第111話 遠距離、なんちゃって

『ぐへへ、今日はどんな格好してるのかな?』


『甚平。暑いんで』


『え、ほんと!? やっぱ遊びに行っていい!?』


『いや暑いからお互い外出するの嫌だよねって話どこ行った?』


『次、遊びに行った時絶対にその格好ね? いいね?』


『いやっすけど。寝巻きみたいなもんすよ』


『ぐへへ、だからいいんじゃないか』


『箱根の時の浴衣と――』


『旅行は旅行。今は今』


『うっす』


『オッケーハヤテ、暇だから面白い話』


『ハヤテ、アレクサ』


『アレクサ。暇だから面白い話』


『ねえ知ってる? 自称華の女子高生が最後の夏休み、暇すぎて後輩に絡んでるって噂知ってる。うけるー。華がなさすぎー』


『オッケーアレクサ。やめて、地味に傷つく』


『まあ推薦がなければ必死で受験勉強しているでしょうし、そんな中でも時間を見つけて青春をって人が多い時期ですからね。暑いからって家でぐうたらしてるだけの人にはその貴重な経験は得られないという』


『アレクサ、黙って』


『じゃ、お疲れっす』


『待て待て待って、通話は切らないで』


『オッケーセンパイ、結局何がしたいんすか』


『キミと話がしたい』


『いつもしてるでしょ』


『いつもしてるから、だよ。暑いとか、学校が休みとか。そんな理由でキミと話せないのが、イヤ』


『オッケーセンパイ。俺は一人でも有意義な時間を過ごせるんで、このまま通話続けたければ面白い話をお願い』


『オッケーハヤテ。タイトルは「警察犬」』


「……」


 そのまま通話を切ってスマホを投げ飛ばした。

 スマホがすぐ振動するが、無視。




「オッケー、ハヤテ。謝罪にキスを所望する」


「……は?」


「通話を切るのは、まあ私もからかい過ぎたかなって思うよ? そのまま出ないってあり? ないよね? 普通ないよね?」


「いや、えっと、なんで俺の部屋にセンパイがいるのかのほうがないかなあって」


「……? 鍵があるし」


「ああー、そっかー。そうだけど、そうじゃなくて」


「通話出てくれなかったから、キミの部屋に乗り込んだ、以上。なにか?」


「オッケーセンパイ。通話出るから、いいから帰って」


「……」


 センパイは目の前でスマホを弄り、耳に当てた。

 すると投げ捨てたままの俺のスマホが振動した。

 スマホを拾い通話に出ると、センパイはそのまま俺の唇を奪った。


『オッケーハヤテ。許す』


『抱きしめてもいいですか?』


『ダメ』


『オッケーセンパイ、センパイを抱きしめる方法』


『キスして。そのままぎゅっとすれば余裕』


『……ちょろい』


『ヘイ、ハヤテ。生意気な後輩を黙らせる方法』


『……』


 通話中のまま、文字を打って先輩に返す。


「唇奪えばいいのではないでしょうか」


『本気?』


『物理的には黙らせるので』


『いいの?』


『まあ、ダメ寄りのダメですけど』


『ヘイ、ハヤテ。後輩とキスする方法』


「後輩の恋人を作ればいいのではないでしょうか。目の前の生意気な後輩を無視して」


『ヘイ、ハヤテ。目の前の生意気な後輩と――面倒だわ!』


『面倒なのは俺のほうっすわ』


 通話を切り、手にしているスマホを投げ捨てる。

 そしてセンパイのスマホを奪い、そのまま壊さないようベッドに投げた。


「んっ……」


「お返しです。キスされたら、キスで返すのが……なんとか法的な」


「ハムラビ法典を驚きの解釈だけど、けど、うん。じゃあ、私もやりかえさないと」


「それ、無限に続きますよね」


「いいんじゃない? したい事されたい事、お互いずっと繰り返して飽きるまで続けられるの、幸せって感じしない?」


「飽きるまで……すか」


「ま、私は飽きないから無限に続けちゃうぞ」

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