第113話 夏祭り

「ごめん、待った?」


「今更ですけど、待ち合わせ時間前に来ておいて、そういうの止めません? むしろ時間ぴったりにお互い来るの滅茶苦茶難しいですよ」


「あ、はい。ごめんなさい」


「次そういうの言ったら……ふふ」


「ちょっと、え? 何その含みのある笑い? え、怖っ!」




「祭りってさ、だるいよね」


「じゃあ帰ります? 俺もだるいんですよね。何この人混み? こう、もし漫画やアニメやゲームみたいにビーム砲的なものが撃てたら消し炭にしたいっすね」


「わかるよ? いえ表現は全然わからないけど、人混みが嫌なのはわかるよ?」


「けど人気がない夏祭りの露店ってのも風情がないっすよね」


「そうねえ。ドラマとかだと、混んでるけど前に進んだり店に寄る分には問題ないじゃない? ……身動き取れないほど混むのは、きついよ」


「ん」


「ん?」


「腕、掴んでください。はぐれたら、嫌なんで」


「……素直じゃん」


「俺から誘わなくても普段しがみ付くくせに、手も握らないし腕も組まないし。なんなんすか?」


「ここ結構学校から近いじゃん。誰かに見られたら、キミが困るかなって」


「何度も言わせないでください。センパイとはぐれるのが嫌です。誰に見られても、それでああだこうだ言われても、センパイと離れ離れの夏祭りになるより、全然いいっす」


「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて」


「もう、変なところで遠慮なんてしないでください。面倒くさい」


「……いいの、女は面倒くさいの」


「まあ、言うほどセンパイは面倒くさくはないっすけどね。遠慮されるのは、面倒というか、なんていうかちょっと辛いだけっす」


「そっか、うん。ありがと」


「どういたしまして? 感謝されるような話してましたっけ」


「リンゴ飴食べたい」


「んー、急に話が逸れた。えっと、多分この辺にあったはず……。あ、だめだ、身動き取れないしこのまま流されてる」


「この強制歩行エスカレータの行き先はどこ!?」




「疲れた」


「同じく」


「人混みに流されて、結局どこにも辿りつけないとか、笑うしかないね」


「けど、神社の奥のほうで抜け出せてよかったっすね。適当に歩いてたら人気のない、休憩にはいい感じのところに出られました」


「リンゴ飴もわた飴も焼きそばもたこ焼きもフランクフルトも買えなかったけどね」


「食いしん坊か」


「ごめんごめん、夏祭りって普段できない買い食いを堂々とできるってイメージがね」


「買ってきましょうか? 二人で動くと大変ですけど、俺だけなら動き安いんで」


「や。一緒がいい」


「ん。そっすか」


「そ。一緒がいいの」


「……遅いかもですけど、浴衣、似合ってますよ」


「キミもね。甚平も見たかったけど、浴衣も似合ってる」


「撫でていいっすか?」


「胸? 太もも? それとも」


「頬です」


「や」


「……、すんません」


「頭ならいい。あと唇」


「あざっす」


「好き。……キミに撫でられるの」


「俺も好きですよ。……センパイを撫でるの」


「好き」


「はい、好きです」


「……んー」


「あ、花火! ここから見るとこんなに綺麗に見れるんすね!」


「そうね。うん、そうね! たーまやー!!」

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