第82話 当たり前が当たり前ではない日

 今日はセンパイは学校を休んでいる。

 理由は推薦先の大学に形式上の面接に行っているための公休だ。

 体調不良とかならば、お見舞いで会う口実もできるが、流石に今回は理由がない。

 

「どうした、元気ないけど風邪?」


「そういうのじゃないけど。まあ、色々と」


「ふーん。もしかして今日、橘先輩と会えないとか?」


「俺が元気ないのと、センパイの話が出てくるのはおかしいと思うんだが。まあセンパイは確かに休みだよ」


「えっ、風邪でも引いたの!?」


「いや、推薦先の大学の面接」


「それで橘先輩に会えなくて寂しいと?」


「それは……、違うとは言い切れないけど、あんま肯定したくない」


「それもう『橘先輩と会えなくて寂しい』って言ってるもんじゃんか」


「かもしれない。けど、なんでだろ、理由がわからないから、認めたくない」


「あー、拗らせまくってる親友に一言。考えすぎ。仲の良い人に会えなくて寂しいって思う理由って必要? 俺は颯が学校休んだら寂しいよ。お前は?」


「まあ、俺も純が急に休みになったら、寂しいな」


「だろ? で、橘先輩との場合『彼女』とか『恋人』とか、そういう噂で、会えないのを認めるとその噂も認めるかも、とか面倒な事考えてるんだろ?」


「……、悪いかよ」


「ああ、悪いね。自分の気持ちにややこしい理由をつけて嘘を付いてるのもだけどさ。橘先輩も『会えなくて寂しい』って思う可能性、考えた?」


「いや、でも――」


「らしくないね。親友の俺にぐらい本音で言ってくれよ。『会いたいの?』 理由はいらない。本心を聞きたい。今回の事を認めたからって噂がどうこうなんて関係ないから」


「会いたい」


「んじゃ、ラインなりなんなりでなんとかしなよ。連絡がまったく出来ないわねじゃないよね」


「わかった。ちょっと、がんばってみる。あと、ありがと」


「これぐらい親友なら当たり前。あっ、明日の昼、Aランチごちな」


「はいはい。それぐらいなら」




『面接、どうでしたか?』


 俺からセンパイに連絡をすることって、もしかして初めてかもしれない。

 メッセージ送信から大体一時間ぐらいしたあとに


『うん、特に問題なさそう。多分』


『よかったです。あの、この後お時間あります?』


『今日は面接だけして、そのまま直帰していいって言われてるから、空いてるよ』


『ちょっと気が早いかもしれないですけど、祝勝会って感じでいつもの喫茶店に行きません?」


『んん? 珍しい。キミからお誘いなんて。今日私に会えなくて寂しかったとか?」


『はい。なんで、会いたいです』


『わかつたもう面接終わてるから放課ごいつもの時間ぐあいにおいで』


 めっちゃ誤字ってる。




「センパイ、会いたかったです」


「ンンンッッッ!?」


「親友に言われて、気づいたんです。俺、噂に振り回されてました。俺、センパイに毎日会いたいです」


「急にどうした!?」


「センパイに会いたくないそぶりとか、嫌がってる感じを時々してましたけど、あれ最近はほとんど嘘です。噂を認めるような気がして、自分の気持ちに嘘をついてました。今日、センパイが休みで、会えないって思ったら、凄く辛くて。だから、もう会えるのに断る風なことはしません」


「それ、愛の告白?」


「いいえ? 違いますけど」


「まあ、うん、いいけど。じゃあ毎日会いたいって誘っていい?」


「はい。俺からも、今日みたいに会いたいって連絡します」


「そ。うん、まあ、一歩前進かな」


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