第77話 気だるい日

「じめじめして暑い。微妙に天気悪くて頭痛てえ……」


「降水確率60%、雨が降りそうで降らなさそうな天気だね」


「今日は帰っていいっすか?」


「んー、まあ私もこんな天気じゃ屋上に居ても居心地悪いし、いつもの喫茶店に行く?」


「あー、そうしますか。こういう日は甘いもので解決です」




「珍しい、ショートケーキなんだ。キミっていつもちょっと凝ったケーキを頼んでるよね」


「センパイこそフルーツタルトなんて珍しいっすね」


「なんか、お互いいつも頼んでるのと逆って感じだね」


「そういう日なんすよ。こう、微妙に気だるい日は」


「そういうものかな?」


「さあ、適当に言っただけっすから」


「おいおい」


「まあでも頼んで正解っす。シンプルに美味しい」


「私も。フルーツの独特の酸味がたまらない」


「……センパイ、あーん」


「あーん。どうしたの? 普段キミからあーんなんてしてくれないのに」


「気分です。だから、その」


「そういうこと。はい、あーん」


「あーん。んー! 美味い!」


「キミのショートケーキも美味しかったよ。ふふっ、なんか二種類頼んで得した気分だね」


「そうっすね。気分転換って大事っすね」


「じゃあ気分転換にさ、普段あまり話さない事話してみようよ」


「例えば?」


「学校とか休みの日に何してるかってのはわりと普段してるし、そうだなあ。何かない?」


「話を降った本人が話題提起を放棄するの? まあ、いいっすけど。そうっすね。好きな野球――」


「政治と野球と宗教の話は禁止、おっけー?」


「大人でもあるまいし」


「てかキミ、野球に興味あるの?」


「いや全然」


「じゃあなんで話を振った!?」


「無難かなって」


「無難どころが完全アウトだけど? じゃあ、好きな芸能人」


「んー、あんま興味ないんすけど、結局映画俳優になりますよ。概ね海外の」


「それだと私がわからないかもなあ。好きな食べ物……はなんとなくわかってるし、嫌いな食べ物は?」


「ピーマン」


「なんかすっごく子供っぽい」


「まず味自体苦手です。独特の苦味ってんですかね。あと色。あんな緑緑した食べ物をよく食べれますね」


「私も子供の頃は苦手だったけど」


「嫌いなものを嫌いと言って何が悪いんですかね。特にピーマンは『食べられないのは子供』とかいう横暴な先入観。歳関係なく、嫌いな味なだけってのに」


「私はプチトマトが苦手。食べれるけど、あの酸っぱさと触感が苦手。普通のトマトは大丈夫なんだけど」


「あー、わかります。だから俺、弁当にあまり入れないようにしてます」


「お弁当の定番扱いだしね。だからキミのお弁当見てるとほっとする」


「……意外と嫌いなものとか苦手なものでも話って盛り上がりますね」


「ん? そりゃあお互い知らない事を赤裸々に話してるんだもの」


「嫌いとか苦手ってネガティブな考えじゃないっすか。なんかもうちょっと話てて嫌な気分になるのかなあって思ってました」


「そんなのことないよ。誰かを嫌いだ苦手だって陰口ならともかく、自分の弱点をさらけ出してるだけだし。恥かしい部分はあるけど、いやな気分になんてならないよ」


「そういうもんすかね」


「そ。自分の事だし、嫌いだとか苦手だとか素直に認められるのは良いことだよ。それを誰かに話せるって、それも凄く大事な事」


「なんか、センパイが先輩らしい」


「おい。私はいつだって頼れる先輩ですから」


「すんません、お礼と謝罪をこめて。あーん」


「あーん。んー! やっぱ美味しい!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る