第94話 雨雨降れ降れ

「最近ずっと喫茶店すね」


「まあ梅雨だしね。屋上は使えないし食堂も人の目があるし」


「喫茶店なら良いって理由にはなりませんけどね。結構有名でしょ、ここ」


「でも私たちに興味を持たないでしょ。学食だと、噂の所為で変に注目されるし」


「まあ確かに。さて、今日は何頼もうかなー」


「女子より喫茶店のケーキを楽しむ180cm越えの男子とは」


「あ、これにしよう。『紫陽花のレアチーズケーキ』 梅雨らしい気がする」


「私はいつも通りでいいや」




「うめえ! センパイ、一口どうっすか?」


「あーん。ん! 色は紫が強くて食欲そそらないけど美味しい!」


「紫陽花の部分、これ寒天なんすね。カキ氷のブルーハワイみたいな感じ。その爽やかさとレアチーズの濃厚な甘み、そして紫陽花の葉はミントかな。絶妙なバランス!!」


「食レポかな? けど、ほんと美味しい」


「もう一口いります? はい、あーん」


「あーん。んー、美味しい! コーヒーに良く会う!!」




「あの学生、またいちゃついてるわよ」

「微笑ましいわねえ。私もあんな学生時代送りたかったわ」

「男子学生の子、ぱっと見怖面だけどケーキ食べてる時の顔ほんと可愛いわよねえ」

「女子学生のほうもクールなモデルさんみたいだけど、いっつもデレデレしてて可愛いわあ」


「お客様。大変恐縮なのですが、他のお客様のご迷惑になるのであまりそう言った事はお辞めください」


「あらやだ。マスターだっていっつもあの子達を見てニヤニヤしてるくせに」


「……せめてバレないようにしてくださいよ。居心地悪くなって、あの子らが通ってくれなくなったら恨みますからね。私の折角の楽しみを奪われたらやり甲斐がなくなりますので」


「ふふ、マスターも素直ねえ。そりゃ私たちのような暇を持て余した主婦の集まりより目の保養になるものねえ」


「ノーコメントとさせてください。ただ、あの子らの為に美味しいケーキを作るモチベーションにはなってますね。はい、これ、次にメニューに追加する予定の試作品です」


「あら、桃とメロンと――ふふ。梅雨が空けて、夏がきてもあの子らが来てくれるって信じてるのね」




「そろそろ夏休みっすねえ」


「そうね。箱根旅行いつにする?」


「8月中頃でいいんじゃないっすか。7月は俺バイトだし、8月頭はバイトが7月で終わりになる約束はされてないし」


「でもお盆は避けたいよねえ。かといって下旬に繰り下げるとお互い色々あって行けなくなる可能性もあるし」


「やっぱバイト断ろうかな。別に金には困ってないんすよね」


「それはだめでしょ。バスケ部エース君を裏切る事になるし、キミはキミでそういう機会がなければ夏の海に行かないでしょ」


「まあ、確かに。うーん……、やっぱ7月が約束通りバイトするけど8月は絶対に出来ないって念押しするかあ」


「それならお互い約束は違えてないしね。じゃあ8月の頭ぐらいにしようか」


「了解っす。どこに行きましょうか。彫刻の森? 星の王子様ミュージアム? 芦ノ湖?」


「そういう細かい……細かくないけど観光スポットは後で相談するとして、まずは温泉でしょ?」


「……え? 箱根に行って温泉ないとか、箱根の意味なくないっすか?」


「でしょ? だから混浴できる所でいい所ないかなあって」


「ユネッサンでいいでしょ……」


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