第88話 時と場合による
「どうしたん。なんかすっごく元気ないね」
「いや、まあ、ちょっと、色々と」
「お姉さんに話してごらん?」
「……また喧嘩しちまった」
「あー、うん。別に気にしなくてもいいんじゃない?」
「軽っ! いや喧嘩はよくないことですよ? 暴力よくない」
「そうだね、一般的にはそうだね。でもさ、どうせキミは誰かを助けるためでしょ? じゃあいいんじゃない?」
「俺、事情とかまったく話してないんですけど」
「キミは自分の事だと結構冷静だけど、誰かのためだと沸点凄く低いから、またそういうのかなって」
「まあ、そうですけど。でもこう、もっと上手い具合に平和に解決できないもんすかね。考える前に手が出る癖を直したいっす」
「キミがそう望むなら、努力あるのみだと思うけどさ。でもだからって『何もしない』なんて格好悪い事はしないでね」
「いやでも普通は暴力って良くないじゃないですか。良くない事をするのって格好悪いじゃないですか」
「なんで? そもそもさ、今回も含めてキミが暴力を振るう相手ってどういう人間?」
「今回は、ちょっと大人し目の中学生が派手な同級生? っぽい連中に脅されてた……ように見えたからつい。普段もいじめ?とかナンパ?とかそういうのに首突っ込んじゃった感じっすね」
「私、別に法律とかそういうの詳しくないけどさ。それって悪い事なの? そもそもさ、イジメてるほうが悪い奴でしょ? そういうの目にして、すぐ駆けつけて助けようってする人って普通いない、てかキミぐらいだと思うよ」
「でもやっぱ暴力は――」
「これも私の個人的な意見。口で色々『これは悪い事だ』なんて言ったって相手が『はい、わかりました』って納得して全て解決すると思う? そもそもそれでほとぼりが冷めても酷い目に会ってた子は今まで苦しんでた思いが解消される?」
「思います。俺は『今自分達がやっていることが悪い事で格好悪い事』という自覚がないから平然と、堂々と相手を傷つけられるんだと思います。……被害に会った子については、今の俺にはどうしていいかわからんす」
「他の手段が思いつかないなら、今のままででいいと思うよ。変に悩んで、見て見ぬふりするのが一番格好悪いからね?」
「でも、俺は……」
「バトル漫画の『俺はもう戦いたくない!』とか言う面倒くさい主人公の発想やめて。ほんと面倒くさい。いいじゃん、誰かを助けて悪い奴に痛い目に合わせる。勧善懲悪だよ。水戸黄門だって暴れん坊将軍だって鬼平だって剣客商売だって普通に悪人斬ってるでしょ」
「なんかちょっと例えが違う気がする」
「うっさい。まとめ。別にキミのしている事は完全に悪い事ではないの。平和的に解決ができたら理想だけど、そんな力はキミにはないし、キミ以外も持ってない。でも暴力なら誰かを救える。それはキミだからできるの。私じゃ無理、きっとキミ以外の大多数が無理。だから誇れ。誰かを助けた事を誇りなさい。そしてこれからも誰かを助けてあげて。それはキミにしかできないんだから」
「……いやでも」
「今みたいに辛いって思ったら、私がケーキ奢ってあげるし、抱きしめてあげるし、なんでもしてあげる。だからさ、誰かを助ける事を止めないで。この世の中寂しいけど辛い思いをしている、言い方はあれだけど『弱者』を救ってくれる人なんて滅多にいないんだよ。『弱者』をいたぶる『強者』とそれを見て見ぬ振りをする『強者』しかいないの。でもキミは『弱者』でも『強者』でもない。ありきたりだけど『正義の味方』だと私は思う。キミにはずっと『正義の味方』であってほしいと思うの」
「じゃあ、抱きしめてください」
「ん、喜んで」
「あとケーキ」
「いつもの喫茶店に行く?」
「……あと10分ぐらいしたら」
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