第74話 おめでとう

「今日は娘さんのお祝いの席にお呼びいただきありがとうございます。これ、我が家の近所で評判が良い和菓子です。お口に合えば幸いですのでお受け取りください」


「どうも、こちらこそ桜の誕生日会に来てくれて嬉しいわ。男の子が来るなんて初めてだし、あの子も成長したのねえ」




「……、ちょっと桜! なにこの子!! 聞いてたイメージと全然違うんだけど!!」


「あー、うーん。ごめん。あの子、わりと真面目っていうか、真面目すぎて予想外な事するっていうか」


「お土産渡す時に『つまらないものですが』以外の言葉を使われたの初めてなんだけど!?」


「落ち着いて。どうどう。あの子は、そういうちょっと変わってるけど普通に良い子だから。ね?」


「さすが我が娘。男嫌いとかいいつつ良い男捕まえてきたわね」


「言い方! 別にあの子とはそういんじゃないし。いつも言ってるでしょ」


「むしろ絶対に捕まえておきなさい。私がパパに惚れた時と同じよ。絶対に掴んで離すものか!ってオーラが出てるよあの子。桜にお似合い」


「……ママから見ても、やっぱあの子は良い男に見えるの?」


「そうね、パパの次ぐらいにはね」


「そ。まあどう言われても、私とあの子との繋がり方は変えるつもりないし」


「いいのよそれで。桜は欅君の事、好きなんでしょ」


「なんで自分の誕生日に、ママと恋バナしないといけないの。友達待たせてるし、もう戻っていい?」


「私の問いに、言葉で返す必要はないわ。でも答えは心の中でいいから、早めにだしてね」


「……好きに決まってんじゃん」


「ああ、青春!!」




「あの、センパイ。嫌がらせっすか。男俺だけ、知らない女性の先輩がいる部屋に放置とか、死ぬほど辛いんすけど」


「桜! いくらあんたの話や噂で知ってる奴とはいえ、この状況はめっちゃ気まずいんだけど!!」


「? ああ、『これは鳳奏、私の親友』 『こっちは欅颯、私の後輩』」


「情報不足! てかそれすらしないで放り投げないで!? そもそもどう声掛けていいかまったくわかんなかったし!」


「一応、場違いな身という自覚はあったんで黙っておきました」


「うーん、気にしなくてもいいのに」


「一番気にする人の言う事かよ!」

「一番気にする人の言う事かよ!」


「じゃあ折角だし、改めて自己紹介とかしたら?」


「なんか、お見合いみたいな構図じゃない? いいの?」


「……改めて自己紹介と言われると、何をどうしたら」


「ああもう二人とも面倒くさい。自己紹介、ざっくりでいいから。クラス変わった時のアレな感じでもいいから」


「えっと、欅颯って言います。同じ高校の二年で、鳳先輩の後輩になります。趣味は映画で、あとは、うーん。ごく普通のどこにでもいる男子高校生です。センパイとは日頃良くしていただいているので、この場にお呼ばれされました」


「あんたみたいなのがどこにでも居てたまるか! っと、鳳奏です。三年なんであんたの先輩になります。桜とは入学時からの親友で、運よくずっと同じクラスです。女子には愛想いい割に、なんだかんだで壁が厚いんで、こういう特別な場には私とあんたしか呼ばれてないと思ってます。よろしく」


「さらっと私をディスった?」


「じゃあもっと他にも誘えよー。ゆっちんとかちゃーとかも呼んでると思ったのに『今日は奏と後輩だけだから』って言われてごらんよ。ビビるわ」


「だって誕生日って、結構大事じゃない? 産まれてきた事にありがとうを言ってもらえて、産んでもらえてありがとうと言う場だよ? 気軽に誘えないって」


「欅後輩。この考え、どう思う」


「? いやセンパイらしくていいんじゃないっすか?」


「……え? 私がおかしいの? あれ? ていうか、どうせあんたらいつもみたいにいちゃつくんでしょ? それ見せ付けられるの? は? 地獄かよ!」

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