第79話 春暁
「膝貸して」
「急になんなんすか? 別にいいっすけど、でもまだ昼休み始まったばかりっすよ? 飯は?」
「空いてない。それより、なんか今日すっごく眠いの。授業中も寝たいわけじゃないのに瞼が開かないっていうか、自然と瞼が閉じてそのまま意識がぼーっとしててさ」
「夜更かしでもしたんすか?」
「ううん、いつも通りの時間に寝たけど……。ああ、ちょっとアレで夜中起きちゃったりとかしたかな」
「アレ?」
「うん、アレ。あまり詳しくは聞かないで?」
「ああー、はい。で、今は眠気以外大丈夫なんす?」
「詳しく聞かないでって言ってるのに。まあ、重たいほうじゃないから大丈夫。眠いだけ」
「よかった。栄養も取ったほうがいいと思うんすけど、そこまで眠いなら昼休みぐらいゆっくり休んでください」
「ん、ありがと」
センパイは俺の膝を枕代わりにすると、驚くほどすぐに寝息を立てた。
すうすう、と可愛い寝息だ。
枕代、という理由でセンパイの作ったお弁当をいただく。
――俺も俺でセンパイ用の弁当作ってきてるんだが、まあ渡すだけ渡して、お腹空いた頃に食べてもらおう。
睡眠も大事だけど、食事も大事だ。
特に――、いやセンパイはこの話題にふれるなと言ってたし、それ以上は止そう。
センパイの頭をゆっくりと撫でる。
けど反応はない。
本当にぐっすりと眠っているようだ。
そのまま俺は、俺の心行くまでセンパイの綺麗な髪の毛を撫で続けた。
「センパイ、もう昼休み終わりっすよ。起きてください」
「んん……もうそんな時間なの……? もうこのままサボっちゃおうよ……」
「推薦組がそんな事して、取り消されても知りませんよ?」
「それは……困る…けど……」
「センパイが推薦取り消されて、本来なら行くはずの大学とは違う所に進学したら、俺の今までの勉強の努力無駄になるんすけど。てか別にセンパイがいなくてもこのまま同じ進路にしますけど?」
「やだ……それ、やだ……。キミと同じ大学じゃないとダメなの……」
「だったらほら、起きてください。センパイのほうから起きないなら、無理矢理起こしますよ?」
「ん……? ンンッッッッ!!??」
「センパイ、耳弱いんですから、こうやって耳たぶを撫でると?」
「気持ち良い……もっと……」
「意外と手ごわいな。それじゃ、よっと」
未だ俺の膝で寝ているセンパイの腰を持って無理矢理起こす。
そのまま膝上に乗せて、『頬ちゅっ』と『耳噛み』をする。
「ンンンッッッッッッッ!!!!」
「どうっすか。さすがにもう目が覚めたでしょ?」
「すうすう。もっと」
「嘘寝やめなさい。てか露骨でしょ」
「どうしても私に起きて欲しいなら、わかるでしょ?」
「俺は王子様でもないし、センパイは毒リンゴを食べるような迂闊なお姫様じゃないっす」
「いいの。女の子を目覚めさせるのは、いつだってそれって決まってるの」
「……もう片方の頬にキスするだけっすからね」
と言いつつ、耳を甘噛みして驚かせた後に優しく頬に口付けをした。
「おはようございます」
「――おはようございます」
「ほんとどうしようもなく気分が悪くなったら保健室なり早退なりしてくださいね」
「多分、大丈夫。目が冴えたし……嬉しさでどきどきして」
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