第72話 ちょっと遠くまで

「旅行に行くとしたら、どこに行きたい?」


「箱根」


「結構近い、てか県内だよね。そうじゃなくて、海外でもいいんだよ?」


「じゃあ小田原」


「むしろ近づいてる! なんなの、東海道線ユーザーなの!?」


「移動時間が勿体無い。あと飛行機嫌い。新幹線は……、まあ強いて言えばありなんで、函館あたりならって感じです」


「札幌じゃなくて?」


「北海道新幹線が札幌まで開通したら考えます。いや函館までの時間と同じぐらいローカル線で札幌行くとか地獄でしょ」


「うん、まあ確かに。北海道新幹線が札幌まで開通するのっていつだっけ」


「2030年ぐらいっすね。あと10年以上はかかります」


「そっか。そしたらさ、その時は一緒に札幌に行こうよ」


「……10年以上先の話ですよ」


「お互いアラサーだね。でもいいんじゃない? 学生旅行よりちょっとお金に余裕できてるし、美味しいもの気兼ねなく食べに行こうよ。蟹食べたい、いくらも!」


「お互い独身で、恋人もいなければ行きましょうか」


「ん? あー、そだねー」


「センパイは行きたいところってあるんすか?」


「沖縄。からっとした暑さがいいんだよねえ」


「一生縁の無さそうな場所っすわ。沖縄イコール海っていうか」


「いやきっとキミの思ってる海と違うから、一緒に行こうよ」


「は? え?」


「今年の家族旅行さ、海外じゃなくて沖縄にしようって父が言っててね」


「うん、それでどうして俺が一緒に行くって話になるんす?」


「今度、私の誕生日会にキミが来る。キミはきっと両親に気に入られる。だから一緒に旅行。ほら、男は父だけだからさ」


「その理屈はおかしい。まだ会ってもないのに」


「確定じゃないけど、そうなる可能性が高いよって、一応今のうちに言ってるだけ」


「……飛行機嫌いって言いましたよね」


「じゃあフェリーにする? いいんじゃない? パパ……父もいっぱい休んで欲しいし、ゆっくりしてて欲しいし。フェリーで2週間ぐらいゆっくりとした休みもいいかなって」


「俺、実は船も――」


「無駄に嘘つかない。バレバレだから」


「家族旅行に、部外者がいていいんすか。親子水入らずって言うじゃないですか」


「それを決めるのは私、いや私たち。気にしないで。あ、旅費はもちろんうちで出すから気にしなくていいよ」


「いやそうじゃなくて――」


「今週の誕生日会が、そういった意味だとある意味試験? かもね。がんば」


「逃げていいっすか」


「ダメ。約束したでしょ。皆の前で、キミが用意したネックレスを付けてくれるって」


「ネックレス、捨ててもいいですか?」


「その代償に、キミが私の初めてを捨てさせるようにするけど」


「あれーおっかしいなあ。どう転んでも詰んでる」


「そ。詰んでるの。で、沖縄で何したい?」


「考えときます。沖縄に行くなんて事、想像もしたことなかったんで」


「うん、よしよし」

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