第110話 思い出
「楽しかったね」
「楽しかったっす」
「また来よう? 箱根じゃなくて他のところでもいいし、また旅行しようね?」
「ええ、是非」
「……旅行は家につくまでが旅行だってよく言うよね」
「遠足は、のノリでしょうけどよくは言いませんね」
「私としては、まだ旅行気分。だから、その、最後に」
「『この箱根旅行として最後』って意味なら」
センパイの頬を片手を添え、もう片方の手で抱きしめる。
そしてセンパイの柔らかい唇に自身の唇を添えた。
「多分、キミと今後も色んな思い出を作っていくと思うけど、それでもこの旅行の事、一生忘れないから」
「忘れようがないですからね。……、その、俺からもいいっす?」
「ん? いいよ、どうした?」
「センパイ、好きっす」
「ンッッッ!! 私もだし!」
「てなことが、昨日までの私たちの距離感だったじゃん」
「ええ、そうですね」
「……なんでちょっと今日は距離感あるの?」
「えっと、多分、危機感」
「どうして!?」
「いやまさか昨日の今日でいきなりうちに映画を見に来るとは思ってなかった……、いやまあ夏休みで暇ならまあいいか。逆にセンパイが普段より俺に近いから、まだ旅行気分抜けてないなって」
「そう、かな。一応旅行気分を引きずらないようにしているんだけど」
「服、夏だから仕方ないんでしょうけど、ブラウスを第二ボタンまで開けるな」
「そこ!? いいじゃんそれぐらい」
「うちに来る前まではきっちりガードしてきたし、このクソ暑い中カーディガンまで羽織ってたのに? うちに来た瞬間脱いでボタンまで空けて? 無防備すぎというか、うちはセンパイの家か!」
「むしろ自分の家より居心地がいい」
「あと、センパイの射程がわかりました」
「なんの!?」
「腕にしがみ付いてくる距離とか、抱きついてくる距離とか、唇を奪ってくる距離とか。今日のセンパイ、意図的なのか無意識かわからんすけど、その射程にいつも居ようとする」
「……旅行は旅行だし? 忘れよ?」
「ほんと、旅行は旅行なんで。節度は、ほんと守ってください。俺達の関係は?」
「『箱根旅行で同じ部屋で一緒の布団で寝る仲』」
「旅行は旅行だし? 忘れて?」
「冗談。忘れないけど、そういう事しないから。私とキミは『とっても中のいい先輩後輩』」
「だから距離を――」
「絶対とは言えないけど、旅行の時みたいに頻繁にはしないから。でもなんだろ、そうできるぐらいキミの近くには居させて?」
「1日2回以上お手つきをしたら、その分離れてもらいますから」
「ん、了解。じゃあ――」
「……1回目」
「『頬ちゅっ』はいつもしてるからノーカンでーす」
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