第89話 人間は思っているほど理性的ではない

「しっかし、欅ってやつもさ、なんであんな美人な先輩と付き合ってないなんて虚勢はるんかね」


「俺なら嘘でも自慢するわ。なんていうの? 『隠れて交際してる俺かっけえ』みたいな感じなんかね」


「学校で一番モテる榊も、そろそろやべえんじゃね?」


「いやー、俺モテるかどうか気にした事ないし。あいつはあいつで思うところあると思うんだよねえ。純粋に良い奴だし」


「つかさ、あいつ調子乗ってるよな。体育祭とか、色々目立ってるし」


「わかるー。だから美人な先輩との噂否定して、もっとモテようとしてる感じ?」


「体でかいだけで、別に顔は普通だし。俺と対して変わらないだろ。じゃあなんで俺はモテない?」


「身長だけならお前のほうがでかいしな。でもテクニックが伴わないよ。ゴール下の駆け引き、もうちょっと頑張ろうか?」


「は? 榊は俺よりあの木偶の坊のほうが上手いって思ってるの?」


「タイミングも考えないでジャンプして、結局いつもリバウンド負けてるでしょ。そこからカウンター貰ったのもう数えるの諦めたよ」


「おい……!!」


「まあまあまあ。完璧じゃないだけで、うちみたいな部活に本腰入れてない高校の部活にしてはやれてるでしょ? あと取られた分は俺のキレッキレのスリーポイントが――」


「ボール貰ったら、何も考えずシュートするくせに何言ってんの? 成功率2割以下なのにその所為で何度崩されてるかわからないの?」


「ちょっ、だからさ。俺らは部活より学問なの。学校の成績が一番大事なの。榊は真面目すぎ」


「そうそう。そういう真面目さが女子にモテるんだろうけどさ。でもだからこそ、あんな場違いな不良の欅とつるむのは――」


「――!!」


「……!?」


「ちょっと榊! どうしたの!? 完全に首閉まってるって!!」


「悪い。ついカっとなった。んで、謝れ。――俺だって、怒る時は怒るし、耐え難いなら傷つける事も厭わないぞ」


「けほっ! はあ? だって欅って学校外で喧嘩してるし、昔はもっと……ぎゃあ!?」


「バスケットボールはボールを手で扱う競技だよな。片手踏み潰されたお前、ただの木偶の坊になっちゃったな?」


「どうしたんだよ榊、落ち着けって!」


「親友を馬鹿にされて、ヘラヘラできるほど俺は腐ってないよ。ていうかさ、同じ部活だからって俺とお友達になったつもりなの? 俺は確かにモテる部類らしいけど、お前らそれ目当てで女子と近づきたいだけなの知ってるからな」


「いやそんなつもりはないよ……? でもほら、チームワークって大事だし」


「じゃあなんで試合で一番大事な場面でパスじゃなくて無茶なスリーポイントを狙う? 試合の度に言うよな。これはチームプレイだって。お前、いつも邪魔なんだよ」


「それは、俺は俺なりにチームのために貢献しようと! 2点より3点でしょ!」


「外してカウンター貰ってさらに2点も差を付けられるのがチームに貢献ね」


「外したのはたまたまで……」


「俺さっき言ったよな、お前のスリーの成功率2割以下って」


「……たまたま試合の時は調子悪いだけで、練習じゃもっと」


「はっきり言うけど、俺がポイントガードやっている限りお前は使わない。仮に監督の命令で試合に出ても、お前にはパスを出さない。他の奴が、たまたま『誰にも相手にされないからフリー』の場合、パスはあるかもしれないけど、お前のシュートには期待してない」


「おい! 榊さっきから言いたい放題じゃねえか! 喧嘩売ってんのかよ」


「あ、右手が使えない木偶の坊さん。売ってるよ? 俺の親友に喧嘩売っただろ? 買うよ? まず俺がな。……まーたあいつに『お人好し』だのなんだの言われるかもだけど、まああいつ相手に喧嘩売るよりマシだからさ……。これぐらい我慢しとけ!」


「ごほっ!」


「えっ、マジ? ちょっと鳩尾を蹴っただけなのに……。颯から教わったなんちゃって空手、通信空手ならぬ颯空手? めっちゃ実践的だな」


「ひっ!?」


「榊君、欅君とお友達。欅君とってもいい奴。不自然じゃない程度に噂流せよ?」

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