第100話 特別な
「正座」
「イヤっす。どうせ海の家の事でしょ。俺は悪くない」
「……せ・い・ざ!」
「じゃあせめてあと一歩下がってください。アングル的に」
「…………。あぐらでもいい、座って」
「いやどっちも変わらない――」
「座れ!」
「あ、はい」
「よろしい、よいしょっと」
「ああ、そういう。膝に座りたいならそう言えばいいのに」
「キミ、最近こういう事する時結構余裕だよね、ムカツク」
「言ったと思うんですけど、俺としては役得なんすよ。センパイとこうやって密着できるの、俺は好きだし」
「ンッッッ!! まあ?『とても親しい先輩後輩』だしね? 私も好きだけど!?」
「んで、いきなりうちに押しかけて何の用です? 箱根の話はもうあらかた決まりましたよね。暇つぶしなら久しぶりに一緒に映画見ます?」
「……私思うの。『とても親しい先輩後輩』はこんな『膝ぎゅ』とか『お泊りデート』ぐらいで済まされないって」
「当たり前の様に泊まる気かよ。まあ、いいですけど。で、一応聞いておきますけど、何が目的だ」
「ちゃんと『親しい先輩』として扱って」
「……? いやそれはいつも――」
「キミは最初、付き合ってるなんて噂否定しろって躍起になってたでしょ。あの時のキミと今のキミ。私の事同じ目で見てる?」
「違います。あの時は、ちょっと面倒くさいけどいいセンパイだなあぐらいしか思ってませんでしたけど。今は、あの時よりは、特別な人だと思ってます」
「だったら、示して。キミにとって特別だって」
「何をしたらいいですか? 『頬ちゅっ』は……わりとしてる気もするので、『シュレディンガー?』『ラプラス?』」
「ただのキスがいい」
「…………」
「キミのその真剣に悩んでるの、私好きだよ。でも、本気だからね」
「センパイ、膝から降りてください。んで、こっち向いてください」
「ん、わかった」
「いいんすか。俺たち『付き合ってない』んすよ」
「知ってる。ただ『とても親しい先輩後輩』だね」
「でも、しますよ」
「ぶっちゃけ、なんだかんだ理由つけてキスしてるけどね」
「これはそういうのなしで、本当にキス、ですよ」
「そう。だからして欲しいの。言い訳なんか要らない。普通のキスがしたい。して欲しい」
「頬、触っても?」
「よろこんで」
「少し、腰に手を回しても?」
「そんな弱腰になるな。いつもどおりに、ね?」
「キスするの、はじめてなんで」
「ああ、そう言えばそうだね。でも、嫌だったらちゃんと嫌っていうから。まず、キミの好きにして」
「……目、瞑ってください」
「や。キミの顔見ながらキスしたい」
「――」
「んっ……」
「センパイは俺にとってとても親しい『特別な人』です。わかってもらえました?」
「うん、凄く伝わった。じゃあ私からも、ね?」
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