第86話 七不思議はかく語る

「純はさ、七不思議って知ってる?」


「ん? トイレの花子さん的な?」


「おお、やっぱ有名なのか。そういうのうちの学校にあるの知らなくってさ。前にセン――、知り合いに聞いて、ああそんなのあるんだって」


「橘先輩は七不思議どれだけ知ってたの?」


「センパイから教えてもらったのはトイレの花子さんだけ……って、いや、ちゃうねん」


「なにがやねん。隠す気ないないでしょ。そういうのいいから」


「……まあ、あと実は7つもないのと、その割りに派生があるってのは聞いた」


「で、残りがどんな話か気になると」


「そんなところ。センパイもあんま詳しく無さそうだからさ。もし知ってたら聞きたいなあって」


「そうなあ。七不思議って語感が良いだけで7つもないのは事実っぽいね。けど、それでも学校内の噂で、誰もが興味ある話題じゃないと当然、七不思議はならない。おーけー?」


「7つも揃わないけど、興味ある噂じゃないとダメってことか」


「とまあ、そんな前提で『今一番話題の七不思議』を聞かせてあげようか」


「ホラーとかあんま好きじゃないけど、ちょっとワクワクする」


「『どう見たって恋人どうしなのに頑なに否定するカップル』」


「あ、ちょっと急にお腹が痛くなったんでごめん帰っていい?」


「まあまあ、折角のAランチ一口付けただけだし、勿体無いから全部食べきろうか」


「いや腹痛いのに飯食うの拷問でしょ」


「悪いようにはしないさ。これ見てよ」


 純から渡されたスマホを見ると、その画面がLINEのあるグループ会話だった。

 

『校門出た途端、当たり前のように腕組みしてる』

『最寄り駅で頬にキスしあってる』

『休日、仲良くデートしてる』

『廊下で橘先輩が欅に抱きついてた』


『付き合ってないとか嘘だろ!』


 俺は無言でスマホを純に返した。


「いやー、信憑性のある噂ほど盛り上がるよね!」


「俺じゃない俺じゃない俺じゃない」


「現実逃避はストップ。まあ噂も何も事実そのままなんだけどさ。そこからできた七不思議が『どう見たって恋人どうしなのに頑なに否定するカップル』ってわけ」


「そうなんだーそんなうわさがあるんだねー」


「なあ颯。客観的に見て、どう見たって颯と橘先輩は付き合ってるとしか思えないんだよ。なんで頑なに否定するん?」


「付き合ってないのは事実だし」


「じゃあ颯は橘先輩を恋人でもないのに、恋人相手にするような事を遊びでやってるって?」


「言い方! その、最近エスカレートしてるなあって思ってるけど、でも、その、そんなつもりじゃねえし……」


「好きでもない相手と腕組んだり頬にキスしたりデートするんだ」


「いや俺はセンパイの事好きだし――。今の聞かなかったことにしてくれませんか」


「お前ほんと自滅するよな。誰にも言わないし、まあ学食だけど小さい声だったし誰も聞いてないでしょ。で、颯はなんで頑なに否定するの?」


「事実だから。俺とセンパイは付き合ってない。これは本当。でも、まあだからって普通の交流関係から逸脱してる関係でもあるのは否定できない。こないだキスっぽいことや抱きしめあったりとかしたし」


「……想像以上な回答ありがとう。んで、付き合わない理由は?」


「笑うなよ? 絶対笑うなよ?」


「ん? まあ本気の悩みっぽいし、笑うわけないけど」


「センパイと付き合うってなったら、告白なりなんなりするだろ?」


「いやまあ今更っちゃあ今更だけど区切りつけるためには必要だね」


「断られたら?」


「は? はあ!?」


「俺が好きだから相手も好き。周りから見たら付き合ってるように見えるけど、それが本当かどうか。なあ、純。言動一つでお互いの関係、距離なんて幾らでも変わるんだぞ」


「……ああー、はいはい。えっとじゃあ『どう見たって恋人どうしなのに頑なに否定するカップル』の真実はただの臆病者ってことで、ちょっと噂に脚色して広まるようにしとくね」


「なあ、現状維持ってそんなダメなんか?」


「颯と橘先輩の関係は、噂から七不思議なるぐらい発展してるけど? まあ、とはいえ、本人同士の問題だし良いか悪いかはわからん。ただ告白して断られる事が怖くてこのままだらだらしてて、センパイが卒業して今より会う機会なくなったらどうすんの? そのまま自然消滅? もっと未来を――」


「未来か……。卒業後はある程度構ってくれるって言ってくれてるし、あとはセンパイの大学に進学できれば三年ぐらいは猶予があるか……」


「ごめん、改めて聞いていい? 『なんでお前ら付き合ってないの?』」

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