第107話 暖かいお布団

「いやあ、美味しかったね! お刺身にお肉に贅沢三昧って感じ!」


「うん、そうっすね。山菜の天ぷらも新鮮で美味しかったです」


「ところでキミ、何してるの?」


「……こんな広い部屋なのに、なんで布団がなんで横並びなのかあって」


「こらこら、折角敷いてもらったのに勝手に離さない」


「常識的になりましょ? 雰囲気に酔ってるとかは置いておいて、そもそも男女が同じ部屋なのがおかしいでしょ? んで、布団までこんな近くてどうすんの?」


「どうって、寝るだけでしょ」


「何度も言いますけど、俺は男ですよ」


「知ってる。でも信頼もしてる。雰囲気とかその場の勢いに流されるような子じゃないって」


「じゃあ俺が明確な意思を持って、先輩を襲おうとしたら?」


「ご飯の時も言ったよね。いつでもおいでって」


「貞操観念とは」


「既成事実と言って欲しいね。私を抱いたからには一生大事にしてもらうから」


「センパイって、そのままずっと男と無縁のまま歳取って、いざ男が欲しいって思った頃にはどうしようもない人生になりそうですね」


「うん、凄い失礼な事言うね。私、怒っちゃうぞ?」


「全然怒ってるようには見えませんが」


「ふふふ、私は優しく怒るタイプなのだよ。てことで、その怒りをぶつけるべく、今日はキミと同じ布団で寝ます」


「あ、布団元の位置に戻しました。実質同じ布団なんで、離れてくださいね?」


「や」


「まあ良いですけど。センパイもセンパイで十分ヘタレだし」


「ほう、この状況で挑発すると」


「キスまでですからね。それ以上は絶対何もしませんから」


「ぎゅってしてくれないの?」


「……しますけど」


「ねえ、このタイミングで私がキミに『好き』って言ったらどう思う? 同じ布団で寝てぎゅってしたりキスしたりするわけじゃん。もう、そういうことだよね」


「雰囲気に酔ってますね。と返します」


「だよねー」


「んじゃ、寝るにはまだ早いし映画でも見ます? wi-fiあるってわかってたんでタブレット持ってきました」


「いいね、何見る?」


「若おかみは小学生」


「実質ダークナイト……!」




「んで、センパイ。こっち来ないんですか?」


「やっぱいざってなると緊張する……!」


「やーいへタレー」


「って、こら、キミのほうから来るな! 心の準備が!!」


「映画……だけじゃないっすけど、面白い作品って、良くも悪くも心に響くんですよね」


「急にどうしたの? この状況と――、キミはほんと感受性が高いね」


「寂しいとか悲しいとかじゃないんすけど、なんかこう――」


「おいで。ぎゅってして」


「間違えたくないけど、間違えるのを恐れてたら勝手に間違う事もあって。だから」


「ああ、もう! せっかくの旅行にしんみりムード持ち出さない! 見た映画間違えたでしょ。頭撫でてあげるから。あと私の胸、貸そうか?」


「あ、それはいいっす。その、浴衣越しは俺も勇気が」


「キミも十分ヘタレじゃんか。じゃあ変わりにキス」


「んっ……」


「どう? しんみりした気持ちなくなった」


「はい、ありがとうございます。……普通にドキドキしてきました」


「雰囲気戻ってきたね。でね、だからこそ言わせて欲しいことがあるの――」




『好きだよ』




「雰囲気に酔ってますね」


「でしょー?」


「じゃあ俺も――」




『好きです』




「雰囲気に酔ってるねえ」


「でしょ? 旅行って、楽しいですね」


「またお休みの時はどこか行こう? 少なくても卒業旅行は絶対に行こうね」


「センパイのと俺のとで2回はありますね。俺もできれば飛行機克服します」


「今もすっごい楽しいけど、これからも楽しみ」


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