第75話 心からおめでとう

「俺、誕生日会なんて始めて呼ばれました。てか女性相手だし、余計に何するのかわからないんですけど」


「え? お菓子食べて適当に映画とか見ながら雑談する感じじゃない?」


「……それ、なんか特別な感じなさすぎじゃないっすか」


「うん、特別じゃなくていいの。私が生まれて、産んでもらって。それが当たり前ってことに感謝する会なの」


「なるほど。いつも通りが感謝になると」


「そ。だからキミは『私が生まれてありがとう』って行動で示して?」


「『頭撫で』? それともやっぱ『頬ちゅっ』っすか?」


「こら待て、私が居るの忘れないで? 普通に何二人だけの雰囲気出してるのさ!」


「いや別に見られ困る事じゃなかったから……」


「困れ! そんなんだから学校でも――。ああもう、まあ桜の誕生日だし? 好きなようにしたら!?」


「なんか急に気まずい感じになりました。どうしましょ」


「ほらー、奏の所為だからねー」


「いやいや、私は至極全うな意見を言ってるから。普通、第三者の前でイチャイチャする? そしてあんたたち、付き合ってないって言ってるんでしょ」


「ええ、噂は噂です。事実じゃないです」

「一応そうね。そうなってる」


「この場じゃなくなっていつもイチャイチャ学校でして、付き合ってませんっておかしいでしょ!」


「俺らイチャイチャしてます?」


「普通に仲の良い先輩後輩だよね」


「もういい。うん、好きにして。あくまで桜の誕生日、主役は桜。もう何も言いません」


「ありがと。てことで、プレゼント頂戴」


「ああ、そうですね。はいこれ。ハンドクリームです。センパイって時々手が乾燥してるんで、少しでもケアをと」


「……ありがと。え、いや、その、あの時のネックレスは?」


「もちろん用意してます。でもネックレスは誕生日とは違うお礼です。だから別に用意しました」


「そっか、うん、ありがと。で、ネックレスは?」


「ここに。センパイ、こっち来て下さい」


「ん。ほら、付けてよ」


「俺目線で申し訳ないですけど、これがセンパイに一番似合うと思って用意しました。やっぱり、凄く似合ってます」


「ありがと。ほれ、そこから?」


「『頬ちゅ』すね。あ、肩握っても?」


「うん、いいよ」


「んっ。センパイ、改めてお誕生日おめでとうございます。センパイが居てくれて、産まれてきて、センパイの親御さんに育てられてくれて、本当にありがとうございます」


「うん、ありがと。私も嬉しいよ。ハンドクリームもこれ密かにブームの奴だし、ネックレスも綺麗で、私好み。キミに大切にされてるって感じがして、凄く嬉しいよ」


「あー、助けてー。この激甘空間に居させられる私を誰か救ってー」

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