ?」


「それただの自慢だよな。まあ、うん、ちょっとぐらい惚気させろよー。お前ぐらいしか相手いないんだよー」


「色んな意味で、彼女出来てよかったな。お前上っ面はいいし人気はあるけど、結構人に心開かないもんな」


「そりゃね。つい最近なんてほぼ殺人未遂事件に巻き込まれたわけだしな!」


「おう、すまん。そういうつもりじゃ」


「いいっていいって。おかげで彼女ができたんすよー、でへへ」


「……うわ、キモッ」


「なんでいきなり罵倒!?」


「あ、いや普段爽やかフェイスがデレデレ顔になってて、うわあ……って引いただけ」


「引くな! まあ、それぐらい、こう運命的な出会いをしたんすよ」


「そっか、怪我の功名って奴だな。よかったじゃん」


「お前ほんと、俺に対して興味ちょっとでもある? 普通どんな相手とか、どうやって出会ったとか聞かない?」


「ごめんあんま恋バナ的なものの経験がなくて、なんか純が幸せそうでよかったな、ぐらいしか」


「んんー、逆に純粋に祝福されてる! まあ、聞いてくれ。もう俺が話したくして仕方ない事を嬉し恥かしくもベラベラしゃべるから」


「オッケー。その間にスマホゲーのスタミナ消費しとく」


「おい」


「冗談。んで、入院中に出会ったって感じなの?」


「いんや、入院自体は関係ない。退院した頃にはバスケ部がインハイ出場を辞退してて、暇すぎていつものストバスん所に行ってた。そこで大学生の女性と意気投合して、一週間ぐらいで付き合う事になった」


「風が吹けば桶屋が儲かるみたいな、全然入院関係ないな」


「インハイ出てたらずっと部活だったし、それこそ怪我の功名だよ」


「つかインハイないからってストバスしに行く当たり、ほんとバスケ好きだよな」


「今では彼女のほうが好きだがな!」


「さようか。一応聞くけど、どんな心境の変化?」


「変化っていうか、俺って学校だとなんかこう、上に見られているっていうか、同じ高校の生徒なのに憧れられてる感あるでしょ。……自意識過剰かな?」


「いや正しく自分を理解していると思っていい」


「だから、そういうんじゃなくて、単なる高校生とかただの年下の男って扱ってもらえて、やっと同じ立場で女性と向き合えた気がしたんだ」


「意外と重いなあ。けどあのコート、女性も少なくなかったでしょ」


「んだけど、結局俺の顔とかでこう、色目? みたいなのを使われる」


「モテる奴の苦悩。それが嫌だけど、モテなければ女性と接点ができないジレンマ」


「まあ、彼女とはたまたまお互い暇してたから1on1して、ちょっと仲良くなって一緒にチーム組んだり、相手したりってしているうちに仲良くなってさ」


「うんうん」


「言いたいことずばっと言ってくるし、けど傷つける事は絶対してこないし、俺を特別に見てないし。まるで女性版颯みたいな人でさ」


「……ん?」


「つい告白してしまった」


「お前、絶対色々端折ってそのオチだけ話したかっただけだろ」


「ちょっと普通に恥かしくなってきたんで。まあ、性格というか言動は颯に近い人だよ。惹かれる所は他にも沢山あるけど」


「まあ、なんにしてもよかったよかった」


「颯が年上の女性にベッタリになる理由、ちょっとわかったよ」


「うん、だから話のオチに俺を関わらせないで?」


「色眼鏡でなくて、ちゃんと自分を見てもらえるって気持ち、わかるでしょ?」


「……まあ」


「その上で、自分自身を特別に見てもらえるって、嬉しいよね」


「……まあ」


「そういうこと」


「クソ甘いはずのコーヒーが苦い」

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