第103話 理解できない
「センパイ、俺は暴力は得意です。……あんま誇れないですけど、その気になればある程度はそれでなんとかできる、と思ってます」
「うん」
「でもそれっていつも遅くて。純みたいに、理不尽な思いをした人に対して、ただ報復するだけしかできないっす」
「うん」
「俺……全然ダメダメっすよね」
「ううん。そんな事ない。今回の事、もし誰も気づかない、無視してたら、次も同じことがあるかもしれない。また同じ目に、いえもっと大量のアレルゲンを知らずに摂取したらバスケ部エース君、命落としてたかもよ」
「純は、人に恨まれるような奴じゃない。でも今回は前に俺が絡んだから……」
「ネガティブ禁止。ほれ、おいで」
「……慰められるの、今はだめなのに。センパイに抱きしめられると、ほっとします」
「今回の件、私は素直に怒っていい事だと思う。一歩間違えれば命に関わってた。あんな軽い気持ちで相手の命を落とすほど苦しむような事をヘラヘラとするやつは、もっと痛い目を見るべきだと思うよ」
「そこは曲げるつもりは無いです。でも、俺は結局後になって暴力で――」
「まどろっこしい。素直な思いを述べよ」
「怖かったんす。純が死んじゃうんじゃって思ったとき、凄く怖かったっす。あとどうしようもなく怒りが沸きました。……俺、こんな情緒不安定で、怒り任せで相手に暴力振るうほどやばい人間で……」
「キミが何に怯えているか、なんとなーくわかるけど。いいんじゃない? 少なくてもキミが報復をしていた時、あの場にはバスケ部の人がいて、でも誰も止めなかった。想いはいくらでもあるかもしれない。バスケ部エース君がいないから試合に負けるっていう考えとか、普通にアレルギーで人を殺そうとする奴に怒りを覚えるとか。でも誰もキミを責めてない」
「甘え、じゃないっすか」
「なら甘えておけばいいんじゃない? キミはキミの親友が傷つけられて怒った。誰もそれが悪い事だと思ってない。やりすぎかもしれなかったけど、でも誰も咎めてない。いいじゃん。それって極端な話、キミがやったことは間違ってないって事だと、私は思う。……私も、キミが間違ってるなんて思ってないし」
「……」
「こら、急に抱きしめる力強くしない。私、これでもか弱い女の子だし」
「……純、生きててよかったあ。もうさ、純が一歩間違えたら死んじゃうような事するやつら、殺してもいいって思うぐらい頭に来てて。でも、後悔もあって。それでも、やっぱ純が生きてて良かったって、ほんと、ほんと」
「好きなだけ泣いて? 私は抱きしめて頭撫でてあげるぐらいしか出来ないけど。……ちょっとバスケ部エース君に嫉妬しちゃうなあ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます