第87話 夏のご予定は?
「ごめん! 沖縄旅行中止になっちゃった!!」
「……は? なんの話っすか?」
「ええー、忘れちゃったの? 今年の夏休みは家族旅行にキミも連れて行くって言ったでしょ?」
「あれマジだったんすか? つかセンパイの誕生日に母君とはお会いしましたが父君にはお会いしてないので、そもそも無くなった話だと思ってましたよ」
「そう、それ! パパもね――父も私の誕生日ぐらい仕事休めるはずだったんだけど、あの日もどうしても出勤しないといけなくなったらしいの。それで夏も纏まった休みは難しそうだって……」
「労働基準法に接触してそうなら、うちの両親に話しましょうか?」
「そこでなんでキミのご両親が?」
「お袋も親父も弁護士」
「……おおう、キミがハイスペックな理由がちょっとわかった。あ、でも大丈夫。休日出勤するならその週に代休取れてるし。残業とかもあんまないんだけど、ただこの日どうしても出勤しないとってのが直前でわかるって感じ」
「でもまあ、楽しみにしてたんすよね。沖縄旅行」
「そうなの、折角キミと旅行できるって思ったのに」
「ん?」
「え?」
「いやもう掘り下げないんで。その、まあご友人と高校生活最後の夏休みを楽しんでください」
「そりゃもちろん。でもね、キミとの旅行は諦めてないから!」
「諦めて? 家族旅行できないんですよね?」
「箱根で避暑しよう? 2泊3日ぐらいで」
「俺、ほら海の家のバイトが」
「夏休み中ずっと? 違うよね?」
「……7月後半だけっす。8月になればバイト慣れした大学生がいくらでもいるらしいので。7月後半は学校によって課題やらなんやらで人が捕まり難いからだそうで」
「ほんとキミは正直だね。嫌なら嘘でもはいって言っておけばいいのに」
「いやそうすると普通にセンパイと会う事できなくなるじゃないっすか」
「ンッッ。ま、まあそうね。バイトしてるってなら、普通に遊びに行く時間も取れないってことだもんね」
「普通に遊びに行くのはむしろ嬉しいんですけど、流石に旅行はちょっと……」
「違いを述べよ」
「日帰りならまだいいかなって思ったけど、泊まりで? いや流石に普通じゃないっすよ」
「キミの家にお泊りデートしてる。違いを述べよ」
「それは両親いるし……」
「同じ部屋で寝てるのに? キミのご両親がいるいない関係なくない?」
「……一応確認です。当然別室ですよね?」
「当然同じ部屋です」
「…………。てい」
「あ痛っ。なんでデコピン!?」
「あのな? 普通はな? 男女がな? 同じな? 部屋でな? 寝泊りなんてな? ありえないんすよ?」
「2人で2部屋って実質4人分の宿代になるんだよ? ホテルとか旅館って2人部屋に1人で泊まっても2人分取られるんだよ? 勿体無いじゃん」
「だから、それも踏まえてありえねえって言いたいんすよ! せめてセンパイのご友人の鳳先輩と俺の親友連れて4人旅行ならギリありです!!」
「ヤダ。いいじゃん減るもんじゃないし。減ってもキミが理性を抑えきれず私の初めてが消えるだけ――痛っ!! 頭突きはなくない!?」
「はあ……。で、いつ頃に行きます? あと箱根って言っても色々ありますし、どの辺にします?」
「こら、頭突きした理由は? あとその『しょうがないなあ』っていうやる気ない感じやめて? 折角の旅行だよ?」
「頭突きした理由は単純に下ネタ挟んできたからつい。あと『やる気ない』っていうか『俺がもし歯止めが効かなくなったら』なんて憶測で断ってた事に自分で自分に呆れてただけです。俺がセンパイをその場の勢いで襲うなんてありないのに」
「……いや別に襲ってくれても、ああ、違う違う。そりゃやっぱ女子と同じ部屋で寝泊りするなら、もしかしてって思うよね、うんうん。おい待て、ありえないってどういう事? 私はキミから見て女じゃないって?」
「例えると……難しいな。ニュアンス違うかもしれないっすけど、センパイの父君が忙しい所為で沖縄旅行なくなった事に、怒りとか覚えます?」
「ないない。無理してないか心配だけど、だからって怒ったりしないよ」
「じゃあ、対して仲良くないクラスメイトと遊びに行く約束して、ドタキャンされたら? 理由は適当な感じで。バイト入れてたの忘れてた、みたいな本当に無責任な感じなの」
「それはちょっとムカつくかな」
「多分、そんな感じです」
「全然意味わからない」
「一般論とかさほど仲良くないとか、そういう『男がセンパイに対してどうするか』と『俺がセンパイに対してどうするか』がごっちゃ混ぜになってました。『俺がセンパイと旅行に行って同じ部屋で宿泊する事で、センパイを傷つけるわけ無い』って。そんな感じっすね」
「……つまり、一緒に旅行してくれるって思っていいんだよね?」
「もちろん。楽しみにしてます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます