第105話 着・箱根
箱根山の道路工事やら、事故やらでバスが目的の双子茶屋が付く頃には14時をすぎていた。
途中で小涌谷に到着したが、バスの乗客の大半がそこで降りたので、ここでゆっくりと観光できないとお互いに判断し、そのままホテルに向かったのだ。
「わあ……。霧が凄い」
「昨日雨だったらしいっすね。数メートル先が見えないっす。センパイ、一応ちゃんと腕にしがみ付いて置いてくださいよ」
芦ノ湖に近いので、視界さえよければどこか適当な場所でも湖を拝められただろうけれど、そもそも目の前すら怪しい。
センパイから教えてもらったホテル名をスマホのマップで探しつつ、時々走る車を避けつつ道を進む。
歩いて数分らしいが、視界の悪さと、どこをどう行けばいいかわからない不安で、結局ホテルにつくまで10分程度かかってしまった。
ホテルに無事着いたが、チェックインの15時には少し早かった。
受付だけ先に済ませて、ラウンジで待たせてもらおうかと思ったのだが、もう部屋に入っても問題ないそうで。
こんな視界だし、時間も時間なので俺とセンパイは今回泊まる部屋に案内された。
「ねえセンパイ、怒らないから素直に答えてくださいね?」
「ねえ後輩君。もう既に怒ってるよね!?」
「なんで! 部屋が! 一つなんすか!!」
「四人部屋しかないし、あとここ凄い人気で予約も結構大変なんだよ。だから、かな」
「せめて、せめて洋室なら……!!」
思いっきり和室。
このホテルは和室と洋室両方あるらしいが、なんで和室。
ああー、もうー、ああー。
「先に浴衣に着替えるね。覗いてもいいけど、できれば止めてね」
「ちょっとホテル内散策してきます」
ラウンジやレストラン、まだ入れないけど温泉、あと売店と色々見て回った。
売店や自動販売機で売られているものはコンビニで買うよりはちょっと高いけど、比較的良心的だった。
コンビニに行くのには徒歩何十分、しかもあの霧の中を歩くとなるともう少し高く設定されても文句は言えないと思うが、実に良心的だ。
……あと普通に自動販売機でお酒が買えるのって、なんか新鮮。
センパイから着替え終わったと連絡があり、部屋に戻る。
俺も浴衣に着替えようとするが……。
「あっち行け!」
「ええ、いいじゃん、減るものでもないし」
「……温泉に入る時に着替えます」
「ごめんごめん、私もホテルの中見回ってくるからさ」
二人して浴衣に着替え、居間でゆっくりとお茶を啜っていた。
……相変わらずセンパイは俺の隣にいて、腕にしがみついてるけど。
「なんか、いいよね」
「何がですか?」
「二人っきり。今の私たちって、本当の意味で二人っきりだと思わない? 学校で誰かに隠れるように屋上で会ってるのとは違う、なんか、凄く幸せな気分」
「ノーコメント」
センパイの浴衣姿がいつにもまして無防備で、目のやり場も、腕への感触も全然違うから、ちょっと頭ん中混乱している。
「キスしていい?」
「嫌つっても、するくせに」
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